「キャピタリズム」を止める女〜昨日のThe Daily Show(1/25週-1)

昨日の「The Daily Show」のゲストは、TARP(不良資産救済プログラム)の監視機構のリーダーで、ハーバード大学法科大学院の商法の教授エリザベス・ウォーレン。政府関係の人のインタビューとしては久しぶりに、非常に面白いインタビューでした。

この人、マイケル・ムーアの「キャピタリズム マネーは踊る」にも出てましたね。短い出演なので、印象に残っていないかもしれませんが...これから観る方は、注意してみて下さい。なんたって、ジョンが「旦那さんが見ていてもいいから、あなたにキスしたい」なんてことを言った女性なのですから(笑)。

The Daily Show with Jon Stewart 2010/1/26

ジョン・スチュワート:8ヶ月前にあなたがいらした時、アメリカ経済がどうしてこういうことになったのか、独立戦争の時から1980年代までの流れを分かりやすく説明してくれましたよね。今夜は、1980年代から今までのことを説明してくれませんか。独立戦争からもういちど復習します?

エリザベス・ウォーレン:いいですよ。つまり、経済は10年周期ぐらいで大好況と恐慌を繰り返してきたのです。そして1929年の大恐慌がありました。その後、(それを防ぐ)ルールが作られ、そのおかげで大恐慌から1980年代までは、好況・不況の波はあっても、金融恐慌と言えるものはなかったのです。

スチュワート:1980年代までは。80年代に何があったのですか?

ウォーレン:簡単に言えば、その時までは、ルールがあったのです。抵当やローンやクレジット、あらゆる消費者対象の融資に対して規制がありました。大きな金融機関、ウォール・ストリートの大物たちが、考えたのです。「うーん、こういう規制があるから、我々は大きな商売ができない。どうにか、監督省庁に手を回して、取り込むことはできないかな?」

スチュワート:「手を回す」というと聞こえが悪いですけど、「ハグする」って言えば...

ウォーレン:それでもいいですよ。どう呼ぼうと、つまりは「警察の見張りをなくす」ということです。見張りがいなくなれば、利益追求のモデルを変えることができる。そして、彼らがやったことは、実際に「警察の見張り」を追い払って...

スチュワート:どうやったのです?どうやって見張りを追い払ったのですか?賄賂?

ウォーレン:いえいえ。問題の一部は、監督者がバラバラだったことです。7つのばらばらな監督機関がありました。

スチュワート:彼らの力を弱めたのですね。

ウォーレン:そうです。現在でも、7つの機関が7つの別々の方向を見張っていますが、消費者の方を向いている機関はひとつもありません。彼らは銀行や、ファンドや、そういうものの方を向いています。(金融機関は)監督機関を手なずけて、見張りをなくして、売っている金融商品の性質を変えました。かつてよりずっと危険な抵当権、ずっと危険なクレジット、車のローンですら、以前より危険になりました。彼らは、そういったアメリカの家庭の「支払いの約束」を集めて...「これは金になる」と、それらをスライスして、細切れにして、組み合わせ直して、魅力的なパッケージにして売りまくり、結果として、3つの現象を引き起こしました。まず最初に、利益が天井知らずに急騰しました。

スチュワート:あなたがそう言う時の、神に助けを求めているみたいな目がいいですね。

ウォーレン:その通りです。次に、彼らのボーナスの額が天井を超えて、天まで昇りました。第3に、リスクの高さも大気圏を超えて、天まで昇ったのです。そして、元々そのシステムに内包されている危険が姿を現しはじめ、市場は少し悪化し始めました。そうしたら、それを始めた張本人であるウォールストリートのCEOたちは、アメリカ国民に向かって、要するに、こう言ったのです。「大変だ!われわれに救済金をくれなければ、みんな死ぬぞ!」だから、国は救済金を出しました。そして今、われわれはこの物語の最終章を書いているところです。問題はこういうことです。われわれはこれからも、このバブルと大恐慌のサイクルを続けるのか。ウォールストリートのCEOが全てのルールを書き続けるのか。それとも、「ノー、もうこれはたくさんだ。今度こそ本当に前に進むぞ。」と言うのか。安全にローンを組むことができ、安全にクレジットカードを使うことができ、いくらかかるのかが把握できるようなシステムです。

スチュワート:リスクを制御可能な範囲にとどめるのですね。ご説明をうかがっていると、本当にシンプルなことのように思えます。なら、どうして...あなたは8ヶ月前にこの番組に来て、その種の規制について、とても筋の通った計画をご説明されました。少しの変更で、その方向に向かえるように思えました。(それなのに、まだ規制が実現していないのは)議会が彼ら(CEOたち)を恐れているからですか?それとも本当に(規制が)国のためにならないと思っているからですか?それとも、理解していないからですか?「大きすぎて破綻できない」銀行や、クレジットカードの契約が20ページの長さになるようなことがないような、以前の合理的なシステムに戻す。それだけのことが、どうしてこんなに困難なのですか?

ウォーレン:彼らは、ちゃんとわかってやっているんですよ。ごまかされてはいけません。

スチュワート:「彼ら」とは?

ウォーレン:ウォールストリートのCEOたちです。銀行家です。力があり、現在のシステムから巨額の金を稼いでいる人々です。彼らはちゃんとわかっています。そして、ワシントンの楽屋裏で、現状を守ろうと全力を尽くしています。表に出るときは感じのいい顔をしていますが...

スチュワート:本当にキレイな顔をしていますよね。

ウォーレン:歯並びもよくてね。でも、表舞台から離れると、「いくら金を注ぎ込んでいると思っているんだ。何ひとつとして変えさせないからな。」と言うのです。彼らを見ていると、こう言いたくなるんです。「『われわれ国民が金を出して、あんたたちを救済したんだ。』この文章のどこがわからないの?(What part of "We bailed you out" do you not understand?)救済金がなければ、彼らの会社はなくなり、彼らは失業しているんです。

スチュワート:でも、彼らはいまだに、自分たちが間違ったことをしたとは思っていないのでしょう?議会の公聴会で、ジェイミー・ダイアモンドは「こういう(景気後退は)5年か7年毎ぐらいに起こることだ」と証言しました。彼は「われわれの失敗は、不動産価格が下落することもあるということに気がつかなかったことです」とも言っていました。まるで、不動産価格だけは、すべての経済の原則の例外であるように...彼らの証言は嘘なんですか?

ウォーレン:もちろん嘘ですよ。

スチュワート:何?!(うろたえる)彼らはちゃんとわかっていて、議会の前で、アメリカ国民の前で...あれはただの茶番で、議員もちゃんとわかっていて、ちょっとした小芝居をやって、一緒に楽屋に戻って、一緒に以前とまったく変わらないルールを書いていると、そういうことですか?

ウォーレン:その通りです。だって彼らは、今のルールが大好きなのですよ。この危機を招いたルールです。JPモーガンのジェイミー・ダイアモンドが言った通り、5年から7年の周期でバブルと恐慌を繰り返すモデルです。彼らが一番儲かるシステムはそれなんです。

スチュワート:ロビイストと議員がそんな風に協力しているのなら、どうやってプレッシャーをかけることができるんです?負け戦のように思えますが。

ウォーレン:いいえ!これは負け戦ではありません!

スチュワート:(叱られたように)...ぼく、「負け戦」って言いました?あー、取り消します。

ウォーレン:今が勝負の時なのです。今から50年間のアメリカ経済の行く末を、今まさに決めようとしているのです。今の時点では、CEOたちは上院において全ての意味のある変更案を押しとどめています。(This really is the moment. The chips are all on the table here. We are going to write what the American economy looks like for 50 years going forward. And right now, the CEOs have any real change bottled up in the Senate.)バーニー・フランクのおかげで、下院では議案が通り、上院に来ています。上院を通り、大統領が署名すれば、規制が実現します。あなたが議員に手紙を書いたことがないのなら...

スチュワート:あー、何度か書いたことはありますよ。(カメラ目線で)ハロー、メアリ・ランドリュー!(ルイジアナ州上院議員民主党

ウォーレン:今がその時です。

スチュワート:上院にかかっているのですね。でも難しくなりましたね、民主党過半数を失いましたから(※)でも、あなたがこの問題に全身全霊で取り組んでいるのはわかります。上院を通ることを祈っていますよ。シンプルで良識的な法案だと思いますから。

ウォーレン:本当にシンプルなことなんです。アメリカの中間層なんです。今までの30年間、中間層は少しずつ削られ、とり崩されてきました。今はもう、どうにもできなくなりました。この問題を解決して前に進むか、でなければ本当にゲームオーバーです。(It is simple, this is America's middle class. We've hacked at it, and chipped at it, and pulled on it for 30 years now. And now there's no more to do. Either we fix this problem going forward, or the game really is over.)

スチュワート:あなたがそんなふうに言うのを聞いていると...楽屋でご主人が待っていると知っていても、あなたにキスしたくなりますよ。(When you say it like that, and when you look at me like that, I know your husband's backstage, I still wanna make out with you.)

ウォーレン:【爆笑】

スチュワート:エリザベス・ウォーレンさんでした!

つまりこういうことか。ジョンに「キスしたい」なんて言われるためには、ハーバードの教授で、ものすごく頭がよくて、経済について知識豊富で、しかもそれを素人にもよ〜く分かるように簡潔に説明できて、これからのアメリカを決定づけるような重要な仕事に取り組んでいて、ゆるぎない信念があって、あるがままをごまかさずに率直に話し、正しいことをしようと全身全霊で取り組んでいればいいのですね。なんだ、簡単じゃん(笑)

「彼らは、今のルールが大好きなのですよ。この危機を招いたルールです。5年から7年の周期でバブルと恐慌を繰り返すモデルです。彼らが一番儲かるシステムはそれなんです。」

そうか!と思いましたね。「目先の欲にかられて短期的な利益を追求して破綻を招いてしまい、困り果てて税金で救済してもらいに来た」なんて思っていたのは甘かった。バブル→崩壊というサイクルは世界全体にとってはひどいことだけど、金融機関としては、穏やかな好不況のサイクルよりその方が儲かるんだ。で、規制をかけようとすると株価を一気に下げて、規制は経済にとって悪いことだという印象を作り出す。うーん、言われてみればミエミエのことなのに。

すごく面白くてタメになるインタビューでした。

※テッド・ケネディ死去に伴うマサチューセッツ州の補選で共和党が勝ったために、上院での民主党共和党は60:40から59:41になった。2桁の引き算ができる人なら誰でも分かるとおり、民主党過半数を失ってはいない。これは、1議席失っただけで「健康保険改革法案の可決が難しくなった」とか言っているだらしない民主党に対する皮肉。