NY 断片的な旅行記(その9)Stephen Colbert in New Jersey 4

えーと、今回はモノスゴイ注がついています。なぜなら、会場の観客はほぼ全員がスティーブンのファンだったので(笑)、質問も答も背景解説は一切抜きだったからです。私がいちいち解説をつけていると長たらしくなるので、下にまとめました。スティーブン・コルベアをよく知っている方(日本に何人いるんだろう...)は飛ばして下さい。

しかし、1時間半にわたって、スティーブンはほとんど自分の話ばかりでしたね。ええもちろん、チケットを買って来ている大勢の客はみんなスティーブンファンなわけで、彼による彼についての話が聞きたくてわざわざ来ているわけですから、自分の話をするのがファンサービスなのですが。でも、ジョンだったら、あまりに自分の話ばかりだときまり悪がって、政治一般とか、この劇団のこととかに話を振ってきそうです。

キャラクターの「スティーブン・コルベア」は、ものすごいナルシストで自分中心主義というキャラ設定なのですが...ひょっとしたら素のスティーブンにも、ほんのちょっぴりその傾向があるのかな?まあ芸能人として、別に悪いことじゃないですけど。

さて、第3部は、観客からのQ&Aコーナー。客席の数箇所にマイクを設置して、「質問のある人は来て並んでください」という形式でした。質問を用意していた人たちはあらかじめ通路に出ていて、ダッシュでマイクに向かったようです。

以下、正確な質問と答えを覚えているわけではないし、もしかしたら別の部分で出た話も混じっているかもしれませんが、思い出せる限りでランダムに書きます。質問は、やっぱり番組に関することが多かったですね。あと、番組の風刺の主なターゲットになっているFOXニュースのパンディットについて。

ホワイトハウス記者クラブ晩餐会(※1)について。

ティーブン:あの会場には3000人ぐらい客がいて、客席にはマイクがないので、自分で喋っているうちはウケているのかいないのかわからなかった。自分では(フツーにコメディアンとして)うまくやっているつもりだった。

・ビル・オライリー(※2)と熊が対決したらどちらが勝つ?

ティーブン:ビル・オライリー

ここでスティーブンは、ビル・オライリーが番組にジョージ・W・ブッシュ大統領をゲストとして呼んだ時の話をしてました。ビル・オライリーブッシュ大統領に向かって、実にサラっと、「Guys like us...(あなたや私のような男は...)」と言っていた。ブッシュを大統領としてどう思うにしても、単なる政治評論家がアメリカ大統領と自分を「あなたや私のような」と当たり前のように同列におくことができるのは、やっぱりスゴい、と(笑)。

グレン・ベック(※3)についてどう思うか。

ティーブン:彼は勇気ある人。毎日高い木に登り、首に魔法のロープを巻きつけて、飛び降りている。

・話の流れは忘れたけど、スティーブンは、「The Colbert Reportに来るゲストには、必ず事前に『ぼくは番組ではスティーブン・コルベアというキャラクターを演じていて、ぼくのキャラクターはアホですから。(だから失礼なことを言っても気にしないでほしい)』と言っている。たとえそのゲストが「いつも番組を見ている」と言っても、念のためにちゃんと断っている」と言っていました。

・チャリティの「Doners Choose(※4)」に協力するようになったきっかけを教えて。

ティーブン:大統領に立候補した(※5)時、番組のファンから彼のキャンペーンに寄付したいという申し出があった。でも、スティーブンの「選挙キャンペーン」は「ドリトス」(※6)がスポンサーになっていたので(笑)、寄付をもらったりしたら法に触れるのではないかと思って(そりゃあ触れるでしょう)、代わりにこの「Doners Choose」を利用して、番組で「スティーブンとオバマとヒラリー・クリントンの3人のうち、誰に大統領になってほしいか」という投票(&寄付)をやることにした。寄付金は学校のテキスト代になった。

・少し前、「The Colbert Reportを見た保守派の人は、スティーブンが本当に(番組で演じている通りの)保守派で、リベラル派を馬鹿にしていると考える」という調査結果がありましたが(※7)、それについてどう思いますか。

ティーブン:あの調査結果は、たいへん光栄に思う。(I'm honored by that survey.)

演技力が認められた、ってことでしょうか。

・「The Daily Show」の「特派員」をやっていた時代(※8)が懐かしいのはどんなことですか?

ティーブン:ジョン(・スチュワート)と話せること…と言いたいところだけど、ジョンとは今でもよく話しているからなあ。「Toss」もやってるし。仕事が少ないこと(working less)かな?

やっぱり「The Colbert Report」の方は、スティーブンの仕事負担量が大変なのでしょうね。出ずっぱりの主役の上にエクゼクティブ・プロデューサーだからなあ。

・質問はよく憶えていないのですが、多分「この仕事をやっていて良かったと思うことは?」という感じ。

ティーブンは2000年11月の大統領選挙の日のことを話していました。

この時、「The Daily Show」では初めて大統領選挙の生放送をやったのですが、ご記憶の方も多いかと思いますが、この選挙は大激戦でした。どちらがフロリダ州を取るかで勝敗が決まるところまで来ていたのですが、フロリダの結果が「Too close to call(接戦すぎて判断できない)」。生放送中には結論が出ず、放送が終わった後も、ジョンとスティーブンとスタッフたちは夜通しスタジオにつめて、ずっとニュースを見ていたわけです。(選挙結果を見届けてから、翌日の放送の内容を決めないといけませんからね。)

ところが、夜中になっても朝になっても結論は出ず。フロリダのある特定の郡、大統領選挙の全てを決めることになったその郡の正確な集計結果が「わからない」という、信じられない異常事態の中、みんな疲労困憊で、イライラしながらニュースを見守っていたわけです。その中で、ふとジョンと顔を見合わせたその瞬間、スティーブンは「自分はなんて素晴らしい仕事をしているんだろう!」と思ったそうです。

2000年の「疑惑の大統領選挙」は、日本の私にとっても衝撃的でした。「アメリカでこういうことがあるんだ!」という感じ。アメリカという国の根底のところへの信頼が崩れたという意味では、翌年の9/11より衝撃的だったかもしれない。(それに、選挙戦のブッシュ氏をハタから見ているだけでも、この人が大統領になったらヤバいってことは十分感じられましたしね。)まして、その展開を夜通し見守っていたジョンやスティーブンたちのフラストレーションと懸念は想像するに余りあるのですが...

でも、そういう状況に陥った時こそ、政治に対する怒りや不満を感じたら、それを容赦ない風刺に変換できる仕事って最高だ...と、スティーブンは言いたかったのだと思います。

と、この夜一番のお気に入りの話を最後にもってきたところで、このイベントのレポートはおしまい。大きな会場で席が遠かったこともあって、あまり「生」で見た、という実感はなかったのですが、普段は聞けない「素」のスティーブンの話がたっぷり聞けて満足でした。

次は、この翌日に行った「The Daily Show with Jon Stewart」のテーピング(収録)のレポートを書きますね。

※1 ホワイトハウス記者クラブ晩餐会:2008/3/14のエントリーを参照。

※2 「The Colbert Report」の「スティーブン・コルベア」のキャラは元々、FOXニュースで「オライリー・ファクター」という番組をやっているビル・オライリーカリカチュアを基本としている。番組では、「スティーブン」はオライリーを「パパ・ベアー」と呼んで慕っているということになっている。

※3 グレン・ベック:FOXニュースの中でも群を抜いたキXXイぶり、パラノイアな主張で人気急上昇したパンディット。スティーブンは右派のパンディットの言動を大げさに誇張することでパロディにしているのですが、グレン・ベックの番組はそのスティーブンの「誇張」よりさらに上をゆくクレージーさを展開している。

※4 Doners Choose(選べる寄付):アメリカ国内の教育支援チャリティ団体。この団体がユニークなのは、インターネットで寄付を集める時、ネット投票と寄付を組み合わせていることです。ネットで世論調査や人気投票をする時の問題は、ひとりが何度も投票するために結果がアテにならない、ということですが、これは一票投じるためには一定額の寄付をしなければならないという方式なので、より正確な統計がとれ、しかも人の興味を引いて寄付金も集まるという一石二鳥の仕組みになっています。「The Colbert Report」では、その後も時々「Doners Choose」を利用したチャリティをやっています。

※5 スティーブンは一昨年、大統領選挙に立候補したのです。もちろん、番組の企画としてですがね。共和党には門前払いされたので、彼は民主党の「サウス・カロライナ州の予備選だけに」出馬したいと申し込んだようです。(予備選に出るには、各州ごとに金を払わないといけない。全50州に出るには番組の予算が足りないので、サウス・カロライナだけにしたのでしょう。)結局これは、民主党に「一州だけという立候補は受け付けない」と断られたのですが。(その後、脚本家ストライキが起こったために番組は長い休みに入り、この企画は自然終了となった。)

※6 ドリトス: お菓子のドリトス。清涼飲料の「シエラ・ミスト」とともに「The Colbert Report」の大スポンサーのひとつ。「スティーブン」が番組中でわざとらしくドリトスを食べたりシエラ・ミストを飲んだりするのは、宣伝と同時にギャグのひとつになっている。

※7 この調査結果を見て「やっぱり、保守派というのは頭が悪くてユーモアのセンスがないんだ!」と言う人もいましたが、私はこの「調査」自体、大いに怪しいと思っています。なぜなら、よく読んでみるとその調査の方法は、「保守派」と「リベラル派」を数人ずつ選んで「The Colbert Report」のセグメントを一つだけ見せ、後で質問する、というものだったからです。これには、
(1) 「リベラル派」を自認する人なら「コルベア・レポー」を見ているか、見ていなくてもどういう番組か知っている可能性が高い。一方、「保守派」を自認する人は見てないだろうし、名前は知っていても番組の正確な内容を知らない可能性が高い。 
(2) サンプルに見せたセグメントは一つだけ、しかもそれはインタビューだった。インタビューではスティーブンはキャラの「濃さ」を適宜調節するので、特に初めて見た人には、スティーブンの言っていることが本気かどうかは分かりにくい。
...という問題があると思います。

この調査の結論は「保守派は馬鹿」ということではなく、「保守派は彼が保守派でリベラル派を馬鹿にしていると思う、リベラル派は彼がリベラル派で保守派を馬鹿にしていると思う。つまり人間は同じ事を聞いても、それが自分の主張に賛成していると解釈しがちである」ということだったのですが、私は納得ゆきませんでしたね。なぜなら、スティーブン本人を知っている人なら(「リベラル派」なら知っている可能性大)、この番組で彼が言うことのほとんどが「反対コトバ」であるということをあらかじめ知っているからです。「人は人の主張を自分の考えに合わせて解釈する」ということを証明したいんなら、「スティーブン・コルベア」という余計な色のついていない、もっと曖昧でどちらとも取れるサンプルを使うべきだったと思います。(でも、それではまるで話題にならなかったでしょうけど。)

※8 2005年10月に「The Colbert Report」が始まるまで、スティーブンは「The Daily Show with Jon Stewart」の「特派員」をやっていた...のはご存知の通り。ちょっと意外なのは、スティーブンはジョン・スチュワートが司会になる前から(前任の司会者クレイグ・キルボーンの頃から)「The Daily Show」に出演していました。