vs. CNBC その4(先週のThe Daily Show with Jon Stewart)

The Daily Show with Jon Stewart 2009/3/12 Jim Cramer part 1

The Daily Show with Jon Stewart 2009/3/12 Jim Cramer part 2

The Daily Show with Jon Stewart 2009/3/12 Jim Cramer part 3

12日木曜のThe Daily Showの、CNBCのJim Cramer(ジム・クレーマー)との「対決」の件は、アメリカ(+カナダ・英国などの英語圏)ではえらく話題になっています。翌朝、多くの新聞が一面で取り上げていたほどで。

第二の「Crossfire」事件(2008/3/4、3/6のエントリー参照)と呼ぶ人もいるほどですが、2004年のCrossfireの時より、一般マスコミでの扱われ方は大きいような。

The Daily Showには、元大統領や次期大統領や現役大統領(<ただしパキスタンの)や英国の元首相も来たことがあるのに、たかだか経済チャンネルの株価予想番組のホストがゲストに来ただけでこれほどの騒ぎになるのはヘンな感じもするのですが...

それはたぶん、インタビューの中でジョン・スチュワートがクレーマーさんに言ったように、「カーリー・サイモンを引用するなら、『これはあなたについての歌じゃない』」からなのでしょう。これはCNBC、あるいは経済マスコミ全体...ひいてはアメリカの(いや全世界の)経済危機に影響を受けている人全部と、経済界とメディアの関係全体についての話になっているから。

クレーマーさんはもちろんジョンも、なりゆき上「代弁者」になってしまった。でも、それは偶然のなりゆきだけではなくて、もともと本人たちの持っている資質と、最後には自分の意志も加わっているのだけどね。

いや、わけわかんなくなってきたかもしれないので、経緯をちょっと説明しておきますが...

3/9と3/11のエントリーに書いたように、ことの起りはたぶんCNBCの別のキャスター(元トレーダーの経済評論家)リック・サンテリが、オバマ大統領の住宅ローン救済策(家の差し押さえに直面している人に救済金を出すもの)に反対して、シカゴの証券取引所のフロアから「そんな負け犬をなんで救済するんだ、オバマ大統領、聞いてる?」とぶち上げ、これが大評判になったことでした。

The Daily Show with Jon Stewart」の風刺は、実は政治家と同じぐらいメディア(マスコミ)も中心ターゲットにしているのですが、去年まではやっぱり政治(選挙や戦争)に関する報道が主な標的で、経済ニュースについてはあまり取り上げていなかったのです。

今、デイリーショーが経済メディア(CNBC)に注目したのは、もちろん今は経済が世界の問題の中心になっているからというのもあるんですが...きっかけはやっぱり、このサンテリ氏の発言、特に「負け犬」という一言にあると思うのです。

ジョンが自分で言っているように、デイリーショーの目的は決して「公平」であることではなく、取り上げるネタというのはジョンが個人として反発を感じること、情熱をこめて批判したいと思うことで、またそういうことじゃないと面白い番組にはならないのよね。CNBCの報道にどんなに問題があったとしても、ジョンが本能的に「これはおかしい」と思うことじゃなければ、デイリーショーで取り上げられることはなかったと思う。

だから、一部で誤解されているように、ジム・クレーマーやCNBCが「経済状況の予測を誤ったから」批判しているわけじゃないのです。

あ、えーと、経緯の説明でしたね。それでまあとにかく、デイリーショーはこの件を取り上げることにして、リック・サンテリさんをゲストに呼び、そのインタビューの前に流すためにCNBC全般を批判する痛烈なセグメントを作った。ところがサンテリ氏は出演をドタキャンした。ジョンは彼が出演するはずだった日の番組でそのセグメントを放送し、これが大評判になった。

これに対してCNBCもサンテリ氏もCNBCの他のキャスターたちもノー・コメントを通していたけれど、ひとりジム・クレーマー氏のみが反論してきて、ゲスト出演依頼も承知した。その上、クレーマー氏はNBC系の他のニュース番組に出まくってジョンを批判しまくった。ジョンは「それに対抗して、ジョンがコメディ・セントラルと同系列のViacom系の子供番組やティーン番組に出演して、アニメのキャラに愚痴をこぼす」というセグメントを作っておちょっくった。そうこうするうちに外野(他のマスコミ)が「スチュワートvs.クレーマー」の「直接対決」を面白がってあおりはじめ、クレーマー氏は対決の準備として(?)マーサ・スチュワートの番組に出演してパイを焼いた...とまあ、どっから見ても妙ななりゆきになってきたのですが...

そのわりには、インタビューそのものは大いにシリアスな、大きな問題を提起しているものになったのです。

ジョン自身は前日の番組で「(「直接対決」だなんて騒いでいるけど)見たらがっかりすると思うけどね」と言っていたので、私は「たぶん、あんまり手厳しくやるつもりはないんだろうな。ジョンはたいがいゲストには優しいし、もともと彼はクレーマーさん個人を批判したわけじゃないし、サンテリ氏と違ってちゃんと番組に来るだけ、クレーマーさんは偉いとも言えるし...」と思っていたのです。

ところが、おそらくその事情をある程度変えたと思われるのが、前日になって浮上した2006年のクレーマー氏のインタビューのビデオでした。クレーマー氏は元ヘッジファンド・マネージャーなのですが、その中でクレーマーさんは基本的に「株価をつり上げるために虚偽の噂を流し、売り抜けて儲けること」を、「ヘッジファンド・マネージャーなら誰でもやっていること」と認め、「それは違法だが、SEC(証券取引委員会)は何も分かっていないから」平気だ、という意味のことを語っていたのです。(「本人がやっていた」と言っているのか、一般論として言っているのかは曖昧なのですが。)

このビデオは前からYouTubeにあったみたいですが、前日にHuffington Post(2008/12/10のエントリー参照)が取り上げたことで改めて注目を浴び、ジョンもインタビューの中でこれを使っています。Huffington Postを読んだのか、それともアダム・チョディコフさん(2008/10/23のエントリー参照)あたりが自分で見つけてきていたのかは不明ですが。

クレーマー氏が株価の操作を自分でもやっていたにせよ、自分はやってなくて一般論を語ってたにせよ、明らかなのは、そういうことが横行しているってことを彼は知っていたということなのです。

ジョンは「ぼくは、CNBCのジム・クレーマーに、あの(ビデオの中の)ジム・クレーマーから守ってほしい」と言っています。普通の人が安全だと思って預けた老後資金の401Kや年金を使って、そういう違法な(あるいは違法スレスレの)ことをして短期で大儲けしてまんまと逃げおおせるような人(ビデオの中のクレーマー)から一般人を守ることこそ、経済チャンネルで素人向きの投資番組をやっている「CNBCのクレーマー」の仕事じゃないのか?

それなのに、クレーマー氏もCNBC全体も、番犬ならぬチアリーダーの役割を続けていた。銀行がサブプライムローンで無茶なことをしていて、こんなことは到底続かない、いつか崩壊すると重々承知していながら、銀行の宣伝役を続けていた。そしてその挙句、そのローンを借りた結果、家の差し押さえに直面している一般人を「負け犬」と呼び、この危機の原因のように責めている。これはどう考えてもおかしいんじゃないの?

ジョンが珍しく、他のマスコミが煽ったこの「直接対決」の大騒ぎを全面的に受けて立ったのも、クレーマー氏のインタビューで意外なほど厳しかったのも、たぶん、この騒ぎを利用して言いたいことがあったからだと思います。そしてこのインタビューがこれほどの話題になっているのも、ジョンの言いたかったことが、アメリカの(アメリカだけじゃないけど)本当〜にたくさんの人たちが言いたかったことと重なっていたからだと思う。単に「対立、直接対決、スチュワートのコールド勝ち!」というような話じゃないのよ。

あと、ジョンがインタビューの最後にちらっと言っていたことで...本当に、ついでみたいにちらりと言っていただけなので、聞き逃した人も多いと思うけど...ジョンの75歳のお母さんは、「長期的な投資は安心だ」と信じて引退資金を預けていて、すべて失ったそうです。

もちろん、ジョンのお母さんには優秀で金持ちの息子が二人もいるから、貯金を失ったからといって即生活に困るわけじゃないんでしょうけど...それでも、ジョンが10歳の時からシングルマザーとして教師をしながら二人の息子を育ててきて、二人ともに大学教育を受けさせて、その上で老後の資金も自分でちゃんと貯めていた、それがどっかの誰かのマネーゲームに使われて消えちゃったとなると...「息子は金持ちなんだから、面倒見てもらえばいいじゃん」という問題じゃない気がするのです。

この話をした時のジョンは、本当に悔しそうで、なんだかはっとさせられたのでした。

(長くなりましたが、今日はこのへんで。この話は、後日また書くと思います。)