【映画感想】ハリー・ポッターと死の秘宝PARTI

4作目ぐらいから毎回思うのだけど、このシリーズは「映画化のリズム」をすっかり確立しているところに感心する。これだけ、原作のしばりがキツい作品でありながら、その料理の仕方のコツを、すっかり掴んでいる感じなのだ。

原作の要素を詰め込もうとしすぎず、かと言って「原作を読んでいない人にもわかるように」と無理をせず(実際、ほとんどの観客は読んでいるだろうしね)、ファーストシーンから無理なくこの世界に入ってゆける「流れ」みたいなものがある。

まあ、見る方も慣れて「原作のあそこが入ってない」とか、また「原作読んでないから分からん」とか、今更な文句はもう言わなんだろうと、作り手も考えているのかもしれないけどね。

とにかく、初っ端でハーマイオニーが、マグルの両親の安全を守るために自分を忘れさせる「忘却の呪文」をかけているところで、すでにぐっときてしまったのですよ。

原作7巻の雰囲気を反映して、映画の画面は暗く、殺伐としているのだけど、それがまたいい。暗くて殺伐と言っても、落ち込ませるような殺伐じゃなくて、主人公たちの強さや気高さや覚悟を際立たせるような殺伐なんです。つまり、ハードボイルド。

ヴォルデモードたちに制圧された魔法省の追手から逃れるために、今回ハリーたちはイギリスの僻地をさまようのだけど、イギリスの田舎の晩秋から冬の光景は荒涼として厳しくて、でも、美しい。そこに立つハーマイオニーの、凛とした美しさが印象に残る。(あ、もちろんハリーもロンもいるのだけど。まあ、いつも最後の最後の部分以外は、引っ張っているのは常に彼女だようなあ、このシリーズ。)

原作が百の言葉を尽くして表現しているテーマや雰囲気を、映像で表現する...のも、すっかりお手の物になってきている。

映像で表現するって言えば、3人が魔法省に忍び込むシーンで職員が作っているプロパガンダ・ポスターが、ナチス・ドイツプロパガンダ・ポスターのデザインと似ているのも面白いと思った。(原作でも、死の秘宝のシンボルマーク=スワスティカで、グリンデルバルト=ヒトラー≒ヴォルデモード、というのは暗示されていたし。)

ハーマイオニーが語る「三兄弟の物語」の部分の影絵表現も、美しかった。

前作までに比べても、話のスピードや脇筋の削り方に少し余裕がある感じで、これは前後編に分けたおかげかな、と思ったのですが...原作を引っ張り出して(引っ越し直後で段ボールの山に埋もれてたのですが)読み返してみると、もうこのPARTIで原作の三分の二(36章あるうちの24章)まできているのですね。ということは、後編はもっとじっくりペースになるのか。楽しみです。