【映画感想】17歳の肖像 ☆☆☆1/2

校長:大学を出なければ、何もできないのよ。
ジェニー:大学を出たって、女は何もしないじゃないですか。

これって、1961年の話なのよね。英国の1961年って、われわれが見るとちょうどオシャレに思える時代なんで、あんまり昔というカンジはしないのだけど、考えてみりゃ半世紀も前なのよね。

しかし、これを考えるとため息が出るのだけど、私が大学出て就職したのって、この時代と現在とのちょうど中間点に当たるのよね。ふー。私が高校生の頃の日本は、ジェニーの時代の英国とまあ同じようなもので(時代は20年ぐらい違うけど)、女性が大学出て長く続けられる仕事って教師か公務員ぐらいだったけど、当時の私は、「これからは日本も変わるし、女性もどんどん社会進出するだろうし」と、わけもなく信じていたような。

30年近く経って、まあ全然変わらなかったわけじゃないけど...私が若い頃に考えていたより、変化のスピードはずっと、ずっと、ず〜っと遅かったなあ。私、「世の中の変化のスピードが速くてついてゆけない」と言う人がいつも不思議でならないのよ。私はずーっと、「どうして世の中、こう変化が遅いんだ」とイライラしているのに。

話がそれましたが、そんなわけで、ジェニーの感じていてる幻滅感、閉塞感、うんざり感は、なんとなくわかるのです。16歳の頃の私じゃなくて、今の私が分かる。それってちょっと情けないですけどね。

現代の目から見ると、女子高生をデートに誘う30代の男ってそれだけで思い切り怪しいし、ジェニーの両親がこの男(デビッド)にあっさり丸めこまれてしまうのも妙に思えるのだけど...考えてみりゃ、ここからさらに2〜30年も遡れば、18歳ぐらいの女の子と経済力の安定した30代の男が結婚するのはごく普通というか、むしろ望ましいことと思われていたのよね。(ジェイン・オースティンの世界。)娘をオックスフォードにやることにあんなにこだわっていたはずの父親が、あんなにコロっと態度を変えてしまうのも、そういう価値観をどこか引きずっているんだろうなあ。

それと、当時の英国の階級差というのもある。と言ってもこの場合、単なる上流階級と中流階級の差ではなくて。ジェニーのお父さんは、クラッシックのコンサートに通ったり、有名な作家と知り合いだったりする「知識階級」の男に、コンプレックスをもろに刺激されてしまったのだろうなあ。

娘をオックスフォード大にやろうとあんなに猛烈教育パパをやっていたのに、金持ちインテリ男と結婚するなら「それでもいいか〜」となる。結局どっちでもいいんかい!と、ジェニーがシニカルな気分になるのも、まあわかるわ。

ジェニー自身についても、単に「学校生活が退屈で」とか「大人の世界や恋愛に憧れて」というのじゃない。彼女が学校の何に幻滅し不満を抱いていたのか、デビッドの何に憧れたのかというのが、非常にわかりやすく細やかに描かれているのが、この映画のいいところなのです。

例えば、デビッドが黒人の家族と仲良くしているのをジェニーが目撃するシーン。当時としては珍しいことで、ジェニーにしてみれば進歩的でカッコよく思える。対照的に、彼女のロールモデルであるべき学校の校長は、女性として最高の教育を受けているはずなのに、まるっきり無知な人間のような馬鹿げた人種偏見にとらわれたままで...

そういえば「プレシャス」で、プレシャスの母親がゲイに対してひどい偏見を持っていて、プレシャスにもそれを教え込んでいるけれど、プレシャスは後でゲイの人たちと知り合いになって、自分で考えて偏見を捨ててゆく、というシーンがあった。無知の極限のようなプレシャスの母親なら、さもありなんと思うのだけど...せっかく最高の教育を受けても、この女校長みたいになるんなら、何にもならないよなあ、たしかに。

校長の反ユダヤ主義は、ほんのちょっとしたセリフに出てくるだけなんですけど...ジェニーが学校を辞めることにつながる、積み重なった幻滅感のひとつとして、とても説得力があったのでした。

とは言え、デビッドが黒人家族と仲良くしていたのは、実は怪しげな商売に利用するためだったということが分かるのですが。これが分かったあたりで、この男を見限らないといけないんだけどねジェニーも。まあ、そのあたりが子供なんだろうな。

でも、大人だって分かってないんだよね、実は。大人ってものは、自分の経験という目隠しに遮られた、非常に狭い視界しか持っていない。失敗したとき、「大人なのに、どうして忠告してくれなかったの?」と言ってもダメなのだ。そこんんところを理解して許すのが、大人になるってことなのかな。

では、自分がロールモデルにもなれない、大した賢さも持っていないと分かったオトナは、どうしたらいいんだろうか。どうしたら、デビッドや女校長や「プレシャス」の母親みたいにならず、スタッブス先生や「プレシャス」のレイン先生みたいになれるのだろうか。それにはまず、自分がわかってないことを認めること、いくつになっても謙虚に学ぶ姿勢を失わないことかなあ、とか思ったのでした。