口の中の足〜失言の3つのカテゴリー

先ごろアメリカで、一昨年の大統領選挙の内幕暴露本が発売されて話題を呼んだのですが、その中で、民主党の大物上院議員ハリー・リードの「問題発言」がすっぱ抜かれて話題になっていました。「オバマは肌の色が薄いし、『二グロ方言』を使わないので(黒人独特の喋り方をしない、という意味)、選挙で勝てるだろう」という発言。

また、つい2〜3日前、TVの24時間ニュース局MSNBCのキャスターのクリス・マシューズ(このインタビューの人)が、オバマ大統領の一般教書演説を賞賛して「一時間、彼が黒人であることを忘れていた」と発言して問題になっています。

こういう失言のことを英語では、「自分の足を口に入れる(put one's foot in one's mouth)」と言います。マシューズさんなど、ある記事で「口に足を入れるのがオリンピック競技なら、彼は金メダル確実だ」と書かれていたほどです(笑)。

でも、この二人が人種差別主義かっていうと、そんなことはないのです。むしろ逆。

ハリー・リードは、まだ民主党内でオバマが「経験が浅すぎる」と大統領候補としてあまり評価されていなかった時期から、彼を強力バックアップしていた人です。クリス・マシューズも当初からオバマの支持者で、今でも熱烈なファンのひとりです。

つまり二人とも、「オバマは黒人とか白人とかを超えた存在」だと言いたかったのだと思います。なのに、結果として人種差別的な言い方になってしまったのは、ひとえに、「ふたりともジイサンだから」としか言いようがない。(<年齢差別!)

子供の頃、若い頃にしみついた「言い方」というのはなかなか抜けなくて、気をつけていても何かの拍子に出てしまうものなのですね。

しかし、こういうのは純粋に「言い方を間違えた」だけの失言で、あまり罪はないと思うのですよね。我が国の例でいえば、麻生前首相の「老人は働くしか能がない」というのが、これにあたると思います。あれは本当に、「高齢化社会だから、65〜75ぐらいの元気な老人はなるべく働いてほしい」と言おうとして、言い方を間違えただけで。

しかし、もっと問題の深い「失言」もあります。それは、その失言の背景に、発言者の根本的な認識不足や考え方の誤りがある、というタイプのもの。

これが得意なのは我が国の政治家で、同じ麻生首相の失言でも、「不健康な生活で病気になった人の医療費を、健康に気をつけている私が払わなきゃならないのか」「金のない人は結婚しない方がいい」「私は子供が二人いるから義務を果たしている」、またこれは別の政治家でしたが、「女性は子供を産む機械」発言などがこれに当たると思います。

これらの発言からうかがえる根本的な考え方がどう間違っているのかは、ここではいちいち論じませんが...とにかく、これが第二のカテゴリー。

いわゆる「失言」の中には、もっと悪質なものもあります。これは本当は「失言」ではなく、「暴言」と言うべきなのかも。

それは例えば、先日書いたアメリカの人気右派ラジオ・パーソナリティであるラッシュ・リンボーの「オバマはハイチの救援を黒人の間の信用を上げるために利用するつもりだ(から協力するな)」、あるいは彼の以前の発言「フェミニズムというのはブスが言いたいことを聞いてもらうために考え出したものだ」とか...

我が国で言えば、もし暴言のオリンピックがあればラッシュ・リンボーと金メダルを争えるであろう東京都知事石原慎太郎の発言の数々が、これにあたりますね。たとえば、「文明の弊害は(もはや女として役立たずの)ババアを生き残らせること」というやつとか。

これは「うっかり言い方を間違えた」とか「つい余計なことを言って認識不足を露呈してしまった」とかいうものではなく、自分の差別的考え方が絶対に正しいと信じ込んで、できる限りそれを世の中にまき散らそうとしている確信犯。鹿児島県の阿久根市長のブログも、こっちに入ると思う。

何が言いたいのかというと、「失言」「問題発言」と言ってもこの3種類があり、いっしょくたには語れない、ということです。

第一のカテゴリー、つまり単なる言い方のまちがいなら、もちろんその失礼さは指摘すべきですが、その後は、マスコミもあんまりしつこくこだわらずに忘れるべきだと思う。

第二のカテゴリーの場合、「病気の人に失礼な言い方」とか「子供を産めない人を傷つける言い方」とか、そういう方面ばかり追求するより、もっと根本的な...例えば医療保険制度の根本原則について政府はどう考えているのか?とか、男性には子供を産み育てることに責任がないと考えているのか?とか、単に謝罪を求めるんじゃなくて、本人のぶっちゃけた考え方を聞いて、この際だから議論を広げるべきだと思う。ある意味、チャンスなのだから。

第三のカテゴリーについては...本人に反省を求めてもムダ。そういう人間の意見を拝聴したり、ましてや公職に選んだりすべきじゃないですね、そもそも。