vs. CNBC その1(先週のThe Daily Show with Jon Stewart)

http://www.thedailyshow.com/video/index.jhtml?videoId=220252&title=cnbc-gives-financial-advice

先週もっぱらの話題だったのは、4日水曜日のエピソード。この日ゲストの予定だった、CNBC(アメリカのNBC系テレビ経済チャンネル)のキャスター、リック・サンテリ(Rick Santelli)が出演をドタキャンしたことをきっかけにした、徹底したCNBC批判でした。

番組そのものも、その背景も反応も含めて、ものすごく面白かったのだけど、これには山ほど背景解説が必要で…というか、私もあんまり詳しくないし、調べる時間もなかったので、なかなか書けなかったのでした。

というわけで、まあちょっと…背景解説にはかなり大雑把な部分もあるかと思いますのが、悪しからずご了承下さい。

ことの起こりは、リック.サンテリ氏がCNBCの番組上で、オバマ大統領の住宅ローン救済策(ローンを払えなくなった家の所有者に対する救済)を批判したことです。

2月19日、シカゴの証券取引所のフロアからの中継で、サンテリ氏はこの救済策を「納税者の金で無責任な行動に報奨を与えるもの」と痛烈に批判し、ネットでの草の根抗議運動を呼びかけたのでした。

「自分の請求書が払えないでいるのに、なんで自分より大きな家を持っている隣人のローンを代わりに払ってやらないといけないんだ?」

「そんな(分不相応なローンを組んだために払えなくなった)負け犬を救済しなければならないのか?抗議のウェブサイトを作ろう!シカゴ・ティー・パーティ(※)を組織しよう!」

(シカゴ証券取引所のトレーダーたちに)「そう思うだろう?」(トレーダーたち、ブーイング答える)「オバマ大統領、聞いてる?!」

このサンテリ氏の「怒りの直言」は世間で大評判となり、YouTubeに掲載されてものすごいヒット数を記録し、彼の呼びかけに答える形で、オバマ政権の経済政策に反対する「ティー・パーティ」と名づけたウェブサイトが次々に現れました。

The Daily Show」が彼をゲストに呼ぶと決めたのは、多分このあたりだと思います。で、最初は彼も出演を承知していたのですが…

ところが、保守派による「ティー.パーティ」の抗議サイトが評判になるにつれ、この抗議運動は本当に自然発生的なものなのか、サンテリ氏は最初から保守派のグループと関係があったのではないか、テレビ中継で衝動的な怒りの爆発と見せかけたものは実は最初から仕組まれていたのではないか…という疑惑も生まれました。サンテリ氏はそれを否定し、自分の発言はあくまでその場で思いついたものだと言っているのですが…

一方、「聞いてる?」と言われたオバマ大統領側はちゃんと聞いていたらしく、ホワイトハウス広報官は「サンテリ氏は救済策の内容をよく読むべきだ」と返しています。

まあ、このように事態がややこしくなって、この状況でジョン・スチュワートのインタビューを受けるのはマズいと判断したのか、2月27日金曜日、サンテリさんは「The Daily Show」のゲスト出演をドタキャンしたのでした。彼自身の決定か、それともCNBCの上の人に言われたのかは分からないのですが。

で、彼が出演するはずだった水曜日の「デイリーショー」では…これだったら、出演して自ら弁明した方がよっぽどマシだったんじゃないか、というほどの痛烈なCNBC批判が展開され、大評判になったのでした。

このエピソードに関しては、放送直後から今日まで、ものすごい数のブログに言及されています。「ジョン.スチュワートをドタキャンすべきではなかった」とか、大統領選挙中にレターマンの番組をドタキャンしたジョン・マケイン(※)の例も引き合いに出して「深夜番組のホストを怒らせると怖い」という調子のものも多かったのですが…

実際には、ジョンは必ずしも「ドタキャンされたから」怒ってこのセグメントを作った、ってわけじゃないとは思うのですけどね。ジョンは以前からテレビの経済チャンネルを手厳しく批判しているし、多分このサンテリ氏の発言も前から取り上げたいと思っていたけれど、ゲスト出演が予定されているからその日まで待っていた、というだけだと思う。もっとも、ドタキャンされたことの個人的怒りを加味することで、余計に面白いものになったことは確かですが。

実際にサンテリ氏が来ていたら、本人の目の前でここまで手厳しくやったかどうか…まあジョンのことだから、わからないけどね(笑)。

というのは、サンテリ氏の「正義の怒りの爆発」は、それだけ聞いたらもっともらしいようにも聞こえるけれど、いろいろ問題があるからです。

・まず第一に…そういう「分不相応な、払えないようなローン」を借りたのが悪い、と言うけど、そのローンを「貸した」銀行の方には何兆ドルもの救済金をつぎ込んでいるじゃないの。その救済金の恩恵を得ている業界の人々が、文句をつける筋合いじゃないんじゃないの?

・ローンを払えなくなった人、みんなが無責任とは限らない。払えるだけの収入は十分あったのに、この不況で突然失業した人、自分にはまったく責任のない理由で家の価値が急激に下がったために払えなくなった人も多い。オバマ大統領の救済策はそういう人たちを対象にしたものだし。

・だいたい、分不相応なローンというけれど、サラ金とかじゃないちゃんとした銀行のプロの人が審査した上で「よろしい、あなたには貸しましょう」と言った時点で、素人である借り手が「自分はこのローンの支払い能力がある」と思ったとしても無理はないんじゃないの?つまり、貸した銀行の方がよっぽど無責任じゃないか。

そして何より、このサンテリ氏の発言でいちばん問題なのは、「無責任だなんて、あんたが言うな」という要素なのです。

・銀行が「貸します」と言ったとしても、今の経済状況をちゃんと予見して、ローンを組むのをやめるべきだった、結果として失業したり、家の価値が下がったりしてローンを払えなくなった人は「無責任」で「負け犬」だって?だったら、あんたたち経済専門チャンネルは一体何してたのよ?そういう素人に経済状況を教えて警告することこそ、「経済のプロ」を名乗るあんたらの仕事だったんじゃないの?それなのに、あんたたち「専門家」の今までの発言ときたら…

…というわけで、お得意のモンタージュを駆使した、8分間に渡るCNBCのスマックダウン(徹底した批判)が始まったのでした。

以下は次回。

※シカゴ・ティー・パーティ:アメリカ独立のきっかけとなった「ボストン・ティー.パーティ(茶会事件)」にひっかけている。

※去年の大統領選挙終盤、ジョン.マケイン候補はデビッド.レターマンの「Late Show」に出演予定だったが、ちょうどその頃リーマン・ブラザース銀行の破綻をきっかけにした経済恐慌が起き、マケイン氏は「アメリカ経済のファンダメンタルズは堅調」発言などで経済オンチぶりをさらし、一気に形勢不利になった。マケイン氏は「緊急の経済対策に専念するため、すぐワシントンに向かう」ということを理由に出演をキャンセルしたが、実際にはその日はまだワシントンに向かっていなかったことが判明。「旗色が悪くなったのでインタビューから逃げた」と思われ、レターマンさんもその後の番組で散々マケイン氏を批判したので、結局、後で出演して釈明するはめになり、イメージダウンの一因となった。