オーブリー&マチュリン「21」(その15)

飛行機はもちろん、パナマ運河もなく、陸上交通手段も馬ぐらいしかない当時、同じ南米でも太平洋側と大西洋側ではイギリスからの距離は大違い。イギリスからブエノスアイレスまで正確にどのぐらいかかったかはよく知りませんが...1か月半ぐらい?

とにかく、家族を呼び寄せる手紙を託したサプライズ号とリングル号が出航した後、風に恵まれ、その他あらゆる点がラッキーだったと仮定して最低限かかる日数が過ぎた後、ジャックとスティーブンは毎日、一番遠くまで見渡せる高台まで登って望遠鏡で水平線を見つめ、リングル号が現れるのを今か今かと待ちわびていました。(もっとも、スティーブンの方は、ついでに鳥を観察したりしていたのですけどね。)

がっかりして港に降りてくる日々が何日か続いた後のある日、いつものように高台に登って水平線を見てた二人。二人が登っている山は緑のほとんどない、荒れ果てた感じで、ジャックは「ウールコムの緑が懐かしいなあ」と言いました。「青色艦隊少将になれたことは本当にうれしいけど、もしなれなくてイギリスに戻ることになっていたら、ウールコムをぼくの少年時代みたいに、父がすっかり変えてしまう前に戻すつもりだった...」

なんてことを話しているうちに、スティーブンが、縦帆艤装の小型船がすでに入港しているのに気付きました。「なんてこった、あれはリングルだ!」とジャック。

リングルはスピードが速いので、二人がえっちらおっちら山を登っている間に、すでに港に近づいていたのですな。で、二人は水平線ばかり見ていたので気付かなかったと。

ジャックは飛び上がり、すごいスピードで急坂を駆けおりて行き、あっという間にスティーブンの視界から消えました。「あれほど大きい男があれほどのスピードで動けるなんて、この目で見ないと信じられないところだ。」とつぶやきながら後を追うスティーブン。

ジャックかわいい。口の悪い人には、「転がった方が早い」とか言われそうですけど...(言っているのは私。)

港に戻った二人は、ソフィーとクリスティーンとクリスティーンの兄のエドワード、パディーン、船酔いですっかりやつれた双子と、元気いっぱいのブリジッドちゃんを出迎えたのでした。