【読書感想】When You Are Engulfed in Flames デビッド・セダリス

Amazon: When You are Engulfed in Flames

以前に「Naked(すっぱだか)」の感想を書いた、デビッド・セダリスさんの(今のところ)最新作の感想です。

この本、実はもう1年以上前に読んでしまったのですけど、感想を書こうと思いながら書きそこねていました。で、ここんとこネタが不足しているので、この機会にと思って。

これを読んでみたいと思ったきっかけは、セダリスさんが「The Daily Show」のゲストに出て、これは「禁煙するために日本に行った」時の話だと語っていたことに興味を引かれたからです。禁煙するために日本??どういうこっちゃ、と思って。

日本に来た話が書かれているのは、この本の最後の(一番長い)章「Smoking Section」です。

まあ、結論を言えば、日本である必要はまったくなかったみたいなんですけどね。十代の頃からの重症ニコチン中毒であるセダリスさんが禁煙を決意して、医者に「禁煙するには、一番つらい時期に旅行して環境を変えるといい」と言われたので、日本には行ったことがなかったのでこの機会にと思って...まあ要するに、出版社が「ネタになりそう」と思ってお金を出してくれたのでしょう。

で、セダリスさんは、パートナーのヒューさんと共に(セダリスさんはゲイです)、六本木の外国人用高級マンションに滞在したようです。舞台美術家のヒューさんが日本美術を探求する間、セダリスさんは日本語学校で落ちこぼれたり、二人で広島に旅行したり...

この謎の題名「炎に呑み込まれた時には」は、広島のホテルの部屋に置いてある案内書(英語版)の、非常時の避難についてのページにあったフレーズだそうです。...想像するに、おそらく「火に囲まれた(surronded)時には」と言いたかったのではないかと思うのですが...というか、普通は「煙に囲まれた時には」じゃないかなあ。炎に呑み込まれ(engulfed)たら、もう手遅れですよね(笑)。

セダリスさんがヒューさんと広島に行って、原爆資料館までタクシーに乗った時、運転手にアメリカ人だと言えなくて、「フランスから来た」と言って(<二人はアメリカ人だけどフランスに住んでいるので、嘘ではない)、タクシーの中ではフランス語で話した、というエピソードを読んで、なんとなくため息。

私は広島の人じゃないのでなんとも言えないのですが、アメリカ人だからって別に隠す必要はないとは思いますけどね。原爆資料館に行くっていう気持ちがあるのだから、それはむしろいいことだと思うし...(すみません、私は行ったことないです。)

...まあもちろん、原爆投下というアメリカの素晴らしい業績を誇るためにやってきた、とかいうのなら別ですけど。去年、アメリカの新聞で(ワシントン・ポスト紙だったと思うけど)最近アメリカ人の若い人に原爆投下を「悪いことだった」「必要なかった」と思う人が増えていることを嘆いて、「彼らが生まれたのは、そもそも原爆投下のおかげで彼らの祖父たちが生き残ったからなのに、何と恩知らずな」とか書いているコラムがあって、私は大いにムカついたのですが、そういうのを考えると、その可能性もまったく排除できないけど...うう、話がそれました。

もちろん、セダリスさんはそういうタイプの「アメリカ人」ではなくて、どっちかというと逆。フランスに住んでいて、パリでアメリカ人旅行者のいかにもなふるまいにため息をついている、というタイプですから(笑)。

あ、広島訪問のあたりはさすがにシリアスですが、他はいつもの調子の自虐的ユーモアに溢れた楽しい話です。

日本でのエピソードは、「あ〜、わかるわかる」なところと、「??何のこっちゃ」なところが混じっているのですが、「わかるわかる」と思ったのは、セダリスさんが日本語学校に通うところ。

セダリスさんは来日前日本語をほとんど勉強していなかったので、当然初心者クラスに入るのですが、そこでも落ちこぼれてしまう。「さすがにこの娘には勝てるだろう」と思っていたきゃぴきゃぴした韓国人の女の子にさえ置いていかれてしまって嘆くのですが...でもまあ当然というか。遊びで学んでいる彼と違って、日本で働こうとか大学入ろうと思っている人は真剣さが違いますから。

ちっとも上達しないセダリスさんに対して、日本語学校の先生(女性)は優しくて、決して怒らず、「どうやって励ましたらいいのか」と途方に暮れたように微笑んでいるのがかえって申し訳なくて...といういうあたり、ちょうど、日本語学校の先生のエッセイマンガ「日本人の知らない日本語」(<これも面白い!)を読んだところだったので、「あ〜、フンイキわかるなあ」と思ったのです。

セダリスさんの以前の本「Me Talk Pretty One Day」で、フランスでフランス語学校に入学するエピソードがあるのですが、そのフランス語の先生がものすご〜く意地悪なのですよ。とにかく、初回から生徒の自己紹介の内容を思い切りバカにする。生徒の出身国を政治的に批判する。それに比べると、日本語学校の先生の過剰なまでの優しさは、いかにも日本だなあと。いや、日本人全般がフランス人全般より優しいということではなくて。日本人って、日本語を学ぶ外国人を、それだけで「貴重品扱い」してしまうところあるでしょ?反対にフランス人は「フランス語を学びたいって?ふん、それなら、必死で努力してちゃんとマスターしろよ!」って感じ。

まあ、それにしたって、語学の授業で生徒の国の政治を批判するのはルール違反だと思いますけどね。生徒の方は言葉のハンディがあって十分に反論できないし、そもそも政治議論をする場ではないし。私も昔、英会話教室に代理で来たイギリス人が(英会話の先生としては素人だったのだと思う)、いきなり「日本の湾岸戦争への貢献は十分だと思うか?」と始めたことがあって、ムカついたものですが...あ、また話がそれた。

日本語のマスターには見事失敗したセダリスさんですが、幸い、当初の目的である禁煙には成功したようで、めでたしめでたし(なのか?)。えらくお金のかかる禁煙法ですけどね。

日本語訳の出ている「すっぱだか」は、主にセダリスさんの子供時代・青年時代の話なので、彼の長年のパートナーであるヒュー・ヘムリックさんのことはほとんど出てこないのですが、この本は最近の話なので、彼とヒューさんのほのぼの生活のディテールがたっぷり出てきます。もちろん、自虐ユーモアが売りのセダリスさんなので、あんまりスゥイ〜ト(笑)な話にはならないのですが...でも、愚痴やヒサンな失敗談でさんざん笑わせておいて、最後には「うーん、これは結局ノロケだったのか?」というようなエピソードもあって...

腐女子の方々にオススメだったりします(笑)。