9/11 Again (その2)
ニセモノだ。
〜2007年8月10日、ジョン・ギブソン&"アングリー・リッチ"
2001年9月11日から時は流れ、二つの「テロとの戦争」と、さまざまなスキャンダルを経た6年後…去年の8月の話。
ギブソンとラジオ・プロデューサー、9/11後のジョン・スチュワートの「涙の」スピーチを嘲笑、彼を「ニセモノ」と呼ぶ
ジョン・ギブソンと彼の(「アングリー・リッチ(怒れる金持ち)」と名乗る)エクゼクティブ・プロデューサーは、9・11直後にジョン・スチュワートが行った感情のこもったスピーチを嘲笑した。スチュワートの言葉のテープを流しながら、ギブソンはスチュワートの口真似をし、皮肉をこめて「おお、ジョン、嘘だと言ってくれ」「おお、すばらしい、感動した!」などの言葉をさしはさんだ。
はい、前回書いた「不愉快な話」というのはコレです。
ジョン・ギブソンという人は、FOXニュースのラジオ部門でパーソナリティをやっていた「パンディット(pundit)」(テレビやラジオに出る政治評論家・コメンテーター)です。FOXニュースの人ですから、もちろん「ウルトラ保守派」ですが、FOXニュースのテレビの方で番組を持っているビル・オライリーやショーン・ハニティほどの有名人ではないようです。
ギブソンですが、この人の考え方自体は、FOXニュースの他のパンディットと似たようなものなんでしょう、多分。でも、とにかく表現が度を超しているというか…他の人なら「差別だ」とか攻撃されるのを恐れてさすがに言わないようなことを、平気で言っちゃうのが特徴のようです。軽率なのか、注目を集めるためにわざとやっているのか…私は、わざとじゃないかと思ってるんですけどね。
例えば、この人の悪名高い発言に、「(アメリカの黒人やヒスパニックの割合を増やさないために)白人はもっとどんどん子供を作るべきだ」というのがありました。これなんかもちろん「人種差別だ」と大いに非難されたわけですが…
でも多分、一部の白人ウルトラ保守派層には「自分が言えないことを言ってくれた」と密かに喝采する連中も多いってことを、ちゃんと計算して発言してますね、こいつは。
この件だって、最初は「ジョン・スチュワートを攻撃したいのなら、もっと他にやりやすいネタはあるだろうに、なんでよりによってコレ?」と思ったのですが…考えてみればそれも、テレビに比べれば聞いている人も少ないラジオ番組に注目を集めるために、わざと神経を逆なでするようなことをやっているのでしょう。だから、こんなトランスクリプトをわざわざ訳してるのも、まんまと乗せられているみたいで非常に不愉快なんですけど…
でも、この話を書くには、この段階を省いちゃうわけにはいなかいからなあ。
<トランスクリプト全訳>
(ラジオ番組で、フィラデルフィアの新聞に載った「アメリカを救うためにはもう一度9・11が必要」というコラムについて話した後)
ギブソン:(番組にかかってきたリスナーの電話をとって)ウィスコンシン州マディソンから。
電話:ハイ、ジョン。
ギブソン:君はこのコラムニストが言ったことに腹を立てているのかい?…正確に引用すると、「もう一度9・11が起こればアメリカのためになる」?
電話:ねえ、ジョン、ぼくは…あなたの番組が大好きだ。まず、あなたは私のアイドルのひとりだって言わせて。毎日聴いているよ。
ギブソン:ほんとに?
電話:ああ。あなたの番組は大好きだよ、ジョン。ぼくは…つまり、ぼくが言いたいのは、ずーっとイライラしてきたんだ。だってみんな、あまりにも…この国では、みんなが自分の個人的なことしか考えてないし、政府にも、自分の得になることばっかりやって欲しがっているし…みんながみんな…金や時間やエネルギーを自分の利益に使いたがって、考えているのはいつも自分、自分、自分。
それで、ぼくが生まれてから、アメリカ中が団結して立ち上がって、みんなが他の人のことを気にかけて、「自分の損得はどうでもいいさ、自分のことはどうでもいい。政府よ、国全体の面倒を見てくれ」ってなったのは、(2001年の)9月12日だけだった。つまり、9・11の後さ。あれ以来、みんなはずいぶん変わってしまって、あの日の気持ちを忘れてしまったんだ。みんなの心からその気持ちは消えていって、みんなまた、お金や努力を自分の個人的な得に注ぐことしか考えなくなって、つまり…
電話:アメリカでいちばんリベラルな町のひとつだよ。
ギブソン:君はどうやって…つまり、君は洞窟に隠れているのかい?
電話:まったくだよ!
ギブソン:近所の人に話を聞かれないようにして?
電話:マジな話、たった今も、文字通りクローゼットの中にいるよ。
アングリー・リッチ(プロデューサー):(リベラルな隣人たちは)彼にマリファナ用のキセルを投げつけるんだろう。
ギブソン:そうだろうな。(電話に)ありがとう。
電話:つまり、ぼくは…
ギブソン:電話ありがとう。マディソンにもまともなヤツが一人はいたということだな。
アングリー・リッチ:9・11の直後のメディアがどんなふうだったか憶えてる?
ギブソン:ああ、ジョン・スチュワートが泣いたやつね。
スチュワート(テープ):ぼくのアパートメントから見える景色は…
ギブソン:泣いてるよ。
スチュワート(テープ):…ワールド・トレード・センターでした。
ギブソン:(皮肉に)おお、なんてことだ、ジョン。嘘だと言ってくれ。
スチュワート(テープ):それはなくなってしまいました。
ギブソン:なくなったと。
スチュワート(テープ):攻撃されたのです。
ギブソン:攻撃された。
スチュワート(テープ):これは象徴でした…
ギブソン:象徴でした。
スチュワート(テープ):アメリカの創意と…
スチュワート(テープ):強さと…
ギブソン:強さ。
スチュワート(テープ):それに…
ギブソン:意志力?
スチュワート(テープ):労働と想像力と商業の象徴でしたが、なくなってしまいました。
ギブソン:なくなったと。
スチュワート(テープ):でも、今、何が見えるかわかりますか?
アングリー・リッチ:何だい、ジョン?
ギブソン:何が見えるのかな?
スチュワート(テープ):自由の女神です。
ギブソン:(皮肉に)おお、なんと素晴らしい。私は…感動したよ。
スチュワート(テープ):今、南マンハッタンから見える景色は、自由の女神なのです。
ギブソン:感動した!
アングリー・リッチ:「それでも今後6年間、ブッシュ大統領をさんざん批判させてもらうけどね!」
スチュワート(テープ):それを打ち負かすことはできません。
ギブソン:「それを打ち負かすことはできない」か。でもまあ…
アングリー・リッチ:ニセモノだ。
ギブソン:本当は、打ち負かすことはできるんだ。ちょっと時間が経てば、スティーブ・マーティンが言ったように、「テロリストと戦うべきか?テロリストの電話に答えるべきか?アメリカを安全にするためにテロリストを地球の果てまで追うべきか?いや〜!ブッシュを追い出そう。」となる。
わが国には、もう一度9/11が必要か。電話番号は888−7889910。アメリカにもう一度9/11が必要だと思う人は(電話して)。ただし、左派のブロガーからも右派のブロガーからも攻撃されるかもしれないけどね。
う〜。誰かの言葉を訳しながら、発言者を殴りたい衝動を抑えるために何度も止めなきゃならなかったのも、生まれて初めてでしたよ(笑)。多分そういう反応を計算してわざとやってるんだと思うと、余計腹が立つのですが。
でも実は、今回このトランスクリプトを訳してみて、初めて聞いた時はジョンのテープを流している部分に対する反射的な怒りに気をとられてあまり気づかなかった部分に、いろいろ問題が潜んでいたことに気づきました。それに関しては次回以降…
つづきます。