vs. CNBC その2(先週のThe Daily Show)

月曜日の「The Daily Show」のジョンの説明によると、やっぱりというか、このセグメントはリック.サンテリ氏(CNBCの経済評論家、元デリバティブ・トレーダー)がドタキャンしたから作ったわけではなく、元々彼の出演に合わせて(彼のゲストコーナーの前に流すために)作っていたものだとか。

コレを流した直後に、本人のインタビューをやる気だったのね(笑)。さすがです。

2009/3/4 The Daily Show with Jon Stewart CNBC、投資アドバイスをする

まず、サンテリ氏の、オバマ政権の住宅ローン・ベイルアウト(救済策)に対する「怒りの直言」ビデオを紹介した後…

リック・サンテリ(ビデオ):自分の請求書の払いにも困っているのに、自分の家よりたくさんバスルームがある隣人の家のローンを払ってやりたいってヤツがどこにいる?!(シカゴのトレーダーたちに)そう思うだろう?【トレーダーたち、ブーイングで答える】オバマ大統領、聞いてる?!

ジョン・スチュワート:ウォール街は怒っているぞ!もう黙っていられないぞ!…もっとも、それがこっちにもらえる二兆ドルの救済金なら別だけど。それなら、黙ってもらっとくけどね。

サンテリ氏は出演をキャンセルした…いや、この場合、「出演からベイルアウト(救済)された」って言った方がいいのかな。(観客に)彼に来てほしかったよなあ!そう思うだろう?【観客、歓声で答える】リック・サンテリ、聞いてる?…いや〜、安っぽい人気取りの扇動っていうのは、妙にそそられるものがあるね。

リック・サンテリは怒っている。(家の差し押さえに直面している)「負け犬」の家の所有者たちに報償を与えるべきじゃないと信じている。警告を聞くべきだった...CNBC専門家のアドバイスをちゃんと聞いて、経済がこうなることを予想すべきだった。なにしろ、CNBCはベストの中のベスト、必要な経験と情報を備えた唯一の経済ネットワークだ。

CNBCのコマーシャル:CNBCはテレビ界で唯一、必要な経験と情報を備えた...

スチュワート:…自分たちでそう言っているんだから!

2008年3月11日 CNBC「Mad Money」のジム・クレーマー:ベアー・スターンズは大丈夫!ベアー・スターンズは問題ない!ベアー・スターンズから金を引き上げる必要はない!

〜この6日後、ベアー・スターンズは経営破綻

2008年6月5日 「リーマン・ブラザースは、ベアー・スターンズのようなことにはなりませんよね?」
「リーマン.ブラザースの経営陣はベアー・スターンズとは大違いだ。リーマン・ブラザースの経営陣は責任感があるから...」

〜3ヵ月後、リーマン・ブラザースは経営破綻

2008年4月17日 「メリル・リンチは資産がしっかりしているから大丈夫…」

〜この5ヵ月後、メリル.リンチは資産を使い果たし、今はバンク・オブ・アメリカ傘下に

2007年10月4日 ジム・クレーマー:バンク・オブ・アメリカ株は今が一番安い、絶好の買い時だ。すぐに60ドルを超えるだろう。

〜現在、バンク・オブ.アメリカ株は4ドル以下

2007年12月5日 チャーリー・ガスパリノ:明らかに、AIGが破産することはありえませんね。保険会社は資産がしっかりしていますから。

〜政府のAIGに対する救済金:
2008年9月 850億ドル
2008年10月 378億ドル追加
2009年3月 300億ドル追加
さらに続く…

2007年10月31日 ジム・クレーマー: 株は過大評価されてるかもしれないが、買うべきだ。もっと高くなるんだから。無責任に聞こえるかもしれないが、金はこうやって増やすんだよ。

〜当時のダウ 13,930ドル

2008年2月1日 ジム・クレーマー:実際の企業の業績が悪くたって、市場が手を引いたりしないのはこういう訳なんだ。

〜ダウ 12,743ドル

2008年4月16日 クドロー&カンパニー: サブプライムの件は、最悪の時期はもう終わりました。

〜ダウ 12,619ドル

2008年6月13日 ジム・クレーマー: 一言で言えば、つまり、今は買い、買い、買い、ってことだ。

〜ダウ 12,307ドル

2008年11月4日 「Fast Money」のガイ・アダミ: ファンダメンタルズが戻してっきました。人々は自信を取り戻しつつあります。

〜ダウ 9,625

ジョン・スチュワート:ワオ、もしCNBCのアドバイスに従っていれば、今頃100万ドル持っていただろうね…1億ドルで始めていればの話だけど。

CNBCがイケナイのは、単に「経済状況の予測を誤った」ということだけではなくて、財界の重鎮たち、今まさに問題になっている、何兆ドルもの救済金を受けている大企業・金融機関(住宅ローンの救済金なんて、これに比べれば僅かな金額)の経営者たちへのアクセスを持ち、何度もインタビューする機会を持ちながら、彼らのご機嫌を取るばっかりで、問題をえぐりだすような鋭い質問をすることをまったく怠っていたことです。

メリル・リンチのCEO:当社の経営は順調です。問題ありません。

CNBCのレポーター:まあ、他のCEOの方たちにインタビューしても、みなさんそうおっしゃるんですよ!すごいことですわね!

スチュワート:まったくすごいね!当の会社のCEOが、自分の会社の経営が上手くいっているって言ってるんだから。自分のことだから、よく知ってるはずだよね。たとえば、ぼくはOJ・シンプソンと知り合いだけど、彼は元妻を殺してないって言っていた。彼が言うんだから、それは本当だよね?なにしろ、本人なんだから!

きわめつけは、現在、詐欺の疑いでFBIの調査を受けている投資会社の社長アラン・スタンフォードに対するインタビュー。

CNBC:あなたはこのサブプライム・ローン問題の影響をほとんど受けずに済んでいますよね。秘訣はなんですか?

スチュワート:彼はポンジー・スキーム(無限連鎖講、ネズミ講)をやっていたんだから!投資する代わりに、盗んだんだよ!

CNBC:最後にひとつだけお伺いしたいんですが…

スチュワート:お、いよいよ鋭い質問か?

CNBC:億万長者になるのは楽しいですか?

アラン.スタンフォード:(ニコニコしながら)…ええ、まあ。

スチュワート:F#%K YOU! あんたたちのどっちが刑務所に入るのを見たいか、決められないよ。

こういうことをやってたくせに、今のCNBCは「経済が回復しないのはオバマ大統領が悪い」の大合唱だそうですから。

市場状況の予測を外したってだけなら、まあ専門家とはいえ人間、間違うこともあるだろうし、テレビで楽観論を繰り返すことで、市場がよけいに落ち込むのを防ごうとしていたとも取れるのですが…

でもねえ、だったら楽観論に基づいてローンを組んで家を買って、今その家が差し押さえの危機に瀕している人たちを「無責任な負け犬」と呼んだりすべきじゃないと思う。それに、これだけ財界のお偉方たちにおもねっておいて、今になってオバマ政権を批判することで「権力と戦う怒れる国民」みたいな顔、すべきじゃないと思いますね、少なくとも。(<私が一番ひっかかったのはここ。)

かなり話題になっているこのデイリーショーのセグメントについて、CNBCとリック.サンテリ氏は「ノー・コメント」を通しているのですが…ここで批判されたCNBCの経済評論家のひとり、ジム.クレーマー氏(一番たくさん出てきた人)は、「ビデオを『アウト・オブ・コンテキスト(文脈を外して)』で引用された、ベアー・スターンズ株を買うように勧めたことなどない」と反論しています。

たしかに、ジョンが使ったビデオの中でははっきりと「ベアー・スターンズは買い」とは言っていないのですが…(でも、あんなに大声で「ベアー・スターンズは大丈夫!問題ない!」と叫んでいる時点で、買いを推薦しているも同然だと思うけど。それに、あと4つのクリップに関してはどうなのよ?)

しかし、そこはさすが名だたる「The Daily Show」の調査チーム。さっそく、クレーマー氏がその数週間前に、はっきりきっぱり「ベアー・スターンズは買い」と言っているビデオを複数見つけてきて、とどめを刺しています。

2009/3/9 The Daily Show with Jon Stewart

なんか…こういう人って、自分の言ったことをいちいち覚えてないんでしょうかね?

昨日クレーマー氏はMSNBCの朝の番組に出て、「これからはこっちもジョン・スチュワートの言っていることをずっとチェックして、間違ったことを言ったら指摘してやる」とか言っていたそうな。なんちゅう、情けない発言。もっと情けないのは、きっと口だけで、そんなめんどくさいことをする気はないだろうってことです。(本当にそれをやろうと思ったら、かなりの根気と知識が必要だからね。)

さらに情けないのは…「ジョンの発言の間違っているところを発見して突っ込みを入れる」という、そのことに関しても、ジョンとそのスタッフが自分でやった方が、ずっとずっと上手くできるだろうってことで(笑)。

ところがクレーマーさん、鈍感なのか度胸があるのか、木曜のゲストに来るそうですよ。まあ、来る動機はわかるのですけどね。結局、テレビで番組を持ち続けられるかどうかは発言の正確さじゃなくて視聴率にかかっているのだから、言っていることむちゃくちゃでもなんでも、とにかく注目を集めることはクレーマー氏にとってマイナスにはならないんだと思うし。

でも、この件全体として私が考えさせられるのは、オバマ政権の経済政策が正しいかどうかってことじゃなくて(それは私には判断できない)、「自分の発言に責任を持つ」ってことなのです。

この間デビッド・レターマンの番組に出たとき、ジョンは「アメリカには24時間放送の経済専門チャンネルが3つもあるのに、そのチャンネルの専門家たちは『何が起こっているのかさっぱりわからない』って感じで…まるで、ハリケーンの最中にお天気チャンネルに回したら、気象予報士たちが『なんで私はずぶ濡れなの?どうしてこんなに風が吹いてるの?』と叫んでいるみたいだ。」と言っていました。

これは、面白い喩えで…例えばの話、もしもハリケーンカトリーナの時にお天気チャンネルで、「大丈夫、雨はもうすぐやむし、堤防が決壊することはないから、避難する必要ないですよ〜」なんて言ったマヌケな気象予報士がいたとして(もちろん、実際にはそんな人はいなかったのですが)…その結果として死んだ人がいたとしたら、その気象予報士はやっぱり責任を問われるんじゃないでしょうか?最低でも、番組は降ろされているよね。経済だって、場合によっては生死にかかわることなのに。

つまり、自分が「専門家」を名乗る事柄に関して、全国放送のテレビで断言したことが重大な結果をもたらす大間違いだったら、責任を問われるのは当たり前のことじゃないかなあ。また、明らかに間違っていることを指摘されたら、ぐちゃぐちゃ言ってないで潔く認めることが、プロとしての最低の矜持ってやつではないでしょうか。