Stephen Colbert’s ”Truthiness”
スティーブン・コルベアが、「コルベア・レポー(ト)」の第一回放送で創作した造語、今ではすっかり定着してニューヨークタイムズのクロスワードにも登場したという言葉が「Truthiness」です。
Truth(真実)でも、Truthfulness(真実性)でもない…訳すと「真実っぽさ」「本当っぽさ」というところでしょうか。
前からいつか書こうと思っていたのですが、じゅうばこさんからの情報で、新聞のコラムにこの言葉のことが載っていたということを知ったので↓、この機会に…
http://mainichi.jp/select/opinion/ooji/news/20081006dde012070020000c.html
(うーん、スティーブンの名前、コルベールでもコルベアでもいいんだけど、どっちかに決めてほしい…誰が決めるのか知らないけど。でなきゃ併記してほしい。何が困るって、検索できないことなんですよね。私は通常、Google検索してヒットが多いほうにしてますが…新聞には違うルールがあるんでしょうかね。)
「コルベア・レポー(ト)」の、おそらく最も優れたコーナーである「Tonight's Word(今夜の言葉)」の第一回。これは、スティーブンがある言葉(この回のように造語だったり、フレーズや文章だったりすることもある)について、メマイがするほどねじくれた見事な論理で「解説」し、その横に字幕で突っ込みが入る…というコーナーです。
(最初はスティーブンの言葉を聞きつつ字幕を読むのがたいへんだったのですが、もう慣れました。)
「コルベア・レポー(ト)(The Colbert Report)」という番組のエッセンスを凝縮したセグメントであり、スティーブンが「キャラクターとして大げさに演じることで、そういう人たちを批判する」というスタイルを完成した瞬間でした。
このセグメントの一部は、2006年の「ホワイトハウス記者クラブディナー」での有名なスピーチ(3/14のエントリー)にも引用されています。
…私は簡単な、シンプルな英語でみなさんに語りかける。そこで紹介するのが「今夜の言葉」−「Truthiness(真実っぽさ)」だ。
言葉にうるさい人や、ウェブスター辞典の言葉学者は「そんな言葉はない」と言うだろう。しかし、ご存知のように、私は辞書や参考書の類は好きではない。そんなものはエリート主義だ。
参考書は天狗になっている。
そういう本は、何かというと、何が本当かとか本当じゃないかとか、どんなことが起こったとか起こらなかったとか、我々に教えたがる。ブリタニカ百科事典は何様のつもりだ?パナマ運河が1914年に完成したなんて、どうして百科事典が決める?私が1941年だと言いたければ、それは私の自由だ!
私は本を信用しない。事実ばかりで、心がない。それが今、アメリカを引き裂いていることなのだ。なぜなら、本当のところ、アメリカは分断された国家だ。それも、民主党と共和党とか、保守派とリベラル派とか、攻と受に分かれているのではない。
ピッチャーとキャッチャーとか
頭で考える人々と、腹の底で感じる人々に分かれているのだ。
頭、ダメ!心、イイ!
ハリエット・マイヤーズ(※)のことを考えてみよう。ハリエット・マイヤーズのことを考えると、もちろん、彼女を指名したのは馬鹿げている。しかし、大統領は別に「考えて」彼女を選んだとは言っていない。彼はこう言った。
(ビデオ:ブッシュ大統領「私は彼女の心を知っている。」)
考えは無用
大統領は彼女の頭のことに関しては何も言っていないだろう?考える必要はないのだ。大統領はハリエット・マイヤーズの真実について「感じ取って」いるのだから。
イラク戦争はどうだろう。イラク戦争について考えてみると、戦争を始めた理由にはどうも怪しいところがある。しかし、サダム・フセインを倒すのは正しいことだと「感じ」ないか?
その通り!
腹の底から。みなさん、そこが真実の湧き出す元なのです。腹の底が。頭より腹の方にたくさん神経末端があるのを君は知っていたか?
本当だってば
調べてみたまえ。…あー、「調べてみたけど、それは間違いだったよ」と言う人もいるかもしれない。それは、君が本なんかで調べたからだ。次は、自分の腹に聞いてみたまえ。
腹をチェック
私はそうした。私の腹は、神経とはそういうものだと教えてくれた。君たちの中には、自分の腹を信用しない人もいるかもしれない。私が信じられるようにしてあげよう。
慣れれば大丈夫
「Truthiness」とは何か。誰でも、君に向かってニュースを読むことはできる。私は「君めがけてニュースを感じる」ことを約束しよう。
ニュースを感じろ
この、アメリカの「反知性・反エリート主義」というのは一体何なんだろう…と、時々不思議に思います。まあそりゃ、日本の政治家だってみんながみんなすごく頭がいいわけでもなさそうですけど、「私は普通のホッケー・ママで、あなたと同じ平均的田舎モノで、頭もよくなきゃ知識もキャリアもないのよ!」ってことをセールスポイントにする人が、国で二番目の権力者の地位に立候補したりは、さすがにしないよなあ。
あ、だいぶ昔の選挙で、「台所感覚」とやらを売りにしていた主婦候補はいましたけどね。「台所感覚」…思い出すのもおぞましいこの言葉(笑)。ああいうのは20世紀とともに死んだかと思っていましたが、ところもあろうにアメリカに生き残っていたとは。アメリカのフェミニストたちは頭をかきむしっているようです。気の毒に。
話がそれましたが…
この短いセグメントで、そのわけのわからん矛盾を見事に体現してみせるスティーブンは凄いと思います。
※ハリエット・マイヤーズ:2005年10月5日にブッシュ大統領が指名した最高裁判事。特に身内の共和党から反対が多く、大統領は10月27日に指名を撤回した。この「コルベア・レポー(ト)」第一回放送は、その間の10月17日。
共和党から反対が多かった理由は、この人が同性婚と中絶に対して中立的な(絶対反対ではない)立場だったからだそうです。そういう人をブッシュ大統領が指名するのも意外な感じですが…地元テキサスの出身で、ブッシュ夫妻と親しかったらしい。