【映画感想】プレシャス ☆☆☆1/2、17歳の肖像 ☆☆☆1/2

「プレシャス」と「17歳の肖像」を続けて観て、どちらも面白かったのだけど、すごく対照的で、でもテーマは同じなのかな、と思った。

2本とも、16歳の女の子が自我に目覚め、社会の矛盾やその中で自分の置かれている立場に疑問を抱き、今まで盲目的に従ってきた親の枷を逃れようと悪戦苦闘しながら、「教育」を受けることによって新たな世界を知り、自己を確立してゆく話。トップレベルとボトムレベルから、女子教育の大切さを訴えている...とも言えるかも。

でも、プレシャスとジェニーの境遇の何たる違い。ジェニーには美貌も知性も、そこそこのお金も、(少々ズレているとはいえ)親の愛情もある。プレシャスには何一つない。ほんとに見事なまでに何もなくて、こんなに何も持っていない主人公は、ひょっとして初めてなんじゃないかと思ってしまう。たいがいの映画なら、たとえ極貧の虐待家庭の不幸な子供でも、美少年・美少女であるとか、スポーツや音楽や数学の才能があるとか、少なくとも何かはあるもんじゃない?

プレシャスは「EOTO(Each One Teach One)」というチャリティのフリースクールで初めてちゃんと教育を受ける。クラスメートたちは全員が黒人かヒスパニックの若い女性で、みんな貧困家庭の出身で、いろんな事情で初等教育を受けそこなった女の子ばかり。けど、そのクラスメートたちと比べてさえ、プレシャスの境遇のひどさは際立っている。

しかも、映画の最後まで、プレシャスは意外な才能を発見されてそれで稼げるようになったりはしないし、痩せもしないし、ボーイフレンドができるわけでもない。物質的レベルでは彼女には何にもないまま、むしろ新たな問題が発生してある意味では余計に人生シビアになるのだけど...でも、教育を受けることによって、やっぱり彼女は大きく成長しているのです。

つくづく思ったのは、教育で一番大事なのは読み書きでも算数でもなく、芸術的感性でも「実社会の経験」でもなく、自尊心だと言うことでした。EOTOの先生は、最初の授業で生徒たちに「何が得意か」を言わせ、プレシャスが「得意なことはありません」と言うと「誰でも何かは得意なはずよ」とくいさがり、彼女が「料理はできます」と言うまで諦めない。

プレシャスの料理は、見たところとても「得意」と言えるレベルではなさそうなのだけど...でも、思ったのは、彼女のように何にも持っていない女性にこそ、自尊心は必要なのだということ。根拠なんかなくても、いやないからこそ。何にもない人こそ、自分を大事に思わなければつけ込まれる。「17歳の肖像」のジェニーのような「持てる者」なら、ロクでもない男につけ込まれて利用されて踏みにじられても、「これも良い経験ね」てな感じで人生回復可能だけど、プレシャスのような「持たざる者」は、一旦落ちてしまうとどん底まで行ってしまって、めったなことでは這い上がれない。そのよい例がプレシャスの母親なわけですね。

私は「自分探し」とか「自分というものを持っている人」とかいう言葉が嫌いで、「女性にしては珍しく自分というものを持っている」なんてセリフには「自分というものを持っていない人間なんているかこのくそセクシスト野郎」とか思うのですが(笑)...プレシャスの母親の「涙の告白」を見ていて、ああここにいたよ「自分というものを持っていない人間」が、と思いました。

どうしてプレシャスの父親がプレシャスを性的虐待するのを黙認していたのかとソーシャルワーカーに問い詰められて、「だって、(男の望み通りにさせないで、そのために男に捨てられたら)誰が私を愛してくれるの?誰が私を(自分に満足した)いい気分にさせてくれるの?(Who will love me? Who will make me feel good about myself?)」と泣く母親。その話の内容のあまりのヒドさに唖然呆然としつつ、プレシャスがそこで母親をすぱっと切ることができるようになっているのが救いです。

ヘビーに感動的な話なのですが、惜しいと思ったのは、ちょっと描写が「粗い」感じがしたことです。例えば、プレシャスは毎日ノートに日記や創作物語や詩を書いて、書くことによって自分で自分に自信が持てる(feel good about myself)ようになってゆくのですが、その肝心の書いた内容が、意外とあまり出てこないのはもったいないような。

プレシャスが先生について、「先生のような自ら光を放つ人は、暗いトンネルに迷い込んでも自分の光だけを頼りに出てきて、また他の人を照らし続ける」という感動的なセリフ(ナレーション)があるのですが、先生が迷い込んでいる「暗いトンネル」が具体的に何のことであるのか描かれていないので、いまひとつよくわからない。ところどころ、何というか、「点と点がつながっていない」カンジがするのが惜しいのです。

逆に「17歳の肖像」は、ストーリー自体は他愛ないと言えば他愛ないのですが、描写が細やかで丁寧で、主人公やまわりの人たちの心の揺れがよく感じとれるようになっていました。

ストーリーの重さと描写の細やかさと、プラスマイナスで出来としては同等かな...って、別に比べることはないのですけどね。とにかく、どちらも観る価値は十分の、良い映画でした。

ふと思ったのですが、この2本って、主人公たちと同じ年頃の女の子が観たらどう感じるのかなあ。共感する?それとも、大人だからわかる映画なんだろうか。うーん、どうだろ。高校生の頃の私が観たら、「プレシャス」には単純に感動し、「17歳の肖像」は「ばっかみたい」と思ったかも(笑)。

(これは主に「プレシャス」の感想なので、「17歳の肖像」については改めてもうちょっと書きます。)