先週のThe Daily Show (1/4週-3)

先週のデイリーショーからもうひとつ。とても共感したというか、どこでも同じなんだなあ、としみじみ感じたセグメント。

The Daily Show with Jon Stewart 2010/1/5 Even Better Than the Real Thing

FOXニュースのパンディット(政治評論家・コメンテーター)たちが口を揃えて言うセリフ、「我々が知っている、我々が育ってきたアメリカが(オバマ政権のせいで)失われようとしている...」

ビル・オライリー:あなたや私が育った頃のアメリカの価値観は、永遠に失われようとしている。

ショーン・ハニティ:オバマは、われわれが育ったアメリカを文字通り破壊しようとしている...

グレン・ベック:このコマーシャルを覚えてる?

(子供がフットボール選手にコーラを差し出す1977年のコカコーラのCM)

ベック:もし政治家が、もう一度、みんなが団結していた、あんなシンプルな時代に戻ろうと言ったら、あなたは喜んでついてゆくだろう。だけど現実は...(悲しげに首を振る)あの時代に戻してくれる政治家なんていない。あの時代から離れていくばかりだ...(涙ぐむ)

...あ〜、ベックさん、それ、現実じゃなくてテレビコマーシャルなんだけど?(笑)

まあ、日本だって「三丁目の夕日」とか観て「昭和三十年代はよかった、人々の心は暖かくて、シンプルな時代だった」と言ったりする人もいるから、あんまり人のことは笑えませんけどね。(それ、現実じゃないから。漫画と、漫画を原作にした映画だから。)

さて、これらのコメンテーターたちは、口を揃えて「我々が育った、かつてのアメリカの価値観」と言うけど、実はそれぞれ育った時代が違うんですよ。

そこで、英国人特派員のジョン・オリバーは、「古き良き価値観があったアメリカのシンプルな時代」とは、一体いつのことであるのかを探るため、それぞれの時代に大人だった人々に話を聞くことにしたのでした。

まずは、グレン・ベックが育った70年代から、先ほどのコカコーラのテレビコマーシャルを作ったプロデューサー。

プロデューサー:1970年代がいい時代だったとは思えないね。イランの人質事件や、ガソリンを買う長い列...

オリバー:でも、あのコマーシャルは...

プロデューサー:あれは現実の反映じゃないよ。ただのコマーシャルだ。第一、あの頃はペプシに散々やられていたんだ。

オリバー:それでは、ショーン・ハニティが育った1960年代?

作家で活動家のポグレビンさん:そう、たしかに音楽はよかったわ。でも女性の権利に関してはよくなかったわよ。公民権も、戦争も...

オリバー:でもテレビドラマの「Mad Men」の時代でしょう?グラマラスで、ハンサムな...

ポグレビンさん:女性たちが台所のテーブルで違法中絶手術を受けて死んでいた時代よ。レイプされて告訴するには目撃証人を連れて来ないといけなかった時代よ。

オリバー:シンプルな時代だったなあ!

オリバー:それでは、ビル・オライリーが育った1950年代?

ロン・ウッド:恐怖が満ちていたね。ポリオ、共産主義、戦争...

オリバー:それじゃ、1940年代?

黒人の牧師さん:われわれは特定のレストランには入れなかった。白人が「このNi**erは大丈夫」と保証してくれないかぎり...

オリバー:1930年代!

イタリア系のおばあさん:何が聞きたいの?

オリバー:1930年代がアメリカ史上最高の時代であってくれないと困る...もうこれ以上はさかのぼれないから。

おばあさん:いい時代じゃなかったわねえ。食べるものにも事欠いて、高校も辞めなきゃならなかったし...ゲームをしたわね。

オリバー:どんなゲーム?

おばあさん:棒に登るの。

オリバー:それじゃあ、みんなが戻りたがっている「古き良きシンプルな時代」っていつなんだ?

オライリー、ベック、ハニティ:私が子供の頃には...

オリバー:そうだ!彼らは子供だったんだ。それはシンプルで幸福な時代だった...なぜなら、彼らはみんな6歳だったからだ!子供たちにとっては、世界はいつでも幸福な、単純なところだ。

ベック(テレビ):私はこの国を愛しているから...その行く末が心配でならないのです(涙ぐむ)

6歳の男の子:この人、どうして泣いてるの?

オリバー:君もいつか、自分の失ったアメリカを嘆いてテレビで泣くことになるんだよ。

男の子:そんなことしないもん!

オリバー:この人は、自分の子供時代を理想化するあまり、現実を見失っているんだよ。

男の子:それじゃ、学校に行って勉強しなおせばいいのに。

オリバー:君、とってもいいこと言うね...

これを見て、あー、アメリカ人も、同じようなことを言う人がいるんだなあ、と思いました。

私もねー、「日本の古き良き昭和時代」とか「失われてしまった日本人の美しい心」とか言う人々のことを、いつも思い切り疑わしいと思っていました。それに、「今の子供はこんなにダメになった」「マナーが悪くなった」「モラルが下がった」と聞いて、いつも疑問に思うのは...それって、いつと比べて言ってるの?私は、たとえば20年前に比べれば、モラルもマナーも格段に良くなったと思うのですけどね。以前は禁煙のところで平気でタバコ吸う人なんて山のようにいたし。電車の10人がけのイスにちゃんと10人座っているところなんて見たことなかったし。職場のセクハラもやり放題だったし。日本のモラルやマナーが20年前に戻ってしまったら、私は本当に、非常に、具体的に、困るんですけど。

三丁目の夕日」という映画がTV放映された時、新聞の投書欄に感想を書いている人がいて、「私が子供の頃の昭和時代は、物質的には豊かではなかったけれど心は豊かだった、この映画のように」とか書いていたのですが、投稿者の年齢を見ると、昭和40年代生まれだった...「昭和時代」って、んな大ざっぱな!それに、あなたが育った「昭和時代」は、物質的にも十分豊かだったと思うよ。

日本の「昭和30年代が良い時代だった」というのは、要するにその頃子供だった人々のノスタルジアを刷り込まれているだけだと思うのですけどね。日本の場合、戦時中や終戦直後を「いい時代」と言うのはさすがに無理があるので、昭和30年代にノスタルジアを集中させてるんだなあ。

まあ、私自身は昭和30年代は知りませんがね。「失われてしまったかつての日本人の美しい心」とか言われると、いつも反射的に思い出すことがあるんですよ。それは、以前ちょっと手話を習っていた時のことなんですけど(すみません、マスターする前にリタイアしました)...「石」という言葉の手話は、顔に石が当たるように表現するのですよね。それは、かつての日本では、街中で手話で話していると石をぶつけられたからだ、という理由だそうです。

もちろん、それだけで判断することはできないし、昔の人がみんなそうだったわけじゃないでしょうけど。でも「失われた日本人の心」には、そういう、失ってよかった「心」も含まれているんじゃないかと。平等の意識とか、異文化への寛容性とか、この数十年で日本人が「得た心」の方がよっぽど価値がある、と私は思うのですが。