How I Met Your Mother(ママと恋に落ちるまで)にハマり中(4)

ニューズウィークの記事において、挙げられている役の例や「leading man」という言い方からしても、Setoodeh氏が問題にしているのはアクション映画のマッチョヒーローとかではなく、「ロマコメなど、男女の恋愛モノの男性側主役」、つまりロマンティック・リード(romantic lead)をゲイの男優が演じる場合なのだと思います。

さて「How I Met Your Mother(ママと恋に落ちるまで)」というSitcomは、男女が出会って恋をして、紆余曲折の末結ばれるまでをコメディタッチで描くという、まさに典型的ロマコメであるわけなんですが...

<以下、話の内容上どうしてもHow I Met Your Mother 第3シーズン以降のネタバレになります>

ちょっと変わっているのは、主人公のテッドが冒頭で出会って一目惚れする女性、2時間のロマコメ映画ならまさにラストで主人公と結ばれて終わる立場の女性が、第一話のオチで「彼の未来の妻ではない」ということが判明してしまうことですね。(「...というわけで子供たち、これがパパと『ロビンおばさん』が出逢った時の話だよ。」「えー、ロビンおばさん?ママと出逢った時の話だと思って聞いてたのに!」「まあまあ、この話はまだまだ先があるんだよ〜」)

というわけで以後7シーズンにわたって、テッドは数多の女性とデートを繰り返しているわけですが、題名の「ママ」(未来の妻)はまだ現れぬまま。でも、相手がどんな女性で、どこでどうやって出逢うのか、ほんのちょっとずつヒントが出ていて、だからテッドがどんな女性と付き合っても、ほとんどの場合「これは『ママ』ではない」と視聴者に分かってしまうのが難点なのですが...

とは言え、訳あり女性とばかり次々にデートするテッドの悪戦苦闘は、それはそれで面白いのですが。まあそういう特殊事情があり、また主要5人のうち2人(マーシャルとリリー)が安定カップルだということもあって(リリーの妊娠とかマーシャルの失業とか、それはそれで色々ネタはあるのですが)...「最終的にはくっつくということが見え見えで、いいかげん回り道はやめてさっさとくっつけんかと視聴者も思っているけれど、くっついてしまうと番組終わるし」というカップル、つまりは「『フレンズ』のロスとレイチェル」に該当するのが、バーニーとロビンなのです。(...いや、まだ先があるから断言はできないけど。たぶん。)

基本的にカワイイ、いい人系のキャラだったロスとレイチェルと違って、バーニーとロビンは二人とも癖のあるキャラで、どっか壊れているというか欠損を抱えていて、その欠損で繋がっているという感じがあって、それがまた味わい深いのですが...まあそれはともかく。

結末がどうなるかはともかく、そういうわけで最初は「主人公を引っ張りまわす遊び人の友人」という役廻りだったバーニーも、第3シーズン以降「ロマンティック・リード」になることが多くて、これがまた良いのだなあ。

バーニーが切ない恋なんかしていると、今までこの男が女性関係でどんなメチャクチャをしていたかはうっかり棚上げして、つい応援したくなったりしてしまうのがこのキャラの不思議なところでして。その不思議さに比べたら、演じる俳優が実生活でゲイであることなんて、まあどーでもよいかも。

...と、「今は」思えるのですが、でも。

ニール・パトリック・ハリスが公式にカムアウトしたのは2006年11月、この番組の第2シーズン目の初め頃のことで、つまりバーニー・スティンソンというストレートのキャラを演じている「途中で」カムアウトしたわけです(まあ、スタッフとか周りの人はその前から知っていたと思いますが)。

世間にカムアウトすることで、今までと演技は変わらなくても、彼の演じている役に対する視聴者の認識が変わり、最悪、番組の失敗に繋がるというリスクは認識されていたんじゃないか...とか、まあそのへんは想像するしかないのですが...

でも結果としては、第2シーズン以降のバーニーはますます面白いキャラになっているし、番組の人気も上がったし、NPHのキャリアも、カムアウトしてからかえって急上昇した感じで、めでたいことです。

もちろんそれは本人の才能と努力に幸運も重なってのことで、誰でもそう上手くゆくわけじゃないというのはわかるんですけど。実際、ルパート・エヴェレットみたいに、カムアウトしてから役柄が限定されてキャリアにマイナスになったとして、若い俳優にカムアウトしないように勧めている人もいるし。職業上のイメージ戦略としてカムアウトしないのは、それはそれで責められることじゃないとは思うけど。

でも、イメージ戦略と言っても、トム・クルーズが身長をちょっと高めに公称していた、ぐらいのこととは訳が違うからなあ。ゲイは人口の10分の1ぐらいと言われていて(俳優の場合、もうちょっと割合多いかもしれん)、そんなに多くの人が、職業的要請で自分の生活のそれほど大きな部分を秘密にしなきゃならないなんて、考えただけで息苦しいじゃないですか。

だから、NPHのような「前例」がいるのは、すごくいいことだなあと思うのです。