シャニー・デービスとスティーブン

The Colbert Reportは今週はお休みですが、スティーブン・コルベアは昨日(日本時間今日)NBCのオリンピック中継に出演したみたいです。見たいな〜(<ネット動画漁り中)

ところで今日は、スティーブンとスケート「対決」したシャニー・デービス(Shani Davis)が、スピードスケート1000mで「コルベア・ネイション」に初の金メダルをもたらしました。おめでとう!

それを記念して、今日はシャニー・デービス選手とスティーブンについて。

2月3日に紹介した「スケートで(ものすごくハンデをつけて)対決!」では、シャニー選手はニコニコと冗談につきあってくれていますが、実はこの前には、いろいろあったのですよ。

シャニー・デービスは、トリノオリンピックのスピードスケートで二つの金メダルを獲得。彼は冬季オリンピックの個人種目で金メダルを獲得した初の黒人選手です。

2月3日のエントリーで紹介したように、スティーブン・コルベア(正確には、そのファンの集まりであるColbert Nation)は、スポンサーであったオランダの銀行が破産したために困っていたスピードスケートチームのために30万ドル以上の寄付金を集め、チームの正式スポンサーになりました。(でも、オリンピックでは、F1みたいにユニフォームにスポンサーロゴをベタベタ貼るわけにはいかないみたいですね。ちょと残念。)

さて、バンクーバー・オリンピック開幕のだいぶん前、スピードスケートの練習をめぐって、主催者側(カナダ)とアメリカのチームが、ちょっとモメました。「本番で使われるリンクでの練習時間の、外国選手への割り当てが少ない。カナダ選手を優遇している」と、アメリカが文句を言ったわけですな。(他の国はもっと後にならないと現地入りしないからあんまり関係ないけど、アメリカは近いからね。)

ティーブンは、アメリカチームのスポンサー代表だし、ご存知のように番組では「極端なアメリカ至上主義の単純男」を演じているので、この件を取り上げてカナダを「Syrop sucking ice-holes!」と「攻撃」しました。

Syrop sucking ice-holes(直訳:シロップ吸いの氷の穴ども)という「罵言」の可笑しさを日本語で説明するのは難しいのですけど...まあ、ice-holesもsyrop suckingも、別のもっと下品な英語の罵言の、微妙にカワイイ言い換えである、とだけ言っておきます。

ここでご理解いただきたいのは、「The Colbert Report」はカナダではCTVという局でアメリカと同時放送されており、人気番組だということです。アメリカ国外では最大のファンベースがあるのがカナダじゃないかな。だから、カナダのファンは、この「攻撃」が冗談だということをちゃんとわかってます。バンクーバー近郊のビール会社なんて、これを記念して「Ice-holes」という名前のビールを売り出したそうですから(笑)。

ティーブンは今バンクーバーに行っていて、公共の場所でセグメントの収録をやったそうですが、彼の周りに群がるファンの数は、他のセレブや選手と比べても格段に多くて、カナダでの人気のほどを見せつけていたそうです。スティーブンは、オリンピックのことだけじゃなく、以前からカナダをコケにする冗談はしょっちゅうやってるのに!ユーモアのセンスのある人たちなんだろうなあ。

あ、ちょっと話がそれました、デービス選手でした。さて、この「Ice-holes騒動」について、記者がアメリカのスピードスケート選手たちに感想を聞いたところ、シャニー選手がひとこと、「He's a jerk. 彼(スティーブン・コルベア)は嫌な奴だ。」と言った、と伝えられて、ちょっと話題になりました。

スポンサーとしてチームの「救い主」になった人に対してjerkとは?カナダの選手と仲がいいから、スティーブンの冗談を本気にとって怒っているのかな?でも、その一言だけじゃ、どういう意味で言ったのか...ひょっとして、冗談のつもりだったとか?などなど、ファンフォーラムではいろいろ憶測が飛び交ったのですが...

その中である投稿者が、「ひょっとして、シャニー・デイビストリノの時にスティーブンがやったセグメントを誤解しているのでは?」という意見を出し、私もなるほどなあと納得したのです。

トリノ・オリンピックでは、シャニーに関してちょっとした騒動がありました。シャニー選手が本命であったスピードスケートの1000m、1500mの前に行われたショートトラックの「チーム・パシュート」に、シャニーが「個人種目のトレーニングを優先して、出場をやめた」、ということで、チームメイトのチャド・ヘドリックが「チームプレイ精神が欠けている」と批判した、という件です。

私もこの話はなんとなく聞いていて、「でも、自分が一番力を入れていて、金メダルの可能性が高い種目に集中するのは当たり前じゃないかな〜。個人種目だって、チームに金メダルをもたらすことに変わりないんだし。」とか思っていたのですが...よく調べてみると、この「出場をやめた」ということ自体が、マスコミの煽りだったようなんですよね。

シャニー・デイビスは以前は「チーム・パシュート」の選手でしたが、この時点ではもう何年も「パシュート」のトレーニングをしておらず、そもそも「パシュート」の補欠リストに自分の名前が入っていたことも知らなかったそうです。それが、直前になって突然、ヘドリック選手が「彼に出て欲しい」と言い出して、シャニー選手にしてみれば、「え?明後日が自分にとって一番大事なレースなのに、何でいきなり?」という感じだったようです。しかも、「パシュート」のためだけにトリノに来ていた専門の選手は何人もいて、シャニーが出場したらその選手たちには出場機会がなくなってしまうのに。
(参照:http://en.wikipedia.org/wiki/Shani_Davis#Turin_and_the_.22team_pursuit.22_controversy

それを考えると、ヘドリック選手の言い分も変なんですが...どうも、話を面白くするためにマスコミわざと誤解を煽った、という面が大きいようですね。

説明が長くなりましたが、で、とにかくスティーブンは、当時この騒動を番組で取り上げたのです。

The Colbert Report 2006/2/22 Speed Skating Debacle

ティーブン:デービス選手とへドリック選手の争いが続いている。ジミー、映像を流して。...え、権利がない?そんなはずはない。ぼくの兄のエドワードはオリンピック委員会の弁護士だぞ。(<注:本当。)兄に電話した?...兄がダメだって言った?エドを「警告ボード」に載せておいて。くそっ、しょうがない、何が起きたか、ぼくがスピードスケートチームを象徴する代替品を使って再現しよう。スピードスケートチームのスポンサーはどこ?ナイキ?....オランダの銀行だって?!...OK、オランダを象徴するものと言えば、まず娼婦と(人形を出す)...水ギセル(マリファナを吸う道具)だな。(※)この場合、ヘドリックが水ギセルで、デービスが娼婦だ。

(上記騒動の説明が入る。)

...贔屓はしたくないけど、この場合、ヘドリックの方が正しいね。彼がボング(マリファナを吸うキセルの呼称)だからじゃないよ。デービスは、個人種目のトレーニングに影響したとしても、チーム種目に出るべきだった。人は、時には個人の栄光を犠牲にして、チームのために尽くすべきなんだ...黒人ならね。

今月は「黒人歴史月間」だ。アメリカの黒人たちは歴史的に、いつもチームのために自分を犠牲にしてきた。たとえば、クリスパス・アッカスだ。彼は独立戦争で最初に戦死した兵士だ。ボストンの虐殺で。ボストンは、ジャズで有名なわけじゃないのに。カリフォルニア・エンジェルスのドン・ベイラー死球の記録を持っている。文字通り、わが身を犠牲にしていたわけだ。映画の世界では、「ロッキー4」ではカール・ウェザースは殴り殺されたし、「ディープ・ブルー」ではサミュエル・L・ジャクソンが...(サメに食われるシーン)...究極のチームプレイヤーはコリン・パウエルだ。イラク戦争で、彼は本当にチームのためにわが身を犠牲にした。彼がどんなに熱をこめて、イラク大量破壊兵器があると語ったか...そして、結局、見つからなかったことを考えると...彼がどこに隠したか、もうわかるよね。

悪いけど、シャニー・デービス、君はチーム・パシュートに出るべきだった。チーム・パシュートに比べたら、個人競技に出て、世界のすべての国で、冬季オリンピックの個人種目の金メダルを取った歴史上初めての黒人選手になったことなんて、取るに足らない。

「The Colbert Report」をいつも見ていて、スティーブンのスタイルをよく知っている人なら、このセグメントが実はシャニー・デイビスに味方するもので、「チームのために個人を犠牲にすべき」という主張の中には人種差別が混じっているのでは?ということを、皮肉の形で示唆しているものだということがわかるのですが...

でも、スティーブンをあまり知らない人がいきなり見たら、もしかしたら誤解するかもしれないね、たしかに(笑)。

ティーブンはシャニー選手の「jerk」発言を番組で(冗談ぽく)取り上げて、彼に「スピードスケートのレースで対決だ!」と挑戦しました。「...ただし、すご〜〜く大きなハンディをつけてくれることが条件だけど。」

無茶苦茶なハンディをつけてもらったにも関わらず、スティーブンは負けたわけですが...とにかく「レース」のセグメントを見ると、スティーブンとデービス選手は仲直りした(というか、仲良くなったというか)みたいで、めでたしめでたし。

この「レース」後のインタビューでシャニー選手は「スティーブンがテレビで何をしているのかやっとわかった」と言っていたそうですから、やっぱりよく知らなかったんでしょう(笑)。

とにかく、シャニー・デイビス選手、二大会連続の金メダルおめでとう〜!「コルベア・ネイション」の一員として(寄付はしてないけど)、心から嬉しいです。

ふう。同じオリンピックの「騒動」でも、アメリカやカナダはいいなあ、なんか楽しそうで...

※オランダには、国営の合法な売春施設がある。また、マリファナ大麻)も一部合法。