オーブリー&マチュリン「21」(その17)

「マイディア、ジャックの様子はどう思った?」お茶を飲みながら、スティーブンがソフィーに聞きました。

「ええ、とても元気そうね。ありがとう。」ソフィーは顔を赤らめて、「私としては、ちょっと痩せすぎのようにも思えるけど、将官になれて本当に喜んでいるみたいで、私もとても嬉しいわ。」

"he is rather thinner than I could wish"...ははは。ソフィーはジャックにどのぐらい太っていてほしいんでしょう。ジャックを「痩せすぎ」と思うのは世界でソフィーだけじゃなかろうか、と思うけど、これも愛のなせるわざなんでしょうね。

そこへ、ケーキ目当ての子供たちが乱入してきて、ブリジッドが、ポルトガル船が入港してきて旗艦(レイトン卿の南アフリカ艦隊全体の旗艦)にボートが行っている、と報告しました。

このポルトガル船はある紳士を乗客として運んできたようで、その紳士がさっきから旗艦の甲板をレイトン提督と腕を組んで歩いているようです。ジャックはそれをさっきから望遠鏡で見ていたのですが...「あまり行儀のよいことじゃないけど...見たことがある顔なんだけど、誰だったか思い出せないんだ。」

ヘンリー・ミラーだ。」ジャックから望遠鏡を借りて見たスティーブンが言いました。「トリニティ・カレッジで同窓だった。最終学年のとき、『15エーカー』でエドワード・タッフェを殺した男だ。」

「ミラー?そういえばそうだ、近所に住んでいるミラー大尉だ。たしか、提督の従兄弟だった。『15エーカー』って何だ?」「ダブリンの公園で、トリニティの学生が決闘するところだ。」「そうだった。彼は陸軍でもよく決闘をすることで有名だった。射撃の名手で、Hair-Trigger(一触即発)のミラーと呼ばれている。」「喧嘩っ早い性格なのか?」「そう言えるほどよく知らないんだ。陸軍では海軍より決闘が多いし...しかし、あまり親しくしたい相手ではないな。女性関係でとやかく言える立場じゃないが、メイドや雇い人の娘に手を出して、妊娠した女の子がよそへやられた噂をよく聞いている。」「独身なのか?」「そうだ。貴族に近い血筋なので、安売りしないで良縁を待っているそうだ。」「それほど自分を大事にする男が、どうしてそんなに決闘好きなんだろう?」「嫌われ者で射撃の名手なら、不思議はないだろう。」

ミラー大尉と言えば、ウールコム滞在中のクリスティーンに言い寄っていた男じゃないですか。それが、わざわざブエノスアイレスまでやってきて、スティーブンとも昔からの因縁がありそうで、しかも特別製の嫌な奴で、決闘好きで射撃の名手?うーん、オブさん、伏線引きまくりですなあ。