オーブリー&マチュリン「21」(その11)

"squadron"と"fleet"は、日本語では両方「艦隊」と訳されているのでややこしいのですが、正確にはsquadronは「小艦隊」、大規模なfleetを構成する組織単位です。ジャックの率いることになる「青色艦隊」はBlue Squadron、南アフリカ艦隊(South African Fleet)を構成する小艦隊のひとつです。つまり、fleet全体の指揮官がいて、その人がジャックの上官になるわけ。

南アフリカ艦隊の司令官はレイトン提督。ジャックはサフォーク号に正式に着任した後、さっそく提督の旗艦に挨拶に行きます。

提督は、今までの航海では寄港する港がことごとく非友好的だったので、艦隊が(サプライズ号と同じく)補給に非常に苦労して、現在の艦隊は食料をはじめとする物資が何もかも足りなくなっている、と語り、いきなり思い切り不機嫌そうです。ジャックは、教皇特使サムのとりなしで当地の政府と友好関係が結べたおかげでブエノスアイレスでの補給はまったく心配ないことを話すと、そのことは一応喜ぶのですが、不機嫌が直った様子はなく。どうも恒常的にイライラしているタイプのようで、艦隊司令官ってみんなこうなんでしょうかね。過大なストレスのせいだろうか。とにかく、あまりジャックとはウマが合いそうにないタイプです。

ジャックが正式に英国海軍の少将(rear-admiral)として着任したと同時に、サプライズ号は「英国海軍雇用艦」としての身分を失ってただの一民間船となり、これから英国に里帰りすることになっています。サフォーク号が黄熱病で多くの乗員を失って人手不足なので、ジャックはサプライズ号から数十名のシップメイトを連れて行くことにして、志願者を募ることにします。

水兵たちにすれば、ここでサフォーク号に移ればこのままアフリカに行くことになるので里帰りのチャンスを逃してしまいますが、その代わり職にあぶれる心配はなく、このままジャックのもとで、大勢の馴染みの仲間と共に働ける。サプライズに残れば英国に帰って家族の顔を見られるけれど、その後の生活の保障はない、なかなか難しい決断ですが、ほとんどの水兵たちはもう心を決めているようです。

さて、サフォーク号が英国からの郵便を運んできてくれたので、ジャックのもとにはソフィーの手紙、スティーブンのもとにはウールコムに滞在しているクリスティーンの手紙がたくさん届いています。ソフィーの手紙によれば、ウールコムは有能な管理人により順調に運営されていて、子供たちも元気で、世はすべてこともなしのようなのですが...そのわりに、ソフィーの手紙には、そこはかとない不幸の響きというか、いやな雰囲気があるようにジャックは感じます。ソフィーには手紙に日付を入れるのを忘れる悪い癖があるのと、ネガティブなことをはっきり書かない性格なのとで、どうも原因がよくわからないのですが...

「兄弟、ぼくは今日は、ついに念願の提督旗を揚げたのと、レイトン卿と話したり他の初対面の人々と会ったせいでちょっとぼーっとしているから、この手紙が何のことやらわからないのだけど...」ジャックはスティーブンに聞きました。「どうやら仲がよくないらしいってことしかわからないのだけど。君の手紙には、何か書いてある?」

ティーブンのところには、ソフィーと一緒に住んでいるクリスティーンの手紙が来ていて、クリスティーンの手紙にはばっちり日付が入っていて、事実の観察ぶりもずっと具体的なようです。なにしろ科学者ですからね。

つまり問題は、オーブリー家の双子と、スティーブンの娘のブリジッドの仲が良くないことらしいのですが...