話は最後まで聞けって話（昨日のThe Daily Show with Jon Stewart）
二週間ぶりに帰ってきた「The Daily Show with Jon Stewart」ですが、なんと！
The Daily Show with Jon Stewart 2010/7/26 Lost in Race
ジョンがおひげを生やしているじゃないですか。少し前に、息子のネイサン君とバスケットボールを見ている無精ひげの写真を見て、彼のひげはほとんど白いんじゃないかと思っていましたが...伸ばしてみたら、ほんとに白かったですね。
最初に見たときは「似合わない！よけいに老けて見える！」と思った私ですが、２回見たら、もう慣れてきて（？）かっこよく思えてきた...われながら、なんなんだ（笑）
さて、それはともかく...休暇明け最初のニュースは、ちょっと古いニュースなのですが、休暇中に起こって「これは、ずばりデイリーショー向きのネタだなあ。休みなのが残念」と思っていたニュースを取り上げてくれました。
農務省の黒人女性職員がちょっと前にＮＡＡＣＰ（全米有色人地位向上協会）でスピーチをしたのですが、そのスピーチが「白人に対して人種差別的」だったということを「暴く」ビデオを、保守派の政治評論家が自分のブログに載せて、それがマスコミで騒ぎになり、農務省は彼女をクビにした（正確には「辞職を要求した」）。でも後でこのビデオは巧みな編集によって捻じ曲げられたものであり、彼女のスピーチは「人種差別はいけない、黒人も白人も力を合わせてゆかなければならない」という主旨のものだったということが判明した。政府は彼女に謝罪し、復職をお願いした...というニュースです。
日本語ニュース
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201007/2010072200501
アメリカ在住の方のこのブログも面白かったです。
http://www.newslogusa.com/?p=1041
この捏造ビデオを作成・公開したアンドリュー．ブレイトバート（Andrew Breitbart）という人は、保守派のブロガー、ティー．パーティ派の活動家で、Big Goverment、Big Hollywood、Big Journalismというブログをやっています。そのブログのテーマは、まあ題名から想像つくと思いますが、「民主党・オバマ大統領によるリベラル派『大きな政府』の陰謀がアメリカを滅ぼす」「そのオバマを支持する、リベラル派のハリウッドがアメリカを洗脳して滅ぼす」「オバマに味方するリベラルに偏向したマスコミがアメリカを滅ぼす」という感じですか。
「ブロガー」「保守派活動家」なんていうと無名の一般人みたいに聞こえますが、この人は（信頼性はともかく）けっこう有名人です。テレビにも出てますし、そのブログはGoogleの「ブログ検索」ではなく「ニュース検索」でヒットする、つまり「ジャーナリズム」の一部と見なされているようですし。（昨今、それがどれほどの信頼性を保証するのかは怪しいですけどね。）
私、この人の名前も、ブログの存在も前から知っていました。なぜなら、私はデイリーショーが休みの間は除いてほぼ毎日、Googleニュースを「Jon Stewart」と「The Daily Show」で検索しているので...つまり、ブレイトバートはジョン・スチュワート（The Daily Show）を、ブログで取り上げたことが何度かあるのです。もちろん悪口。まあわざわざアホな批判を読んで不愉快になることもないので、ナナメ読みしかしてませんでしたが。
だから、今回の件で、「Yeah! これで、この人の言うことはもう二度と誰も信じないぞ。よかった」と、ちょっと嬉しくなったのでした。
（いや...わかってます。どんなにひどいデタラメを言って、それを何度暴かれたとしても、こういう連中は平気でまたデタラメを言い続けるし、それを信じ続ける人もたくさんいるんだけどね。はああ。）
スチュワート：観測史上最悪の熱波だそうだけど...わが番組の調査班は、この天候の犯人をつきとめた。
シャーリー・シェロッド（編集されたビデオで）：「皆さんにお話したいことがあります。」「私は」「この夏」「とても危険な」「気候を」「作り出しました。」「なぜなら」「私は」「人間」「と」「環境」「が」「大嫌い」「だからです。」
スチュワート：あ、「調査班」って言った？「編集班」の間違い。...元農務省のシャーリー・シャロッドは、ＮＡＡＣＰで行った「人種差別的な」スピーチのビデオが公開されたことで問題になった。
シャーリー．シェロッド（編集されたビデオで）：「私が最初に、自分の農場を救いたいという白人の農民に会った時、」「私は全力を尽くしませんでした。」
スチュワート：（皮肉に）やっぱり！ＮＡＡＣＰは、黒人が白人に対して強大な権力を振るう相談をするところだったんだ！このテープが公開されて数時間のうちに、ＮＡＡＣＰとオバマ政権はシャロッドを批判し、農務省長官は彼女を解雇した。...で、その後で、オリジナルのビデオを全部見たわけだ。
シャーリー．シェロッド（元のスピーチのビデオ）：「しかし、私は気づいたのです。私たちは、力をあわせなければならないと。人種の違いを乗り越えなければなりません。トニ・モリソンが言ったように、『人種というものは存在する、でも問題にならない』という世界にしなければならないのです。」
スチュワート：ああ！彼女は人種差別的であることを自慢げにしゃべっていたわけじゃないんだ。彼女は、物事の判断に人種偏見を影響させてはいけないことを学んだことを話していたんだ。まったく、話をちゃんと最後まで聞くと、びっくりするようなことが分かるもんだね！
それと、このスピーチを最初から聞けば、どうして彼女がかつて白人に偏見を持っていたかがわかる。彼女のお父さんは４５年前に白人の農民に殺されたが、全員白人だった当時の陪審員は、犯人を訴追するのを拒否したんだ！
ぼくはちょっと古風かもしれない。なにしろ、白いヒゲをはやしているぐらいだからね！でも、この世界ではまだ、自分の父親を殺したものを憎むことぐらい許されていると思いたいね！
念のため...「彼女の父親を殺したもの」とは、「白人」じゃなくて「人種差別」です。だから「殺した人(people who killed)」ではなく「殺したもの(the thing that killed)」と言っているわけで。
さて、彼女をクビにしてしまった政府と、自分のところでやったスピーチをちゃんと聞きもせずに彼女を批判したＮＡＡＣＰが、どう言い訳しているかというと...
ＮＡＡＣＰ：我々はＦＯＸニュースと、ティー．パーティ活動家のアンドリュー・ブレイトバートに騙され、彼女が、人種偏見から白人の農民に害をなしたと信じさせられたのです。
スチュワート：騙された？騙されたって？このテープを公開したアンドリュー・ブレイトバートは、もしかしたらこの件で一番正直な人間かもしれない。５ヶ月前、彼ははっきりこう言っている...
アンドリュー・ブレイトバート：私は、左翼的な組織を潰した人間として歴史の本に載りたい。
スチュワート：ほらね、彼は正確な報道をすることによって歴史に残りたいとは言っていない。...はっきりと、「左翼的組織を潰したい」と言っているんだ！もしあなたが「左翼的な」（※）組織の一員なら、彼の載せているビデオを見るときは、オリジナルのテープを全部見ろよ！
「騙された」じゃないよ！マシュマロの粉を顔につけている男の言うことは真面目に聞けない？（※）「トロイの木馬」でもない。言ってみりゃ、木馬のないトロイの木馬だ。「ヘイ、ギリシアの王様からプレゼントだよ。彼の軍隊だ。しっかり武装して、あんたらが寝ている間に街を攻撃したいんでね。受け取りにサインくれるかな？」誰か、早まったことを認める人はいないの？
ホワイトハウス広報官ロバート・ギブス：政府を代表して、お詫びします。
スチュワート：ありがとう！ギブス広報官は立派な人だ。でも、騙されたらいけないから念のため、残りのテープも見てみようか。
ギブス広報官：この件については、皆が反省してみなければならないと思います。なぜ、適切な質問をしなかったのか...我々も、あなた方マスコミも、他の人たちも...
スチュワート：「われわれ政府は、あなたたちがこれほど無能であることを心からお詫びします。」
まあ、でも...ブレイトバートの捏造ビデオを頭から鵜呑みにして、ソースを確認することもなくセンセーショナルにガンガン報道して、オバマ政権に彼女をクビにするようプレッシャーをかけたのはメディア（特にFOXニュースなどの、２４時間ニュース局）ですから、ギブス報道官がこう言う気持ちもわからんではないのですけどね。
この件で、ブレイトバートやFOXニュースを批判せずにもっぱらオバマ政権を責めるのは、「火事で家が全焼してしまった人が、消防署を非難して放火犯を非難しないようなもの」と誰かが書いてましたが、その通りだと思います。
でも、最終的にクビにしたのは政府だからなあ。ブレイトバートみたいな人間の言うことを鵜呑みにするマスコミもマスコミなら、マスコミの言うことを鵜呑みにする政府も政府、ってことか。
とにかく、大切なのは「マスコミも個人ブロガーも信用できないことでは同じ。鵜呑みにせず、まずソースに当たれ」ってことです。ソースが機密情報とか個人情報で当たりようがないという場合もありますが、ネットで簡単に読める場合（そして、ちょっと読んでみるといかにマスコミ報道がいかにいい加減かがわかる場合）って、ほんと、びっくりするほど多いものです。
※オバマ政権もNAACPも、世界標準で普通の人々にとっては全然「左翼」じゃないですけど...まあアメリカのウルトラ保守派の基準で言う「左」ってことで。
※この前のセグメントで、ジョンは自分のヒゲが白いことの言い訳として、「子供とマシュマロを食べていて粉砂糖がついたから」と言って、実際に粉砂糖をつけてみせた。その後拭いたけど、完全には取れていないようで。ジョンのひげはグレイだけど、実際にはこのセグメントほどには白くないです（笑）
