【映画感想】フィリップ、きみを愛してる!☆☆☆

題名と言い、ポスターと言い、「美しいゲイのラブストーリー」で売っているのは明らかで、まあそれは売り方としては正しいし、まんざら嘘というわけでもないけど...

でも、それだけを期待していると裏切られます。

なにしろこの主人公は、一筋縄ではゆかない。ゲイであることを隠して結婚して子供もいたけれど、交通事故で死にかけたのをきっかけに「自分に正直に生きる!」と決意...したのはいいけど、そこで見つけた天職が「詐欺師」。ボーイフレンドに贅沢をさせるために詐欺をしまくり刑務所ゆき、刑務所で運命の恋人と出会って生まれ変わると思いきや、釈放されたらされたで経歴詐称でいきなり重役として就職、持ち前のハッタリで仕事をこなして高給をもらっているのに、退屈しはじめるとこんどは巨額横領...

主人公の行動は「すべて愛のため」とか言っているけど、私はそれは大いに怪しいと思う。では純粋に金のためかというと、それも理屈が通らない。この男は、とにかく嘘をつかずにいられないのだ。生まれつきなのか、実母に捨てられたことにこだわったりゲイであるのを隠したりしているうちにそうなったのか、とにかく「性分」としか言いようがない。皮肉なことに、カムアウトする前は、妻を騙して男と浮気することでその欲求は満たされていたのだけど、カムアウトしてしまうと今度は別のことで人を騙さずにいられない...

性分に嘘が組み込まれている男が、「自分にとことん正直に」生きようとしたらどうなるか。これはそういう、美しくはないけど、興味深い物語。ジム・キャリーの、愛を語っているときですら信用できない危ない目つき。でもそれでいて、「こんな奴だけど、愛だけは本物なのかも」と思わせてしまう複雑さ。

もひとつ皮肉なのは、最近のアメリカの金融界とか保険業界に関するニュースを聞いていると、この主人公ぐらい頭が良ければ、完全に合法な方法で一般市民から巨額の金をかすめ取って、ぬくぬく暮らすこともできたような気がするのだ。

でも彼は、それでは物足りないのでしょうね。いつも全身全霊、体を張った捨て身の大嘘つきぶり。これだけやればいっそ見事で、もう許してやったら?っていう気になるのだけど...

あいにく、ジョージ・ブッシュが知事の頃のテキサス州にシャレは通じないのでした。

この映画、ヨーロッパや日本では拡大公開されているのに、本国のアメリカでは大都市だけの限定公開なのですよね。ゲイの話だからかな、と思っていたのですが...それもあるけど、それだけじゃなくて、いろいろ複雑な事情がありそうです。