NY 断片的な旅行記(その7)Stephen Colbert in New Jersey 2


ティーブン・コルベア(素バージョン)

このイベントの会場「カウント・ベーシー劇場」に昨日書いたことですが、ちょっと訂正というか補足を。後でちょっと調べると、このRed Bankというのは、New York近郊の海辺のリゾートのようですね。茅ヶ崎みたいなカンジ?で、このデカイ劇場(1500席以上でした)も、NYからの休暇の客でにぎわう夏にはけっこう有名なミュージシャンが公演したりする、という位置づけのようです。私は寒風の11月、しかも夜しかいなかったので、全然そういう雰囲気はつかめなかったのですが。

さて、本題。

まず、今回のイベントの主催者「Two River Theater」の主宰Aaron Posner氏が登場し、自分とスティーブンの関わりを簡単に説明しました。二人はシカゴのノースウェスタン大学で一緒に演劇をやっていて、Posnerさんがスティーブンの演出家だったこともあるそうです。

Posnerさんは簡単にスティーブンの経歴を紹介し、そのあと、いよいよスティーブンが拍手と歓声に迎えられて登場。

この後はスティーブンのインタビューです。形式は3つに分かれていて、

(1)Posnerさんのインタビューによって、スティーブンの今までの経歴を回顧する

(2)「Lighting Round(稲妻ラウンド)」と称して、Posnerさんが用意した質問にスティーブン(素)と、『スティーブン』(スティーブンが「コルベア・レポー」で演じているキャラ)の両方が回答する

(3)観客からの質問

これで1時間半余り。

あらかじめお断りしておきますが...私、たぶんスティーブンの話の5分の1も覚えていません(汗)。帰りのNew Jersey Transitの中で、思い出せる限りノートに書きだしたのですが、3ページぐらいしか書けませんでした。

まあ、覚えている限りと、後で他の人のレポートを読んで思い出した限りで書いてゆこうと思います。(順番はめちゃくちゃです。)

まず、インタビュアーをつとめたPonserさんの発言で印象に残っているのは、学生時代にPosnerさんが演出してスティーブンが出演した芝居の中で、スティーブンが学校の校長を演じたものがあって、その校長は、Posner氏の表現によれば「ignorant, high class idiot(無知なハイクラスの阿呆)」で...現在スティーブンが演じている彼最大の「当たり役」、つまり「The Colbert Report」の「スティーブン・コルベア」に似ているんじゃないかということでした。

ティーブンはよく、自分の演じている右派のパンディット(政治評論家・テレビコメンテーター)のことを「無知で、間違ったことを信じ込んでいるが本人に悪気はない、ハイクラスの阿呆」と表現しています。

ティーブンによれば、かつて演じたその校長と『スティーブン』の違いは、スティーブンは「Skillful(巧み)」であるということでした。

ティーブンが学生時代に演じた「校長」がどんなキャラだったのかは知る由もありませんが、スティーブンの解釈は面白いと思いました。つまり、どこにでもいる「無知で地位の高い阿呆」と、テレビに出ている「地位の高い阿呆」(ビル・オライリーとかグレン・ベックとか)の違いは、自分の言うことを信じ込ませる「巧みさ」を持っているかどうかってことなのかな。

さて、最初のパート、スティーブンの経歴を回顧するインタビューで印象に残っているのは、スティーブンと即興演劇のかかわりについての話でした。

ティーブンは大学時代はシリアスな演劇を目指していて、シェイクスピアとかもやっていたようなのですが、なぜ即興演劇に惹かれたかということについて冗談交じりで「セリフを覚えるのがめんどくさかったから」と答えていました。

つまり、普通の演劇でも即興でも、まずキャラクターを掘り下げて、役になりきることをしなければならない、と教えられる。どっちみちキャラになりきらなければならないとしたら...その上セリフも暗記するのは面倒じゃない?ということで。

ティーブンが即興演劇について言っていたことで印象的なのは、即興演劇は、セリフをその場で作っているにしても、「創作」ではないということでした。あれは「創作」ではなく、あくまで役になりきった上での、役としての「反応」なんだと。

ティーブンは「コルベア・レポー」では前述の『スティーブン・コルベア』という人物を演じていて、その『スティーブン』のままでゲストのインタビューもするのですが...彼はゲストによって、また話の展開によって、『キャラ』の部分を濃くしたり薄くしたりして話を引き出していて、その器用さにはいつも感心するのです。あれは即興演劇によって培われたものなのだなあ、とこの話を聞いて改めて納得したのでした。

さて、スティーブンははじめは即興演劇と言っても「シリアス」な即興演劇をやっていたのですが、あるときシカゴの「Second City」というコメディの即興演劇グループに参加します。それでも、スティーブンはシリアス演劇に未練があって、コメディが彼の進む道だとは思っていなかったそうです。

でもある日、同じ劇団の女優の一人が、あるネタを失敗したそうです。そのネタというのは

(いかにもヒッピーの動物愛護活動家という感じの女性がギターを持って登場)「これから『クジラたちに捧げる歌』を歌います。聞いてください。....(まるっきりクジラの鳴き声で)シューーーー!!キィーーー!!」【観客笑】

というものなのですが、ある時その女優さんは間違えて、

「これから歌を歌います。聞いてください...シューーーー!!キィーーー!!」【観客、訳がわからずシーン】「あっ!言い忘れました!これは『クジラたちに捧げる歌』でした!」

...とやったそうです。(この話は別のインタビューでも聞いたことがあったのですが...スティーブンの「クジラの歌」を生で聞くのはまた格別。)

楽屋裏でそれを聞いていたスティーブンたちは、客席に聞こえるほどの大爆笑だったそうです。その時、スティーブンは思ったそうです...「シリアスな演劇なら、舞台で大失敗したら、役者仲間は礼儀正しく気付かなかったフリをして、白々しく(メイクを直す仕草)『どうだった?』とか聞くだろう。それがコメディなら、失敗してもそれを笑い飛ばせる。失敗を気にしないだけじゃなくて、失敗を心から愛することができる。失敗を愛せるなんて、なんてすばらしいんだろう。」

というわけで、スティーブンはコメディの道に進むことになったのです。

つづく。