オーブリー&マチュリン「21」(その14)

ブエノス・アイレスの港。アフリカ艦隊が補給と装備に忙しい中、サプライズ号とリングル号は、故国に向けて出航する準備をすっかり整えていました。

さて、ジャックが思いついた「ニュートン級の名案」とは...

ソフィーとクリスティーンと子供たち(ジョージは除く、艦に戻らないといけないので)を呼び寄せる、ということでした。

ジャックはソフィーに、スティーブンはクリスティーンに宛てた手紙を書き終え、コーヒーを飲んだ二人は、副長のハーディング(これからサプライズ号の船長になる)を呼び、意見を聞くことにしました。意見というのは、家族を連れてくる船としては、サプライズ号とリングル号のどちらがいいか、ということ。実際に連れてくる船の指揮を執るのはハーディングになるので。

つまり、リングル号の方がスピードが速く、幅広い風向きに対応できるので、早く家族に会うことができる。でも、レディ2人と子供3人、紳士1人(クリスティーンの兄のエドワードも招待したので)、メイド3〜4人と男の召使1人(パディーン)が乗るとなると、リングル号では少し狭くて、乗客としてはつらいのではないか?

うーむ、パディーンはともかく、メイド3〜4人って...上流階級の家族が旅行するとなると、そのぐらいはいるのですね。いろいろ大変だ。

「それは、リングル号がいいでしょう。」ハーディングは答えました。「リングル号の方がずっと速いですし、まあ多少は狭苦しい思いをされるかもしれませんが、その代わり、リングルがスピードに乗った時、船首が軽快に波を立てる様子を楽しむことができます。あれを見て心弾まない人は、よっぽど楽しみを知らない心の人ですよ!ブリジッドお嬢様は、前回リングルに乗られた時、とりわけお喜びだったようですし。」

ハーディングさんの答えには、かなり船乗りとしての偏見が入っているし、それにリングル号は南アフリカ艦隊にテンダーとして編入される可能性が高いので、そのまま艇長として赴任できるという計算もあるみたいですけど...とにかくそういうことで、家族を連れてくる船はリングル号と決まりました。

「君が『ニュートン級の名案』と言って、中身を言わなかった時、実はぼくも考えていたんだ。」スティーブンがジャックに言いました。「君は若い時から海に出ているから、ぼくのような年をとってから船にのった陸上者(おかもの)は一生かかってもできないぐらい、海に適応している。ブリジッドも、小さい時から海に出た...」

つまりスティーブンの「考え」とは、ブリジッドちゃんは小さい時から海に適応している、一方で双子はほとんど船に乗ったことがない。ブリジッドちゃんはSea Legを持っている...つまり船酔いしないし、揺れる甲板でもすたすた歩くし、水兵に抱かれて高いマストに登っても怖がらないし、スピードが出ると船首に座って、船首波でずぶぬれになるのもかまわずに楽しんでいる(スピード狂のところは母親似かも?)し、とにかく船乗りたちに愛されまくりだし...要は、そういう海への適応性が、海に慣れていない双子に対してアドバンテージになり、年齢差からくる双子の優位を埋め合わせて対等に近くなり、お互いへの尊敬が生まれて関係改善するんじゃないか?ということでした。

「でもスティーブン、シャーロットと、もう一人名前なんだっけ、二人はまだ年寄りってわけじゃないぞ。モーリシャス・キャンペーンの頃に生まれたんだから。」とジャック。「これに関して言えば、トロイのヘレンと同い年も同様だよ。特にリングルみたいな船では、ブリジッドが圧倒的に有利だ。」

二人とも、双子に対してちょっとひどいなあ。特にジャック!ファニーだよファニー!娘の名前を忘れるんじゃな〜い!!(まあ、冗談かもしれないけど。)