【追記あり】警官と消防士のクリスマス(本年最後のThe Daily Show)

The Daily Show with Jon Stewart 2010/12/16 9-11 First Responders React to the Senate Filibuster

The Daily Show with Jon StewartとThe Colbert Reportは、16日(木)を最後にホリデー休暇に入ってます。が、その今年最後のThe Daily Showが、ホリデーシーズンのアメリカで反響を呼んでいるようです。

内容は、8月のエントリーでも取り上げた、「9.11 救援者の医療補助法案」について。崩壊したワールド・トレード・センターで救援活動を行った際に有毒な粉塵を吸ったことが原因の肺病で2006年に亡くなった警官の名にちなみ「Zadroga法案 (James Zadroga 9/11 Health and Compensation Act)」と呼ばれています。

http://navy.ap.teacup.com/kumiko-meru/1104.html

この時点から4ヶ月以上も経っているのに、まだ可決されていないんですよこれが。しかも11月の中間選挙民主党議席を減らしているので、改選前の議員で行う最後であるこの会期(lame duck sessionと呼ばれる)を逃し、来年共和党優位の議会になったら、もう二度と可決されるチャンスはないかもしれません。

少数派である共和党が簡単に法案をブロックできてしまう米上院のシステムにも問題があるようですが、それはそれとして、そもそも、この法案をブロックする理由がどこにあるのか。共和党議員が言い訳しているように、「主旨には賛成だが、内容に問題がある」というのだったら、さっさと対案を出すか、もっと積極的に話し合ってとっくに妥協点を見つけているべきだし。もう何年も前から遡上に上がっている法案なのだから。つまり共和党は、何かというと9-11、9-11と散々利用しているわりには、実際の被害者のことは気にかけていないかのうようです。

9-11当時、ワールド・トレード・センターから10ブロックあまりのところに住んでいたニューヨーカーのジョンは、この問題は特に気にかけているので、8月の時点でもかなり怒り心頭な感じでしたが、この今年最後の放送では、ついに30分の放送の全てを、シリアスモードに切り替えて、この法案の問題に捧げました。

なぜならジョンは、法案をブロックしている共和党もさることながら、この問題をまったく取り上げないネットワークのニュースにも腹を立てているからです。

The Daily Show with Jon Stewart 2010/12/16 Worst Responders

ネットワークが夜のニュースでまったく取り上げていないのに加えて、何かというと9-11、9-11とうるさいFOXニュースも、まったく取り上げていませんでした。

FOXニュース(モスク反対の番組で):...私はワールド・トレード・センターに貸し金庫を持っていました。(黒焦げになった札束を示して)これが、その金庫の中身です。私がこの問題にこれほど情熱的なのは、これが理由です。

ジョン・スチュワート:ああ。あの日、我々は多くの素晴らしい現金を失ったよね。

だったら、あなたの黒焦げの現金を命がけで回収してきた人々の健康にかかわる法案がブロックされていることは、さぞ気にしているだろうね。

ところが、ワールド・トレード・センター跡の近くにモスク(正しくはイスラム教コミュニティ・センター)が出来ることではあんなに時間を使って大騒ぎして、NYPD(ニューヨーク市警)の警官まで引っ張り出していたFOXニュースは、この件は一人のキャスターが一度だけちらりと言及したのみ、しかも共和党がこの法案をブロックしていることには触れずじまい。

ところが、この法案の問題を、20数分もかけてじっくりカバーしていたテレビ局がひとつだけあったのです...それが、アル・ジャジーラ

ジョン・スチュワート:他ならぬ9−11のことで、アメリカのメディアは残らず、よりによって「ビン・ラディンがミックス・テープを送ったテレビ局」にスクープされたんだ!

このオープニングのセグメントに続いて、ジョンは、4人のファースト・レスポンダー(9−11の発生当初から救援に当たった人々)、今はその時の粉塵などが原因で癌や心臓病や呼吸器系の病気で苦しんでいる警官や消防隊員をゲストに招きました。

このセグメントで特に印象的なのは二つ、ひとつは、ジョンが共和党のミッチ・マコネル議員が行った「とてもに感情に溢れたスピーチ」のビデオを流した時…ただし、9−11の救援者たちについてではなく、今月で引退する議員仲間についてのスピーチ。

6年間一緒に議員を勤めた仲間を失うことで、涙で声をつまらせるマコネル議員を見て、消防隊の一人が「昼飯仲間がいなくなることで涙を流す気持ちはあるのに、我々への...この4人だけじゃなく、われわれの多くの(消防署・警察の)兄弟姉妹への気持ちはどこにあるのだろう」と言い、癌闘病中の元警官は「議員は、引退する仲間が議場から『歩み去る』ことを悲しんでいたが、何百人もの我々の仲間は『歩み去る』ことさえできない、もう歩けなくなっているから」と...

もうひとつは、ブロックされているこの法案の投票にこぎつけるまで、クリスマスも年末も通して議会をやったらどうかという提案に対して、共和党の議員が「議員の多くはキリスト教徒なのに、キリスト教最大の休日二つのうち一つを休みにしないで働かせるのは、宗教をないがしろにする失礼なことだ」と反対した、ということに対して、元警官が「我々はしばしば、クリスマスも関係なく夜通し働いたが、それが失礼だなんて感じたことはない」と言ったこと。(観客拍手喝采。)

そう、クリスマスは、安息日じゃないんですから。人のためになることならいつもより一生懸命やるのが、本来のクリスマスの精神。まあ、その「人」ってのは、たいがいの場合は自分の家族や恋人になるわけで、そうであっても別にかまわないわけですが...

でも、他人のためにクリスマスに働くのが当たり前の人生を過ごしてきた人々が苦しんでいる時に、その人たちのための法案を審議するっていう自分の仕事もできないなんて。クリスチャンの風上にも置けませんがな。

さて、この本年最後の「The Daily Show」は、特に4人のFirst Responderが自ら語ったセグメントは、かなりの反響を呼んでいます。「まったく取り扱っていない」と言われたネットワークニュースでは、ABCが翌日のニュースで、このセグメントも込みでこの法案のことを取り上げ、

http://abcnews.go.com/Politics/jon-stewart-rants-republican-filibuster-911-responder-bill/story?id=12422872&tqkw=&tqshow=WN

でも一番熱心に反応したのが、なんとFOXニュースのシェップ・スミス。The Daily Showのセグメントに言及した上で、ジョン・スチュワートは「まったくもって正しい(absolutely right)」ときっぱり。法案をブロックしている理由を共和党上院議員ひとりひとりに質問した上、返答がなかった議員全員の名前を挙げて非難しています。

http://tpmlivewire.talkingpointsmemo.com/2010/12/shep-smith-names-every-goper-who-wouldnt-come-on-his-show-to-talk-911-first-responders-bill.php

まあ、シェップ・スミスはもともと、FOXニュースの中では唯一、言ってることがマトモな、「FOXの良心」的な存在なんですが。それでも、デイリーショーが提起したことをFOXニュースが引き継いで運動するなんて、それだけでも「クリスマスの奇跡」めいていますが...

いや、可決されてこその「クリスマスの奇跡」でしょうね。

これを書いている時点で、「9−11初期救援者救済法案」の運命はまだわかりませんが、なんとか可決されることを心よりお祈りします。

というわけで、皆様、Merry Christmas and/or Happy Holidays!

【追記】アメリカ時間22日(水)、9-11救援者支援法案は可決されました!めでたい!