【映画感想】フローズン・リバー ☆☆☆☆

意外に思われるかもしれないけど、私が最もアメリカ映画らしさを感じるのは、こういう映画なのです。

現実の社会問題をありのままに描きながら、決して映画としての娯楽性を失うことはない。貧乏から犯罪に手を染める話でありながら、その底には揺らぐことのない倫理観と、人間への楽観的な信頼が流れている。

年齢より老けた白人のおばさんと仏頂面の先住民の女を主人公にした、一見超地味な映画なのですが、あえて語弊のある言い方をすれば、すごくカッコいい映画でした。現代を舞台にして女を主人公にした西部劇であるとも言える。もちろん、アメリカ映画伝統の「バディ・ムービー」※でもある。

そういう意味じゃこれは、「テルマ&ルイーズ」なんかより、「3時10分、決断のとき」に似ている。けど、やっぱり女の方が、地に足がついているというか、筋が通ってますね、やることに。(その分、ロマンがないという言い方もできるけど。)

とにかく、貧乏の描写が具体的でリアルで、説得力があるのですよねー。4300ドル払えなければローンで買ったトレーラーハウスを取り上げられて、今までに払った1500ドルは没収、週末までに233ドルないとテレビが消え、食費以上に命の綱のガソリンさえ「2ドル75セント分」という風にしか買えない。(こんな厳寒のド田舎でガス欠したら凍死なのに!)15歳と5歳の息子のお昼代にも事欠き、孝行息子は家計の足しにと怪しげな商売に手を出しそうだし、1ドルショップのパート店員の給料はスズメの涙、そこへ1回密入国者を運べば1200ドルとくれば、誰だって、私だって、やるだろうねこの立場だったら。

この密入国というのは、カナダーアメリカ国境のセント・ローレンス河が凍りついて車で渡れるからこそできるのだけど、凍りついた大河の光景は荒涼として、生きることの厳しさを象徴しているのだけど、不思議と美しくもある。「ファーゴ」の雪景色が美しかったように。(しかし、同じ「素人が犯罪に走る」でも、「ファーゴ」のウィリアム・H・メイシーとこの主人公の何たる違い。)

密入国者が、密入国組織の「蛇頭」に払う金を何年もかけて貯めるのだと聞いて、「ここに来るために?馬鹿げてる」と言う主人公。まったくその通りなのだけど、これでもここは、あのニューヨーク・シティと同じ州なんだよね。それを思うと、ため息が出ますが。

おそるおそる密入国ビジネスに手を出したレイ(白人おばさんの方)は、運ぶのが中国人だと何とも思わないのに、パキスタン人と聞くと「テロに手を貸すことになったらどうしよう!」とパニックになったりする。もちろん人種偏見なのだけど、あんまり咎める気にもなれない。(でも、この偏見が後でえらいことを引き起こすのだけど...)

美しい厳寒の地を舞台にしたビンボー話にどっぷり感情移入して、深く満足して映画館を出ればそこは渋谷の華やかな喧騒で...またなんとなく、ため息が出たのですが。

※バディ・ムービーの私的定義:立場も性格も違う、最初はお互いを嫌っている二人の人間が、共通の目的のために協力するはめになり、嫌々ながら助けあううちに、ラストまでには不滅の友情で結ばれる、という話。(最初から友人の場合は当てはまらない。恋愛関係になる場合も違う。)