【映画感想】ヒックとドラゴン ☆☆☆☆

この映画の明らかに素晴らしいところ(飛翔シーン!)と、明らかにちょと問題なところ(おいおいペットかよ!)は、さんざん語られていると思うので、ここでは別のことを書こうと思います。

ヒックのキャラについて。この映画に、「トゥース」が出てくる前の段階ですでに一気に好感を持ったのは、主にヒックのキャラクターが気に入ったからでした。

こういう、子供が主人公の冒険ものというのは、その社会では「ダメっ子、落ちこぼれ」と見られている子がヒーローになる、というパターンが多く、この映画もまあ、それに当てはまるように見えます。

でも、私は最初から、どうもこのヒックは、そのパターンから微妙にズレているように感じました。ヒックは、自分の職業で得意分野である鍛冶屋の仕事ではちゃんと認められていて、全体にダメっ子だと馬鹿にされているというより、ただ「全然向いていないのに、あくまでドラゴン退治の仕事をやろうとする」というところを笑われているだけのような。

勉強では優等生だけどひ弱で小柄な子が、なぜかフットボール選手になることにこだわってる---みたいな感じかな。

そう、ヒックって、最初のシーンから明らかに、他の村人より頭がいいんですよね。ドラゴン退治にこだわってはいるけど、他の人が力任せに剣を振るっているのをよそに、何か複雑な装置を作ってドラゴンを捕まえようとしているところとか。

「ドラゴンと戦うことこそ最高の生き方!」というこの村の価値観にまるっきり染まっているようでいて、そこから一歩進むと、実は他の人とはまるっきり違うものを見て、違うことを考えている。なのに、天然というか、自分の見方考え方が人とは違うことにさえ気づいていない。まわりの大人が「こいつを一体、どうしたものか」と、途方に暮れているのも分かる気が。

「違うものが見えている」と言っても、「風の谷のナウシカ」が「腐海の生まれた理由が知りたい」と研究していたように、「ドラゴンとなぜ戦うのか」とか考えたりは、全然しないんですよねこの子。そういうことは考えない。「ドラゴンをやっつけろ」という村の旧来の価値観は疑問なく受け入れて、でも「それにはどうしたらいいか」というところからが、人とは全然違う。

私には、ヒックは科学者か、エンジニアみたいに思えました。なんというか、「理系」なのです。

怪我をしている「トゥース」を見つけた時も、最初は村の当然の「常識」に従って殺そうとするのですが、殺せない。でもそれは、愛情や心の交流が生まれたからというよりも(後で生まれますが)、単に「殺す必要はない」ということと、「もっとこの生物について知りたい」という気持ちに、本能的に気づいた...という感じがしました。

で、飛べない「トゥース」を見て、尾翼のバランスが悪いのに気づき、人工の尾翼を作ってやるヒック。ここでも、「飛べなくて可愛そう」とか、「自分が撃ち落したために怪我をさせて悪かった」という気持ちは、あんまり感じないのです。ただ、「尾翼のバランスを調整したら飛べるんじゃないか?」と考えて、そうしているだけで。いや、ヒックに愛情や優しさがないと言っているわけじゃないのですが、それは交流の結果として自然に出てきたもので、最初は「愛し合うべきだ、優しくするべきだ」という考えはまったくないのです。

ヒックが、他のドラゴンを手なずける方法を次々に見出してヒーローになっていくところでも、ヒックは「暴力に訴えずに仲良くすべきだ」と考えているわけじゃない。というか、そういう「べき」は、何もない。ただ虚心で観察して、「なんだ、こういうやり方をした方が全然カンタンじゃないか」と考えただけで。これは合理主義であり、科学者の態度です。

で、村の伝統に対してヒックのやり方圧倒的勝利を収めるというこの映画の展開と結末を考えると...これはつまり、平和を訴えてるわけでも何でもなくて、科学技術と合理主義の勝利を描いているような気がしました。昨今のアメリカの、アンチ科学、アンチ合理主義の流行(「インテリジェント・デザイン」とか)を考えると、そういう人たちには何かと敵視されている「ハリウッド映画」がこういうストーリーなのも、また興味深いと思ったのです。

まー、ぐちゃぐちゃ語りましたが、とにかくこの映画は好きです。ドラゴンの飛ぶシーンの映像の素晴らしさは言うまでもありませんが、脚本にユーモアのセンスがあるのも私好みです。吹替えで見たので、細かいセリフのギャグとかが(多分)分からなかったのが残念ですが。DVDが出たら英語版を見よう。