ジョン・スチュワートとゲイ・マリッジ【2】
昨日のビル・ベネットのインタビューのつづきです。
The Daily Show with Jon Stewart 2006/6/6 Bill Benett 2
<トランスクリプト訳>
ベネット:問題は、結婚をどう定義するかということだ。どこで線を引くか?この議論で、すぐに考えられるのは…
スチュワート:ここで「滑りやすい坂道」論(※)はやめて下さいよ。馬鹿げた比較ですから。
ベネット:馬鹿げてはいない。一夫多妻主義者はどうする?一夫多妻を主張する人々にはどう答える?
スチュワート:一夫多妻主義は関係ありませんよ。まったく違うことです。妻を三人、四人持つというのは選択です。「毎晩別の女性と寝たいけど、それが全部妻じゃないといやだ」というのは生まれつきの状態じゃありません。選択です。
ベネット:いや、それは…
スチュワート:ゲイであるということは人間の生まれつきの状態です。根本的に違う。
ベネット:三人の妻を持つことを人間の自然の状態と考える人もいる。(同性婚を認めたら)一夫多妻主義者は黙っていないだろう。この習慣は…
スチュワート:「滑りやすい坂」論なら、逆から見ることもできますよ。政府が「結婚とは男性と女性の間に限るものと定義する」と決められるのなら、特定の収入レベルの人の間に限るとか、特定の女性と結婚できる資格のある男性との間に限ることもできるということになりませんか?
ベネット:しかし、性別は結婚において重要なことだ。すべての社会で性別は重要だ。すべての宗教で…
スチュワート:人種も、すべての社会で重要と考えられています。その認識には進歩があるはずです。
ベネット:人種は適切な要素じゃない。性別は、結婚を定義する要素として適切なものだと思う。
スチュワート:ディック・チェイニーの話をしましょう。彼は同性婚をまっ先に禁止しそうな人ですよね。ウルトラ保守派で、厳格で…仔犬の血を飲んでいる。【観客笑】彼は…同性婚を禁止するタイプに思えるのに、禁止に賛成していない。
ベネット:私は彼の考えについては知らないが…
スチュワート:彼の議会での投票歴を考えると、保守派と言えると思います。
ベネット:そうだな。
スチュワート:しかし、彼は同性婚の禁止には反対している。なぜだと思います?
ベネット:娘さんのことがあるからだろう。(※チェイニーの娘には同性のパートナーがいる)
スチュワート:その通りです。あなたが先ほどおっしゃったことですが…ほかのゲイの人々も、みんな誰かの息子や娘ではないですか?
ベネット:もちろんそうだ。
スチュワート:それなら、どうして…
ベネット:そういう議論はどうかな。それなら、ゲイの子供を持っていて、相手が同性だからといって結婚できないのは不当だと思っている親を探し出せばすむ問題になってしまう。これを個人的問題に狭めてしまうのはどうかな。しかし、言わせてもらえば…
スチュワート:ぼくが分からないのは…
ベネット:私はここでの現実を見ている。君たちが、保守派を怪物のように見せようとしているのは分かっている。不寛容な、差別主義者のように見せようとしているのは。この議論は終わりだ、ジョン。
スチュワート:ええ、あなたの負けです。
ベネット:同性婚は止められない。法廷が認めてしまったからな。
スチュワート:いいえ、法廷が認めたからではありません。法廷は、人間の状態の自然な進展を追認しているだけです。どうしていちいち争わなければならないのかがわからない。(反対派は)いつも負けるんです。負け続ける。なのに、どうして戦おうとするんですか?
ベネット:問題は、これを人間の状態の自然な進展と考えるかどうかだ。私はそうは考えない。君は前に、ノルウェイとオランダについて何かジョークを言っていたが…
スチュワート:ジョークを言うのが仕事ですから。
ベネット:それはいいが、しかし、深刻な問題もあるんだ。
スチュワート:ノルウェイで?
ベネット:いや、オランダでも…
スチュワート:同性婚のせいで?
ベネット:オランダとノルウェイでは、結婚が真剣に受け止められなくなっている。定義を拡大して、誰とでも結婚できると言い始めると、どんなグループでも、誰かが誰かを愛していれば、二人が一人と結婚したり、三人が二人と結婚したりできるということになる。
スチュワート:結婚が抱えている諸問題は、同性婚とは何の関係もありません。
ベネット:深刻な問題がある。それはもっと…
スチュワート:結婚は深刻な問題を抱えていますが、離婚が多いのは、結婚の50%が「(どちらかが)ゲイだった」という原因で終わるからじゃないですよ。
ベネット:それはその通りだ。
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ジョンの言っていることだけで言い尽くされていると思うので、私の意見なんかは余計ですが…まあちょっとだけ。
「ゲイの人もストレートの人と同じように自由に幸福に生きる権利はある、でも結婚はダメ」というのは、やっぱり矛盾していると思う。たまたまそのカップルが結婚という制度に興味がないんなら、それはそれでいいけどね。でも、もし結婚したいと思ったなら、それを妨害されるいわれはないと思う。
ベネット氏は、アメリカではゲイの人が「自由に放っておいてもらえる(left alone)権利がある」という言い方をしていて、それがこの人の考え方をよく表していると思う。つまり、勝手に社会の片隅で趣味にいそしんでいればよろしい、我々は君たちにかまわないから、結婚とか家庭とかいう社会のメインストリームに踏み込んで来ないでくれ、と。
最近、エレン・デジェネレスの番組にジョン・マケインが出ていたのですが、彼が同性婚禁止の立場であることをエレンに突っ込まれて、「私は同性婚には反対だが、あなたたちの幸せを心から願っている」と、いかにも苦しまぎれに、言いにくそうに言っていましたっけ。エレンは優しいのでそれ以上は追求せず、「じゃあ、(父親役で)私と腕を組んで祭壇まで歩いてくれる?」と、冗談でまとめてあげてましたけど。
つまりは、ジョンの言っていることにつきるんじゃないかと。「幸せを祈ってるけど、あなたたちには結婚する資格はない」なんて、本当に自分の娘だったら言えない。あのディック・チェイニーでさえ、言えていない。でも、たまたま自分や自分の家族がゲイだからというんじゃなくても、同じ気持ちを持つことはできないだろうか。人は誰でも、自分にとっては他人でも、誰かの娘や息子なんだから。これが「政治問題を個人レベルに狭める」ことになるとは思わない。
アメリカのショービズ界にStraight Ally(自分はストレートなんだけど、ゲイの権利について積極的に協力している人)と呼ばれる人はたくさんいますが、ジョンが特に愛されているようのは、底にこういう気持ちが感じられるからじゃないかな。単に、進歩的な人間としてこれを「マイノリティの人権問題のひとつ」として支持している、というだけじゃなくて。
別のゲイ・コミュニティサイトのコメントで、「彼と道で会ったら、絶対ハグする!」と言っている人もいましたっけ。いきなりだとちょっと怖いかもしれないけど(笑)
※「滑りやすい坂道」論(Slippery Slope) :議論の中で、ある行動に対して「その行動をとると、こういう(悪い)影響があり、さらにこういう(悪い)ことが起こりかねない…」という理由で反対するが、その影響が起こる可能性がどのぐらい高いかについては証明していない、という類の論理。