9/11 Again (その3)

それが団結だったんだ、ギビー。

〜2007年8月14日、キース・オルバーマン

さて、私は今回、なかばマゾヒスティックなキモチで(笑)ギブソンの番組のトランスクリプトを全部訳してみて、あらためてしみじみムカついたりしていたのですが…

もちろん、この放送のことがネットで報じられた当初も、怒り心頭に達している人がたくさんいました。この件を扱ったあちこちのブログ記事を読むと、どれにもモノスゴイ数のコメントがついていて、ほとんどがギブソンに対する怒りのコメントです。

そういうコメントは、必ずしもジョン・スチュワートのファンとは限らなくて…むしろ9・11の事件の時に傷つき、悲しみ、ジョンのスピーチに慰められたり共感したりした人たちの「これは9・11で傷ついた人みんなに対する侮辱だ」という怒りが多かったのです。

でも当然、「The Daily Show」ファンのフォーラムの人々も頭にきていましたね。(注:私がジョンのファンになったのは今年の3月ですから、こういう記事はすべてその後、後追いで読んだのですけどね。)

下記は私がいつも読んでいる「Television without Pity」というサイトの、「The Daily Show」のフォーラム。

http://forums.televisionwithoutpity.com/index.php?showtopic=1162733&st=23800

基本的に番組のファンのフォーラムとはいえ、「Without Pity(容赦ない)」という名前の通り、これは決して賞賛一方のフォーラムというわけではないんです。むしろ、「あのセグメントは面白くなかった」だの、「ジョンはオバマを贔屓しすぎ」だの、「いやマケインに甘すぎだ、あのインタビューではもっと厳しい質問をすべきだった」だの…正直「ぐちゃぐちゃとうるさいなあ」と思うことも多いフォーラムなんですが…

この件ではみんなが「ファンの保護本能」に火をつけられたように一斉に怒っていたのが…私としては嬉しかったというか…自分より激しく(Fワード連発で)怒っている人たちの投稿を読んで、なんだかほっとしたというか(笑)。

「ジョン・ギブソンのことは前からこれ以上軽蔑しようがないほど軽蔑していたけど…Holy living f**k! 本当に…!!言葉にならない…」

「私は普段はとても穏やかな人間だけど…but go f**k yourself, Mr. Gibson.」

「最悪なのは、ジョンはいつもあの時のことについて語りたがらなくて、個人的な感情を率直に出して視聴者に語りかけたことを、甘えすぎていたと思って恥じているみたいで…他の人は、みんな素晴らしいスピーチだったと思っているのに。これほどの謙遜と人間性を嘲笑する人がいるなんて…本当にムカムカする。考えられない。」

そういう人たちの心を、ちょっと爽快にさせたと思われるのが、翌日のキース・オルバーマンの番組でした。

オルバーマン、スチュワートの9・11後の「心からの苦しみ」を嘲笑したFOXのギブソンを「世界最悪人間」に指名

(↑MSNBCの公式サイトで見つからなかったので、「Crooks and Liars」というリベラル系メディア観察ブログから。ビデオを見るには「download」か「play」のところをクリックして下さい。)

キース・オルバーマンは、NBC系の24時間ニュース専門局MSNBCで「Countdown with Keith Olbermann」という番組をやっている、リベラル系のパンディット(政治評論家)。ブッシュ政権への激烈な批判が売りの人で、実に爽快なコメントを言ってくれることもあれば、ちょっとやりすぎて批判されることも多い…人らしい。私は彼の番組はネットで数回見たぐらいなので、よくは知らないのですが。

ちなみに、彼は別にジョンと友達というわけではなく(一部の腐女子ファンがどのように妄想していようとも…笑)、お互いにファンと言うわけでもなさそうです。

彼の番組の「今日の世界最悪人間(Today's Worst Person in the World)」というコーナー。

「Worse-Worser-Worst」という、文法の正しくない順位づけや("worser"なんていう単語はありません。念のため)、大げさなバッハのBGMからも分かる通り、これは本来、どちらかというとシャレを含んだコーナーです。もっと大物、たとえばブッシュ大統領への真面目な怒りなどは、別に「スペシャル・コメント」というコーナーがあって、そちらで語ることが多いようです。

この回でも、3位の「FOXニュースがデイリーショーを真似たコメディ番組を始めたけど、大不評で数回で打ち切りになった」という話や、2位の「誤って額に釘を打ち込んでしまい、刺さったままの状態で病院へ急いでいた大工さんを、シートベルト非着用で止めてチケットを切った警官」の話なんかは、キースも半笑いで読んでいるように思えます。

でも、この日の「世界最悪」に選ばれたジョン・ギブソンに対しては、キースは100%本気で怒っているように思えます。

オルバーマン:そして1位は、FOXed(だまされた)ニュースのジョン・ギブソン。国が団結するために、アメリカにはもう一度9・11が『必要』だという狂った議論の中で、ギビー(ギブソン)は、コメディアンのジョン・スチュワートが2001年9月20日に、ワールド・トレード・センターの近くに住んでいたニューヨーカーとしての心からの苦痛を表明したテープを流し、ギブソンと彼のプロデューサーはそれを嘲笑した。彼はジョン・スチュワートが「泣きじゃくっている」と言い、その阿呆な相棒はスチュワートを『ニセモノ』と呼んだ。

第一に、9・11のような、何百・何千という人が死ぬ悲劇をわが国が『必要としている』などという議論を始めること自体が…それにしても変だなあ。君たちの誰も、「自分と自分の家族が真っ先に犠牲者になる」とは言っていないね。

第二に、ギビー…9・11後のジョン・スチュワートの苦痛の表明は…そして君の苦痛も、私の苦痛も…それが団結だったんだ。たとえ私が、君を政府お抱えのプロパガンダ要員だと考えていても、そのことで君を嘲笑しても、それでも君の苦痛が本物かどうか疑ったりはしない。他の人間の苦しみを疑うなんて、どういう神経をしているんだ。FOX『ノイズ』のジョン・ギブソンが、今日の『世界最悪人間』に決定。

さて、外野がこのように怒り狂っている頃、当のご本人はというと…特に反応ナシでした。

ジョンは、このような個人攻撃に対しては、たいていは無視しています。もちろん、以前に書いたノヴァクの件のように、反応することが面白いジョークに変えられる時は別ですが…

しかし翌日の「The Daily Show」では、多分ほとんど偶然のなりゆきで、彼自身がこの件に関してどう感じているかがわかったのでした。

つづく。