風刺

昨日ちょっと書いた、アメリカで大騒ぎしているという「New Yorker」の表紙のことですが…

余計かもしれないけどちょっと解説すると、これは簡単に言うと、オバマ候補について今までに出回った噂や誹謗中傷の類を、まとめてイラストで表したものです。

背景はホワイトハウスの大統領執務室(オーバル・オフィス)。

ケニアオバマ氏の父の祖国)の民族衣装(アラブ風の衣装に似ている)を着た写真が出回ったことや、彼は子供の頃インドネシアにいたのでイスラム教系の学校に通ったことがあることやらが原因で、彼がイスラム教徒だという誤解があったのですが(本当はキリスト教徒)、この表紙のオバマさんの衣装はそれを表しています。

オバマ夫人のミシェルさんがテロリストの格好をしているのはそこからの連想と、あと彼女の強気な言動から来ているのかな。本当は普通の髪型をしている彼女がここでは70年代風アフロヘアなのは、「過激な黒人」という偏見を表しているのかも。

二人は、握りこぶしをぶつけ合うような仕草をしていますが、これは実際に演説会などでこの夫婦がやっていたちょっとした挨拶です。これをFOXニュースでは「ハマスが使っている挨拶」「テロリストのフィスト・バンプ」と呼んで批判したのですが…(そういうアホな批判をされた直後にトーク番組に出演したミシェルさんは、あえてこの「フィスト・バンプ」を出演者全員とやってみせたそうです。そういう強気なところ、けっこう好きですが。)

あと、暖炉の上にかかっている肖像画はオサマ・ビン=ラディン。暖炉でアメリカ国旗が燃やされているのは、オバマ氏が星条旗のバッチをつけていないのは愛国心のなさの表れだ、というしつこい批判からきています。

もちろん、この表紙はオバマさんが「本当にこういう人だ」と言っているわけじゃなくて、そういう印象を広めているマスコミや、インターネットの噂や、反オバマ派のプロパガンダの方を風刺しているのですけど…

問題は、これが風刺だということを理解しないで、額面通りにとる人がいることらしい。なにしろ、最近の調査では、オバマ氏がほんとにイスラム教徒だと思っている人が12%いるそうですから。いったんそう思い込むと、何を言われようと聞いちゃいない人というのは、どの国にも一定割合いるもんなんですね。

この件について書かれた記事の多くが「The Daily Show」と「コルベア・レポー(ト)」を引き合いに出しているのも面白かった。特にスティーブンは、オバマ氏をいちいち「隠れイスラム教徒」と呼ぶのがお約束のジョークになっていて…それを誤解したり批判したりする人なんて、まずいないんですけどね。

で、「The Daily Show」でも、昨日この問題を取り上げたセグメントをやりました。

The Daily Show 2008/7/15

このセグメントの主旨は、まとめると

1) たかが雑誌の風刺漫画にメディアは騒ぎすぎ。報道しなければならないことは他にいっぱいあるのに

2) この表紙が、「無知な人・偏見のある人には誤解を与える」ということでマスコミは批判しているんだけど…そもそも、そういう無知や偏見が広がっているのは、New Yorker誌じゃなくて当のマスコミのせいなんじゃないの?

オバマ陣営はこの漫画が『悪趣味で不快』だとコメントした。…マジで?本当はどうコメントすべきだったか教えようか。『バラク・オバマは、彼をイスラム教過激派として描いたこの漫画をまったく気にしていない。なぜなら、漫画に腹を立てるのはまさにイスラム教過激派のすることで、バラク・オバマはそうではないから。』まったく、ただの漫画じゃないか!しかし、いつもの通り、メディアに対する怒りが一番燃え上がっているのは…メディアの中だ。」

まさにその通り。…なんですが。

えーと、以下は私のファンとしての愚痴です。面倒な人は飛ばして下さい。

近頃、ジョンがオバマ氏にちょっとでも批判的なネタをやると、フォーラムやブログでぐちゃぐちゃと文句を言う人が多くて、ちょっとうんざりしているところです。まあ、わざわざブログを検索したり、フォーラムの投稿を全部読んだりする私のしつこい性格が悪いんですけど。オバマ支持派というのは、どうもユーモアのセンスに欠けるというか。

もちろん、この8年間主なターゲットであり続けた保守派の方だって、それほどユーモアのセンスがあるとも思えないし、おちょくられて腹を立てることはあるんでしょうけど…彼らは「デイリーショー」見ていない可能性が高いから。その点、オバマ支持層には見ている人が多いからなあ。

気持ちはわからないでもないんだけど。8年間のブッシュ政権のヒドさにすっかり疲れ果てたリベラル派の人にとって、オバマ候補は、スター・ウォーズ1作目のオビワン・ケノビ的存在(「助けてバラク・オバマ、あなただけが頼りです」)になってしまっているんでしょう。ジョンがオバマ候補をちょっと批判的なアングルでネタにしたり、マケイン候補に好意的なことを言ったりすると、もううるさいことうるさいこと。

「The Huffington Post」(有名なリベラル系政治サイトで、普段は「The Daily Show大好き」なサイトなんですが)なんか、はっきり「オバマが落選したら困るから、オバマ批判のジョークは放送しないでほしい」という主旨のコラムを載せたこともあったぐらいですから。マジですか?

それでも、「大統領選挙で票が減るのが心配!」と、本音で書いているのはまだマシな方で、たいていは「私にはユーモアのセンスはある、でもこのジョークは面白くない」と、こうくるのよね。果ては「以前のデイリーショーはもっと面白かった」とか、「近頃の脚本家は怠けている」とか、「ジョン・スチュワートにはもっと高いレベルを期待したい」とか…

あるジョークが面白いか面白くないかというのは個人のセンスの問題で、そう言われると議論のしようもないからなあ。「New Yorker」の表紙にしても、本当に単に「面白くない冗談」だと思うんなら、ほっとけば?と思うのですが。

なんか、大げさな言い方ですが…フランス革命とかロシア革命とかイラン革命とか、圧政をしいていた王様が革命によって倒されると、なぜか革命政府の方がもっとヒドい圧政者になってしまう…という理由がわかったような気がしました。

アメリカがそうなるって言っているんじゃなくて、その心理がちょっとわかった、ということですけど。