もうお手上げ(先週のThe Daily Show with Jon Stewart)

The Daily Show with Jon Stewart 2010/8/4 I Give Up

9/11の時に救助に当たった消防士や救急救命士、まっさきに駆けつけたボランティアには、ビルの崩壊による粉塵やアスベストによって健康を害してしまった人々がたくさんいます。アメリカの医療保険制度の不備はご存知の通りですから、それらの人々の中には十分な健康保険を持っていないか、または何らかの事情で失ってしまったか、ボランティアの場合などは保険会社に支払いを拒否されたりで、破産したり満足な治療が受けられずに苦しんでいる人がいます。

マイケル・ムーアの「シッコ」を観た方ならご存知ですね。ムーアは、そういう人々の一部をキューバに連れて行って、キューバの「社会主義の」医療制度の方が、アメリカ人にさえずっと親切なことを証明していました。

さて、これらの9/11被害者たちを救済するため、税金で医療補助をするという、今までなかったのがおかしいような法案が下院に提出されました。これに反対するヒトデナシなんているのか?

「この法案なら、共和党も反対したらさすがに世間に対してカッコがつかないから賛成して、全会一致で可決されたんじゃないの?」と思った人は...最近の共和党の恥知らずぶりを甘く見ているようです。

民主党議員:これは人を救うために自分の命を危険にさらした人々を救う法案です。

共和党ジョン・シムカス議員(イリノイ):議長、我々は、党派を超えて働くとき、すばらしい仕事をすることができます。

ジョン・スチュワート:Yes we can! 今現在、勇気ある行動をしたために慢性的な病気に苦しんでいる9/11の救急隊員やボランティアの人々を助けることほど、両党が超党派で働くのにふさわしい法案はない。議会が最も輝くときだ。でも...失礼、途中で話を遮ってしまったね。議員、続けて。

シムカス議員:我々は、党派を超えて働くとき、すばらしい仕事をすることができます。が、今はその時ではありません。

スチュワート:何...なに?この法案に反対しているの?なんで?なぜ?なにゆえに?...これは、当番組の新しいコーナーにふさわしい話題だ。題して...「もうお手上げ(I GIVE UP)!」オーケー、反対理由を聞いてみようか。

共和党デイブ・キャンプ議員:この法案は、根本的欠陥のある増税案と結びついています。従って、反対せざるを得ません。

スチュワート:あ〜、増税ね!気がつかなかったよ、医療援助するっていうのは、「金を出す」っていう意味だったなんて!勇気ある行動ゆえに苦しんでいる人を、税金で助けることだったなんて!この人たちを助けたくなくなるなんて、よっぽど悪辣な税なんだろうね。赤ちゃんに税金をかけるとか?人に親切にすると罰金をとるとか?子供たちが14歳まで童貞・処女を守ったら親に税金がかかるとか?そういうのだったら、ぼくも反対するだろうね。

「そうは言っても税金を出すのだから、『財源はどうするんだ?』という反論は正当だろう」って?

いえいえ、財源もちゃんと考えられているんですよ。「法人税法の『抜け穴』をふさぎ、ケイマン諸島など法人税が安い国に形だけの本社を置くことによって、アメリカ市場で大金を儲けているのにアメリカにまったく税金を入れていない外国企業※から税金を取る。」これだけで、有り余るほどの財源が確保できるそうです。

これに反対する共和党議員の言い草は...ひどいですよ。ひどすぎて笑うでしょう、アメリカ人以外なら。アメリカ人なら...いや、心中察して余りあるなあ。

共和党ケヴィン・ブラディ議員(テキサス):彼らは、人命を救うために行ったのです。税金を上げるためではありません。

ジョン:あんたの言葉を聞くと、悲しみで胸がいっぱいになるよ。もし、自分たちの英雄的行動が将来、税金が上がることにつながると彼らが知っていたら、9/11光景はずいぶん違うものになっていただろうね!(消防隊員のふりで)「89階に取り残された人々がいる。しかし、突入する前に、わたしとわたしの家族に一つ約束してくれ、マクラスキー...この救出が、スイスの製薬会社の海外法人税措置に影響することはないと!そうじゃなければ、助けに行かないぞ!」(ブラディ議員に向かって)このアホウ!【観客喝采

まったく、頭に来る。でも、これ以上怒ると、首の血管が破裂して、罪のない観客のみなさんに血をぶちまけそうだ。だから、ここはニューヨーク州選出の下院議員、実はジョン・スチュワートの「言っとくけど、ゲイじゃないからね」のルームメイトだった、アンソニー・ウィナー議員に任せることにしよう。

民主党アンソニー・ウィナー議員(ニューヨーク):正しいと思ったら、賛成すべきだ!それが正義の行動だと信じるなら、賛成票を投じるべきだ!立ちあがって同僚を庇う発言をして、この人道的な法案に反対票を投じるのではなく!まったく恥ずべきことだ!恥を知れ!(立ちあがって反論しようとした議員に)座りたまえ!議員、着席するべきだ!【観客喝采

ジョン:ウィナー議員の、この問題に対する情熱を過小評価する気はないけれど...冷蔵庫から彼のピーナッツ・バターを勝手に食べた時も、彼はこの調子だったから!「払いたまえ!ニュージャージーから来た紳士は1ドル50セントを払うべきだ!」

「でも、今は上院も下院も民主党が多数を占めているんだから、共和党がいくら反対したとしても、可決されたんでしょ?」と思った人は...民主党の無能さを甘く見ているようです。

民主党は、どういうわけかこの法案を、「全体の3分の2の賛成が得られなければ成立しない」という手続きで提出したのです。その理由と言うのが、共和党が「その医療補助の金は、絶対に不法移民には行かない」という修正条項を入れるという条件を要求したからだそうです。

「不法移民に金が渡るぐらいなら、他の人たちが救われない方がマシ」ってことですか。これって、子供手当に反対するのに、「外国人がこんなに申請している!」と騒ぎ立てたり、高校無償化に反対するのに「朝鮮学校に渡る!」と騒ぐ日本人とそっくりですねえ。「どこでも同じ」なのか、それともアメリカと日本だけがこうなのか...いや、アメリカは「『不法』移民が...」と、一応「不法」な人だけだよ、という格好だけはつけてるだけマシか。

でも、民主党は今のところ上下院で多数を占めているのだから、「そんなもん知るか」とはねつけて普通に可決すればいいだけでは?

実は、ここのところがわからないのですが...民主党は、共和党が議場で「不法移民に金を渡さない」という修正案を出し、この案に賛成する人たちと、何が何でも不法移民を憎んでいる人たちの両方に共和党がアピールし、間近に迫った中間選挙で優位に立つことを恐れていたのだそうです。なんということだ。

ジョン:.......「もうお手上げだ」って、もう言ったっけ?

この国で最もその資格がある人に医療補助するという法案が3分の2を取れないなら、どんな法案が取れるんだ?

議会:破産しても、銃は差し押さえを逃れて所持し続けられるという法案が3分の2の賛成で可決されました...

ジョン:(ライフルを抱えて)ハロー。破産して、家を失うって?大丈夫!それでも銃は残るし、隣人はまだ家を持っているよ。行って、そこに住んだら?もちろん隣人も銃を持っているけど、大丈夫!どこかには、銃を持っていない家もあるよ。

もし、両方の党がこれほど政治的駆け引きや選挙に対するカッコつけばかり気にしているのなら、こういうコマーシャルを流すべきかもしれない。

コマーシャル(妻):ニュース見た?

夫:ああ、わかるよ。

妻:共和党は、まったくXXXXなクソXXヤローばかりだわ。

夫:民主党はまったくのフニャXXな弱虫XXXXばかりだ。

妻:どうしたらいいの?

ナレーション:あなたの地元の議員に電話して「あんたは最低XXXの無能人間だ」と告げましょう。

提供:もうお手上げだと、すっかり諦めた市民の会

はーー。このセグメントは、ジョンも相当にストレスがたまったらしく、番組の最後に「こういう日はホット・ファッジ・サンデーウォッカひと瓶で元気回復したい」と言っていました。ウォッカはいらんけど、サンデーなら私もつきあいます(笑)。

でも、こういうことを言うのは罪悪感を感じるけど、しみじみ感じたのは...怒っているジョンってセクシー。(笑)。あ、あと、ウィーナー議員も!彼の怒り狂いっぷりにはすっかり魅了されました。外国人だけど期待してます。がんばれ!

※普段愛国愛国とうるさい共和党議員が、何でこんなに一生懸命外国企業の利益を守っているかと言うと、アメリカでは最高裁の決定で、企業は外国企業も含め、議員の選挙キャンペーンに無制限で献金する権利があると決定されているのです。

企業は憲法言論の自由を保障されている「グループ」の一種であり、政治に金を出すことは「言論」の一種であるからというのがその理由です。めちゃくちゃですな。

つまり企業の政治献金は完全合法。「政治とカネの問題」どころの騒ぎじゃありません。アメリカ国籍を持っていない外国人は、「個人」としてはアメリカの政治に口を出すことは一切できませんが、「企業」であれば外国企業であっても(BPでもトヨタでも)、金次第でいくらでもアメリカの政治に影響することができるのです。