【映画感想】アバター ☆☆1/2

ジェームズ・キャメロンはすごい映像作家かもしれないけど、脚本家としてはイマイチだなあ。他の人に書かせればよかったのに。

シーガニー・ウィーバーがデイリーショーに来たとき、「ジェームズ・キャメロンは14歳の時からずっとこの映画を作りたいと思っていたのよ!」と言っていたけど...脚本も14歳の時に書いたのをそのまんま使ったんじゃないでしょうね?

表面だけを見れば、アメリカの保守派の人なら(例えば「The Colbert Report」のキャラの『スティーブン・コルベア』なら)「アメリカをダメにしている、ハリウッドのリベラルなアカどもが書いた脚本」とでも言いそうな展開なのに、それでいて隅々に、スタローン映画みたいなアメリカ的無神経が満ち溢れているという、なんだかバラバラな脚本だ。

「『ダンス・ウィズ・ウルブス』と『指輪物語』を適当にミックスしたみたいな話だなあ。」と思いながら見ていたのですが、途中で「いや、そう言ってはダンス・ウィズ・ウルブスにも指輪物語にも失礼だ。」と思い直しました。

では何かと言うと、まんま「ポカホンタス」※ですね。自分が侵略者であるという意識すらないノー天気な白人青年が「未開人」の世界に入ってゆき、族長の娘と恋をする。そう、いつでも必ず、「私のラバさん、酋長の娘」(<古っ!)なのよ。異文化社会に入り込んだ白人男は、必ずその社会では最高階級の「プリンセス」と結ばれるのだ。いいけどさあ、21世紀も10年経って、「最新鋭」を謳っている映画で、まだそのお約束なわけ?ほんと、勘弁してよ。

また、その世界の長い歴史でも5〜6人しか成し遂げていないという偉業なのに、アメリカ人白人青年が挑めばあっさり成し遂げてしまって、なんか急に崇拝される存在になっちゃうし。彼らの神様でさえ、白人男性が祈れば優先的に願いを聞き入れてくれるみたいだし。

完全な異世界ファンタジーなら、話が古色蒼然でも、それほど気にならないと思う。でもこれは、悪役として現代のアメリカ軍&軍事企業みたいな存在を配しているんで、まったく現実から離れた寓話という感じもしないし。社会的メッセージっぽい方向に色気を見せているだけに、そのへん中途半端さがイラつくのよ。

神経が通っている森とか、馬や翼竜(みたいなの)と「絆」を結ぶとか、ああいう設定は面白かったので、そっちをもっと広げる脚本にすればよかったのに。(それには、シーガーニー・ウィーバーの科学者を主人公にすればよかったと思う。)

もうひとつの問題は...コレに出てくる「地球軍」って、あまりに現代アメリカの軍産複合体そのまんまなんで、「科学と宇宙開発は急激に発展してるけど、実はそう遠い未来ではなくて、世界情勢は今と同じような感じなんだろう」と思って見ていたのに、途中で「地球には緑はない、人間が滅ぼしてしまった」という台詞が出てくる。

あのさ、今の段階からそこまで事態が進んでいるのなら...それまでに、とてつもない悲惨なことが、いろいろあったはずでしょ?軍のありかたにしても人々の意識にしても、全然変わってないって、ありえないでしょう?5分間のダイジェストでいいから、地球が今どうなっているのか、何がどうなってそうなったのか、説明しろっての。そうじゃなきゃ、主人公がどうしてあんなにアホなのか、わかんないでしょ?

いや、主人公がアホなのはかまわないのよ。でも、背景がなきゃ、彼がどうしてああいう方向にアホなのか、それすら分からない。主人公だけじゃなく、この映画の地球側キャラクターには、誰一人として背景がない。背景がないので、キャラクター・ディベロップメントもない。根っ子のない木がフワフワ空中を漂っているようなものだ。どんな人間でも、世界や国の状況とまったく関係なく存在しているなんてあり得ない。軍人や科学者なら尚更だ。

せっかく割増料金を払って、メガネをかけてまで立体映像を見ているというのに、キャラの耐えられない平面さに苛立つことになるとは(笑)。

主人公のキャラ設定を、「彼は海兵隊だ」の一言で全て説明できたつもりになってるみたいなのもイヤなのよねえ。あのさ、現代アメリカ人にとって、「海兵隊」がどんな意味合いを持っているかは知ってるよ。でもそれが、遠い未来の宇宙の果てまで行っても、そのまんま通じて当然と思う傲慢さ。※それが現代アメリカ人(...の一部)の実際の傲慢さと重なって、ファンタジーの世界に集中できないのよ。作り手自身がそういう無神経にどっぷり浸ったまま、より程度のヒドい無神経を悪役に据えて、批判しているつもりになっている無神経。

こういうことを言うと、「ハリウッドのSF大作映画なんかに、そんな中身を期待しても無理でしょw」とか言われるんだろうけど...それは違〜う!よく出来たハリウッドのSF/ファンタジー大作は、話もキャラもちゃんとしているものだ。SFXに派手に金をかける一方で、そういうところにも手を抜かないのがハリウッドなのだ。「トランスフォーマー」を見なさい。(いやその、「トランスフォーマー2」は観ていないんですが...)

悪口ばっかりでは何なので、「でも映像はすごいね」と締めようと思ったのですが...あの〜、これってそんなにすごい?技術的にはすごいんだろうね。でもデザインのセンスとしては、そんなに良いとも思わない。(これは純粋に好みの問題だけど。)実写とアニメーション(モーション・キャプチャ?)の融合画面も、思ったほどスムースには感じられなかった。技術的には格段の進歩なんだろうけど...

まあ、散々悪口言った割には点数が良いのは、夜光植物がキラキラ光っているシーンなんかはキレイだったからです。

この映画の技術が映画の作り方を永遠に変えるほど凄いっていうのは、もしかしたら本当なのかもしれない。でも、それとこの映画が良く出来ているかどうかってこと別問題なのだ。

※「ポカホンタス」:ディズニーアニメではなく、元々のポカホンタス伝説のこと。

※例えば、18〜19世紀を舞台にした海洋小説を読んでいると、200年前の英国海軍における「海兵隊」は現代アメリカ軍とは扱いがまるっきり違う。そういうところが面白いと思っていたのですが。