アリゾナが日本になろうとしている件(ちょっと前のThe Colbert Repo

ちょっと古いニュースなのですが...いや、今でも問題は何も解決していないし、論争は全米でバリバリ継続中なんで、古いってことはないか。

アリゾナ州の新法の問題です。

メキシコと国境を接するアリゾナ州では、先ごろ、不法入国者の対策として、取締りを強化する法律ができました。それはアリゾナの警察に、不法移民であることが疑われる要素があれば、合法的にアメリカに滞在していることを証明する文書の提示を求めることを義務付けるものです。しかも、警察が「不法移民と疑われる」人がいるのに十分な対策を取らなかった場合、市民は警察を訴えることができるとういうものです。

不法にアメリカに入国することはもちろん元から連邦犯罪で、新しい州法を定めるまでもなく、不法移民は逮捕して強制国外退去させることができます。だから、この新法のポイントは警察が「疑わしい人」に職務質問を「しなければならない」というところなのです。

特に問題になっているのはこの「不法移民と疑われる要素がある」とは、具体的にどういうこなのか?とういうことです。「不法移民っぽい人」って、つまりは中南米系ってことで、要するに、人種差別を合法化しているだけじゃないのか、と。

アリゾナ州はこれを否定し、人種で判断することはない、「疑わしい要素」というのは例えば他の犯罪で捕まったとき、スピード違反で止めようとしたら逃げた場合等だ、と言っています。しかし、そういう場合なら、別にわざわざ新法制定しなくたって逮捕できるんじゃ?

しかも、アメリカには憲法修正第4条(「不合理な捜索および押収に対し、身体、家屋、書類および所有物の安全を保障されるという人民の権利は、これを侵してはならない。」)というのがありまして、これは「正当な理由なしに書類の提示を求められたとき拒否できる」ということも意味すると、過去の判例で定められています。だからこの新法とは矛盾するし、裁判になったらもちろん憲法が優先されます。(ジョン・スチュワートはこれを、「労働者を満載したトラックが通り抜けられるぐらいでかい抜け穴」と呼んでいました。)

どうもこの法律、実質上は不法移民を防ぐ役には立たず、アリゾナ中南米系の人が嫌な気持ちになって、警察が板挟みの立場になるだけなんじゃ...?と思うのですが...

他州には、この法律に怒ってアリゾナ州の経済的ボイコットを呼びかけている人々もいるようです。

http://mainichi.jp/select/world/europe/news/20100514k0000m030055000c.html

この問題に関しての「The Colbert Report」のコーナー「The Word」(今日の言葉)が辛辣で傑作でした。

The Colbert Report 2010/4/21 The Word - No Problemo

ティーブン・コルベア:...国境を警備しようとあらゆる手段を尽くしても効果がない。不法な...ニンジャたちが、よい仕事を得ようとこの国に流れ込み...来てみると、よい仕事はさらに8千マイルも離れたところにあることを悟る。(インドの地図)

しかし、ついに不法移民を防ぐ方法が発見された。それが「今日の言葉」だ。

「No Problemo」!(スペイン語で「問題なし」)

皆さん、私の曾祖父は、4千マイルも海を渡ってこの国にやってきた。それはこの国が移民の手に渡るのを見るためではない!そうじゃなくて、アイルランドで人殺しをして逃亡していたからなんだけど。

ありがたいことに、アリゾナ州がこの問題を永遠に解決する方法を見出した。

ニュースキャスター:アリゾナ州は、全米で最も厳しい不法移民対策法を可決しました...この法律では、警官が「合理的な疑い」を持った場合、合法な住民であるとい証明することを求められるというものです。書類を提示できなかった場合、逮捕され、実刑を受けることもあります。罰金は500ドル...

ティーブン:また、「チポトレ」(メキシコ料理のスパイス)という言葉を使った人にはテイザーを使ってよいことになっている。もちろん、人権派の「リベラリスタ」は猛反対している。

政治家・活動家たち:これは人権擁護派には悪夢です...このような法律は「ジム・クロウ法」※以来です。警官が褐色の肌をした人を止めるような、人種的プロファイリングを合法化し...

ティーブン:ちょっと待った。最初に、これはジム・クロウではない。

(ホアン・クロウってとこかな。)

ティーブン:まるで、ラテン系の人々に人種プロファイリングで嫌がらせをすることが、この法律の避けられない副作用だと言っているみたいじゃないか。そんなことはない!それは副作用じゃなく、この法律のそもそもの目的なのだ!

提案者の州議会議員、ラッセル・ピアースの言葉を聞いてみたまえ。「ここでの暮らしが困難になれば、ほとんど(の移民)は自分から出てゆくだろう。」私が庭から鹿を追い出したのと同じ戦略だ。ちなみに、この法律が効果なければ、アリゾナ州もオオカミの尿を撒くことを試してみたら?

((ウルフ・)ブリッツアー(CNNのキャスター)が儲かるね。)

この法律は問題の核心に斬りこんでいる。われわれは不法移民に甘すぎだ!

(UnivisionとTelemundo、スペイン語放送が2局もあるの?)

野菜や果物の収穫に欠かせない人手だとか言わないでくれよ。ぼくはハロウィーンには子供たちを果物摘みに連れて行っている。みんな楽しんでやっているよ。

(ハチに追いかけられるまではね。)

少なくともアリゾナでは、ただ乗りは終わりだ。どんな不法移民でも、ひっきりなしに警官に職務質問されるのは好きじゃないはずだからね。

(それ、黒人もあまり好きじゃないね。)

それを言うなら、合法な移民もそれは嫌いだ。なにしろ見かけは同じだから、合法な移民もやっぱり職質しないといけないしね。ヒスパニックのアメリカ国民もだ。イタリア系もかな。オリーブ色の肌だし、ラビオリは水分の多いエンペナータだし。考えてみれば、エスキモー(イヌイット)は寒冷地のメキシコ人かな。

つまり言いたいのは、どこからの移民でも、アリゾナには住みたくないだろうってことだ。それは、すごくいいことだ!なぜなら、アリゾナの不法移民人口は既に、2008年に比べて18%減っている。主な原因は不況だ。この法律は、景気をさらに良く...つまり、さらに悪くする。なぜなら、移民はアリゾナ経済のうち290億ドルを生み出しているからだ。彼らが去れば、それは経済のコホネス(スペイン語で睾丸)を直撃するだろう。これで確実に、アリゾナ誰も住みたがらないような州になるだろう。

(乾燥したデトロイトのような)

誰もいなくなれば、すべて問題解決だ。

(No Problemo)

「今日の言葉」でした。

さて、ここから書くのも気の重い話になるんですが。

アメリカ国内問題であるこの法律のことをなぜ取り上げたかというと、この法律のことを聞いて私が最初に思ったのは、「あ、それ、日本の法律(外国人登録法)と同じだ」ということだったからです。

実はこのエントリーの題名は、アリゾナ出身日本在住のアメリカ人女性のブログにあったタイトルを無断借用しています(笑)。それを読んで、「あ〜、やっぱり日本在住外国人はそう感じるんだ」と、かなり落ち込んだので。

その女性(20代白人)は地方に住んでいるので、白人は目立つせいか、実際によく警官に身分証(外国人登録証)の提示を求められるそうです。その人の友達(やはり20代白人女性)など、うっかり登録証を家に置いて近所に買い物に出たところを止められて、「家に置いてきた」と言うと、警官は家までついてきて確認したそうです。

全米でヒートアップしているアリゾナの新法への批難轟々は、そのまま日本への批判にすることもできるわけです。

こういうことを言うと、みんな「日本とアメリカは違う」と言うのよねえ。どうして違うのか、どうして同じことでも他の国がやったら人種差別で、日本がやったら人種差別じゃないのか、私にはさっぱり理解できないのだけど...

でも、それよりここは単純に、「自分がやられたら嫌なことを人にするな」という原則で考えてみるべきなんじゃないかと思う。

例えば私が、国際結婚とか仕事の都合とかで、白人が圧倒的に多いヨーロッパの町に住んでいたとする。外国人登録をするのはかまわないし、身分証は日本にいるときだっていつも何かは持ち歩いているけど..それでも、街を歩いているとき「アジア系だから」「この国で生まれた人には見えないから」という理由でいちいち警官に止められて「身分証を見せて下さい」と言われたら、嫌だし、なんとなく尊厳を傷つけられた気分になるし、「ああ、私はこの国には歓迎されていないんだなあ」と感じるだろうし、最初は好きだった国でも少しづつ嫌いになるだろう。

上のブログの女性は「アリゾナでこれをやるのは間違っているけど、まあ日本は伝統的にコミュニティーを基礎にした社会だから...」と、ある程度理解を示してくれているけど、どちらかと言えば、日本文化や日本人一般が好きだという気持ちと、この法律に対する腹立ちとの間で、なんとか気持ちの折り合いをつけようと努力しているように感じました。

とは言え、この法律を改正しようなんて言い出したら、日本人の圧倒的多数は大反対するだろうしなあ。アリゾナ州民の過半数は新法に賛成だそうだけど、反対のアリゾナ州民は、今どう感じているんだろう。

移民問題の究極の解決法は、誰も来たがらないようなところになること...日本も、着実にその道を歩みつつあるのかも。だからNo Problemo(問題なし)?

※ジム・クロウ法:1960年代まで南部各州にあった、黒人を差別する州法。