【映画感想】マイレージ・マイライフ ☆☆☆

「忙しい人生を送っていた中年男が、自分の人生を見つめなおし、人との絆の大切さを見出す」という映画のように売っていて、まあそれは売り方としては正しいし、まんざら嘘というわけでもないけど...

でも、それだけを期待していると裏切られます。

こっちの場合、一筋縄ではゆかないのは主人公ではなく、他の人々の方。というか、世間や人生かなあ。主人公は、むしろだんだん、正直で純粋すぎるだけのように思えてくるのです。

この映画、「人とのつながりを求めない男が反省して...」みたいに描かれているようにも思えるけど、私には、なんでこの主人公が「反省」しなければならないのかが分からない。1年のうち320日の出張なんて、私なら考えただけで疲労困憊だけど、それが性に合っている人がいるのなら、性に合った仕事をしていることの何が悪いわけ?「リストラ宣告人」なんて言うと冷たい人間のように聞こえるけど、冷たくないからこそ「宣告」を和らげることができて、そういう才能があるからこそこの仕事をしているのだろうし。悪いニュースを受ける側にとって、「わざわざ遠くから足を運んでくれた」ということがどんなに救いになるかは計り知れない。

例によってちょっと脱線するけど...昔、とある会社に勤めていたときの話。「地域広報担当」といって、消費者からのクレームがこじれてしまって電話では解決できなくなったとき、その人のお宅や販売店舗を直接訪れて解決する専門の人がいたのです。まあ「人あたりの柔らかさ」を絵に描いたようなおじさんで、私は自分と引きくらべて「『女性ならではのソフトさ』なんて、どこの世界の話だろう」と思ったりしたのだけど...私は研修でしばらくその人に同行したことがあります。印象的だったのは、電話では怒りまくり、怒鳴りまくりだった人が、われわれが3〜4時間かけて直接足を運ぶと、それだけで魔法のように穏やかになって「まあ、わざわざ来てくれたしね〜」と言って納得してくれることが多かったということでした。(お金を渡すわけでもないし、説明の内容は電話と何ら変わりないのに。)

まあ、もちろんクビの宣告はもっと深刻だし、足を運んだだけで納得はできないだろうけど...それでもずいぶん救いになると思う。

そんなことさえ分からないような、頭でっかち小娘に意見されてグラつくなんて...まあ、そういう主人公の方が、まだまだ甘いってことかもしれないけど。

実はこの映画で一番納得できなかったのは、主人公の妹の結婚式のエピソードです。妹の婚約者が式の直前になって迷いだして、「これで結婚したら、家を建てて子供ができて子供育てて、子供たちが独立して孫が出来て引退して...そんな人生に何の意味が?」などとヌカす。「あんたは、どうしてそう何もかもうまく行くと思い込んでるのさ?!」と、ケツを蹴飛ばしてやりたくなりました(笑)。彼の説得を姉に命令された主人公は、「とにかく説得して結婚式を挙げさせろ」とプレッシャーかけられているんで、「そんなにうまく行くとは限らないよ」と言うわけにもゆかず、「人生、そばにいてくれる人がいないと寂しいもんだよ、副操縦士がいてくれないと」と、リストラ宣告で培ったソフトな営業モードで見事説得。彼は花嫁に「ぼくの副操縦士になってくれる?」ともういちどプロポーズしてめでたく結婚する。かーっ!何が「副操縦士」だ。彼女が副操縦士ならあんたは乗客か。その飛行機は離着陸から完全オートパイロットか。

でも、この二人はうまくゆくかもしれないんですよねえ。こんな男をあっさり受け入れられる嫁であれば。そう思うと、余計に腹が立つ(笑)。

おかしいのは、主人公がここで、自分の言葉に自分で説得されてしまうことですね。そのへんが甘いというか、純粋というか...だんだん可哀相にもなってくるんですが...この後のツイストは、なかなか見事です。

テンポも台詞もよいし、面白い映画ではあるのですけどね。やっぱり、主人公が故郷に帰るあたりのエピソードが気に食わない。「人生、誰かがそばにいてくれないと寂しい」って、そんなこたあ誰でも分かってるよ。で?