Wicked〜Defying Gravity深読み(その1)

昨年ブロードウェイで初めて観たミュージカル「Wicked」。

Wicked "Defying Gravity"

舞台を観た時に感動したのはもちろんなんですが、そのあとCDを買って、何度も繰り返し聴いているうちに、このミュージカルの「歌詞」にすっかり惚れ込んでしまいました。聞けば聞くほど、ニュアンスに富んだ素晴らしい歌詞です。(もちろん、メロディや歌唱が良いからこそ歌詞の良さも生きるのですが。)

私が夢中になったミュージカルは数あれど、これほど「歌詞」に惚れ込んだのは、高校一年の時に惚れ込んで歌詞を全部憶えた「ジーザス・クライスト・スーパースター」以来かもしれない。(<ちなみに...私が今英語ができるのは、このお陰がかなり大きい。)

特にこの「Defying Gravity」(重力に逆らって)は素晴らしい。MP3プレーヤーにおとして電車の中で聴いていても、最初の10数回ぐらいはこれを聴くたびに目がうるうるして困ったものです(笑)。

で、こういう時の私の癖として、しつこい分析を書きたくなったわけです。

最初にお断りしておきますが、私は日本語版歌詞についてはまったく知りません。オリジナルの歌詞に思い入れちゃうと、翻訳でニュアンスが失われているんじゃないかと怖いんですよね。いや、歌詞というのは普通の翻訳と違ってメロディに合わせなきゃならないから、ニュアンスが失われるのはしょうがないのですけどね...

あくまでこれは、英語版オリジナルの歌詞を前提とした話と思って下さい。

<以下、「Wicked」前半部分ネタばれ>

さて、この歌までのあらすじをざっと説明しますと...オズの魔法の国。金髪美人で人気者のグリンダと、生まれつき緑色の肌をしていることで忌み嫌われているけど、魔法に関してはずば抜けた才能のあるエルファバ。正反対の二人ですが、魔法学校の寮で同室になったことからなぜか友達になります。

その頃オズでは、今まで言葉を話すことができて、人間と一緒に暮らしていた動物たちが、なぜか次々に言語能力を失って人間社会を追われるという現象が起きています。そのことに心を痛めていたエルファバは、オズの最高権力者である「魔法使い」に会って訴えたいと思っていたのですが、幸い、エルファバの魔法の才能が認められて「魔法使い」に会えることになります。

エルファバはグリンダと一緒に首都の「エメラルド・シティ」に行き、「魔法使い」と会見するのですが...会ってみると、動物たちから言葉を奪っていたのは、他ならぬ「魔法使い」だったことを知るのです。

激怒して「魔法使い」の元を去ろうとするエルファバ。しかし、世渡り上手のグリンダは、ここは踏みとどまって権力者である「魔法使い」に取り入った方が、目的を果たすために有効ではないかと考えます。

Glinda:
Elphaba - why couldn't you have stayed calm for once,
instead of flying off the handle!

グリンダ:
エルファバ、どうしてそうすぐカッとなるの!たまには冷静になったらどうなのよ!

I hope you're happy
I hope you're happy now
I hope you're happy how you
Hurt your cause forever
I hope you think you're clever

あなたこれで満足?
これで満足だといいけど!(I hope you're happy now)
取り返しがつかないほど、目的を台無しにしちゃって、これで満足?
さぞ自分を賢いと思ってるんでしょうね!

Elphaba:
I hope you're happy
I hope you're happy too
I hope you're proud how you
Would grovel in submission
To feed your own ambition

エルファバ:
あなたこそ満足?
あなたもこれで満足だといいけど!
自分の野心を果たすために、這いつくばって服従して
さぞ自分を誇りに思っているんでしょうね!

Both:
So though I can't imagine how
I hope you're happy right now...

二人:
私には想像もつかないけど、
あなたがこれで満足しているといいけど!

Glinda:
Elphie, listen to me - just say you're sorry...

グリンダ:
エルフィー、聞いてよ。どうか一言、謝って。

You can still be with the wizard
What you've worked and waited for
You can have all you ever wanted...

そうすれば、今からでも魔法使い側の味方になれるわ
あなたがずっと努力していた目標が、ずっと待っていた、
ずっと望んでいた夢が、全て叶うのよ。

Elphaba:
I know...But I don't want it - NO - I can't want it
anymore...

エルファバ:
わかってる。でも、もうそれは望んでいないの。
いいえ、もうそれを望むわけにはいかないのよ。

実は私、大学のゼミのテーマのひとつが「1950〜1960年代アメリカの公民権運動」でして、書いた論文のテーマが「マーティン・ルーサー・キング牧師とマルコムX」だったのです。いやもう、表面をなぞっただけの、大した論文じゃなかったのですけど...

それを書いた時から考えていたのです。つまり、世の中に絶対に間違っていることがあって、それを変えたいと思った時...道は二つに分かれていると。その間違っている社会を敵には回さず、あくまで体制の中にとどまって、妥協を繰り返しながら少しずつ変えてゆくか。それともそこから飛び出して、革命を起こすか。

それがグリンダとエルファバのゆく道の違いなのです。

いや、あの、「エルファバ=マルコムX」はいいとして、「グリンダ=キング牧師」は、いくらなんでも無理があるとは思うのですが(笑)。まあ、たとえとして聞いて下さい。

つづきます。