【映画感想】ジュリー&ジュリア ☆☆☆1/2

ブログと料理についての映画でした。

...と聞くと、「ブログと料理を通じて、人生や愛について語る映画なんだろう」と思うでしょ?でもそうじゃないの。本当に、ブログと料理についての映画なのです。人生や愛に関しては、申し分なく仲の良い夫婦が二組出てくるだけで、たいした展開ないし。

アメリカの有名政治ブログの主幹で、ブログ作成に関する本を出したアリアナ・ハフィントンは、ブログは「自分の情熱を書くもの」だと言っていました。

この映画のヒロイン(2000年代の女性「ジュリー」の方)もそのような考え方で、「自分が本当に好きなことは?」と問いかけ、料理についてのブログを作ることにします。ただのレシピブログでは面白くないので、ジュリア・チャイルドの有名な料理本に載っている500あまりのレシピを1年間で全部作るという挑戦をして、だんだん、それに情熱を傾けるようになってくるのですが...情熱が過ぎて、仕事や家庭生活に支障が出てきたりします。

面白いし、「ちょっといい話」なのですが...映画を見ながらずっと、ブロガーの端くれとして身につまされて、ちょっと居心地悪く感じていたのは...「ブログに時間をかけることの後ろめたさ」なのです。

自分が一番好きなこと、情熱を感じられることをブログにする。でも...でも本当は、一番情熱をかけられることなら職業にすべきなんじゃないの?という、ずっと心の隅から消えることのない疑問なのです。

ブログはアマチュアのものです。ジュリーはたまたま、このブログが人気を呼んで、それがきっかけでプロの「作家」になるのですが...

英語には"published writer"という言葉があります。ただ何か書いているというだけじゃなくて、ちゃんと出版社から本を出版すれば、"published writer"として、「プロ」と認められるわけです。

でも、一度publishされたからと言って、それで「プロ」になったから安心、ってわけにはいきませんよね現実には。特に、最近のように「出版」というシステムそのものが崩壊の危機に瀕している時代では。

それに、そもそもジュリーはそういうことを目指してブログを始めたわけじゃないし。プロになるきっかけをつかむという目的でブログをやるのは、やっぱり違う気がするし。

ジュリーがこのブログを作った2002年と比べても、今はますます「ブログ=アマチュアの趣味、本として出版=プロ」という図式が成り立たなくなってきていて、プロとアマチュアの境界がますます曖昧になっているし...

「ブログで何をしたいのか、何を目指しているのか」:「その目的なら、どのぐらいの労力をかけるのが妥当か」というこのバランスは、簡単には答えの出ない、できれば棚上げしておきたい問題なのです。

そういうところを棚上げしたまま、ブログに情熱を注ぎ込み、非常識なほどの時間をかけまくるのは、本当にたやすいことなんですよね。これ、経験から言ってますけど(笑)。でも、そこはかとない後ろめたさ、心の隅にひっかかっている疑問は、消えることがないのでした。

と言いつつ、今日もブログを書く私(笑)。

書くこと(ブログと出版)についてもそうですが、料理っていうのも、現代では「そんなに好きで、技術も人より上なら、どうしてレストランで働かない?」と言われてしまうことですよね。

ジュリア・チャイルドの時代は、そういう矛盾を感じる必要はなかったのだと思います。彼女の時代の既婚女性は、特にジュリアのように地位の高い夫を持っている奥様は、職業を持たないのが当たり前でしたから。「生きがい・情熱」が職業と結びつかなくても、世間もそれが当たり前だと思ってただろうし、周りからどうこう言われることはなかったはずです。

それでも、「コールドン・ブルー」の卒業証書にこだわり、料理本を「主婦のための手軽なレシピ」ではなく本格的なものにしたがったジュリアには、単なる主婦の趣味ではない、ちゃんしたものと認められることへのこだわりがあったのかもしれない。

ジュリア・チャイルド自身がジュリーのブログを気に入らなかった、というのは、この映画でほとんど唯一の「意外な展開」なのですが...ひょっとして、そういう意味での「ブログ」ってものへの反感があったのかもしれない。何の関門も審査もなく、誰もがプロ気取りになれるのがブログですからね。

まあ、90歳のおばあさんですから、ブログがどういうものか分からなかったのかもしれないし、単にジュリーが汚い言葉を使っていたからドン引きしたっていうのも、大いにあり得ることですけどね。ジュリアの世代では、いくらザックバランに見える人でも、女性がFワードを使うなんて考えられなかったはずですから。

ジュリーがジュリア・チャイルドに惹かれたのは、ジュリアがアマチュア(プロの料理人じゃないということ)だったからじゃないかなあ、と思います。「そんなに料理が好きならば、どうしてそれを職業にしない?なんで文句言いながら役所の仕事を続けている?役所の仕事の方が社会に役立つと思っているのなら、どうしてそっちに全力投球しない?」という、心のどこかで感じているに違いない疑問に対する答えが、ジュリア・チャイルドだったのかもしれない。

...なんて、ひねくれた見方をしてしまうのは、私自身がそういう疑問を持っているからなんですけどね。

いや、あー、普通はこういう方面で考え込んでしまうような話ではないと思います(笑)。ほのぼのした楽しい映画ですし。

気を取り直して、ちょっと映画の感想らしいことを書くと...いつものことですが、メリル・ストリープは素晴らしい!彼女のジュリア・チャイルドは、もうとんでもなく魅力的です。ジュリアの夫のスタンリー・トゥイッチも、いつもながら上手いこと。この二人ほどではないけど、ジュリーのエイミー・アダムスも可愛いし。

出てくる料理も、もちろん美味しそうです。太りそうだけどね。ああ、バター...

最後に、ひとつだけ下らないことを。2002年頃のブログって、あんまり写真載せられなかったのでしたっけ?料理ブログに写真なしはないだろ〜...と、それが一番気になったことなのですけど、実は。