ビル・モイヤーズによるジョン・スチュワートのインタビュー(2)

この部分では、前に訳したジョン・マケイン上院議員とのイラク戦争に関する討論を取り上げています。

長〜いキャリアを誇るビル・モイヤーズさんですが、一箇所、「イラクでは…」と言うべきところを思わず「ベトナムでは…」と言い間違えたりしているのが興味深い。

思えば、ベトナム戦争当時、モイヤーズさんはジョンソン大統領の広報官で、マケインさんは軍人でベトナム軍の捕虜収容所にいて…ジョン・スチュワートはニュージャージーで小学生をやっていたわけですね。

アメリカの政治っていうのは、ハタから見ているとやっぱり不思議な感じがするのですが…だいたい、5年間も戦争をやっている国なのに、それが大統領選挙の論点の中心になってないみたいなのがどうしても変だと思っていたのですが…「政府は微妙なバランスを取っている」というジョンの言葉で、はじめてある程度ナットクがいったというか、すこし状況が分かった気がしたのでした。

「台所洗剤」のたとえもわかりやすかった。私、仕事でこの手の記事を翻訳しているので…(戦争についてではなく、洗剤のコマーシャルについての記事ですが)

Bill Moyers Journal 2007/4/27

モイヤーズ:今週、あなたがやったマケインのインタビューを見ました。あなたの他の政治家とのインタビューでは見たことのないことが起こっていた。あなたは何を考えていましたか?

スチュワート:何を考えていたか、ですか?

モイヤーズ:ええ。

スチュワート:「彼がテーブルを越えてきたら、彼の腕はぼくに届くだろうか?」

The Daily Show with Jon Stewart ジョン・マケインとのインタビューのクリップ】

日記3/29〜3/30のエントリーを参照
http://navy.ap.teacup.com/kumiko-meru/607.html
http://navy.ap.teacup.com/kumiko-meru/608.html

スチュワート:この手のインタビューというのは、ぼくはあまり楽しくないんです。マケイン上院議員のことはとても尊敬しているし、ある時点で二人が同時に喋りだすような会話になるのは嫌なんです。

でも、ぼくは、考えていたんですが、このインタビューはぜひやりたかった。イラクに関する「論点」っていうのが…この戦争についての議論が本当にこんなものでいいのか?と思っていて…「イラクアルカイダに勝利しなければ、彼らはアメリカまで我々を追ってくる」だの、「追加派遣の成功に疑問を持つのは兵士を支持していない」だの、「イラクの状況はそれほど悪くない、メディアが過剰反応している」だの…だから(この論点について)話したかった…つまり、この戦争ほど重要な問題に関しての会話が、ほんとうにこんなものでいいのか?

THE DAILY SHOW WITH JON STEWARTのクリップ】

モイヤーズ:私にはマケインが萎縮しているように見えました。彼はあなたの番組に何度も出ているのに…

スチュワート:まさか。(ベトナムの)捕虜収容所で5年間を生き抜いた人なんですから、「The Daily Show」の8分間なんてなんでもないでしょう。

モイヤーズ:でも、何かが起こった。

スチュワート:質問を避けようとしていただけですよ。萎縮していたのではなく、単に…

モイヤーズ:しかし、彼は下を向いていた。あなたは…

スチュワート:実際には、彼は…ぼくの目を見るのをやめて、胸の辺りを見て、「名誉や、(兵士の)家族は誇りに思うべきだとういう線で話を続けよう」と決めたんでしょう。強引に感情に訴えて本当の議論を妨げる手です。そういうことは、議論には無関係なのに。

モイヤーズ:多くの人が、あなたがやったことをやりたいと思っている。「論点」を斬って、政治家に率直な正直な話をさせたい。それに…

スチュワート:そんなに大勢じゃありませんよ。ぼくらの番組の視聴率はご存知でしょう。これを求める人もいる。ひとりかふたりは、iTunesでダウンロードするでしょうけど。

モイヤーズ:しかし、この時、この瞬間、この週を選んで(それを聞こうと)決めたのですよね。

スチュワート:そうです。

ジョン・スチュワート:まあ、また今、注目を集めていることですから。上院と下院が「タイムテーブル」を話し合っている。それが本当の問題なのかどうか分かりませんけど。でも、上院と下院が大統領と議論している内容というのが、ぼくとマケインのこの会話と非常によく似ているんです。両方が同時に喋っていて、本当の根本的問題を誰も取り上げようとしない。つまり、このまま進んでゆくことで、我々はどういう国になりたいのか?平和主義者かどうかって問題じゃない…軍事的解決が不可能だといっているわけでもない。ただ、脅威と戦うのに、これは頭のいいやり方じゃないと言っているだけなんです。

モイヤーズ:あなたの粘り強さと、彼が「論点」を使わずに答えることができなかったという事実が、真実を明らかにしています。ベトナムで何が…失礼、この戦争で何が起きているかについては矛盾があって、彼らはそれについて話そうとしない。

スチュワート:その通りです。とてつもなく大きな矛盾があって、単純な、論理的な議論をすれば、すぐに明らかになるんです。彼らが理解しないのは、みんなが議論したがっているのは、その矛盾を片付けないと問題を解決することができないからだってことです。「問題が存在しない」なんて誰も言ってない。「9/11が起こらなかった」なんて誰も言ってない。言っているのは、「国民はそんなに脆くない、信頼して議論をさせてほしい、正しい方法、もっと効果的な方法を見つけられるように。」ということなのに。

モイヤーズ:どうして、我々はそういう議論をしていないんでしょうか?非常に良い指摘です。わが国はどうしてそういう議論をしていないんでしょうか。戦争に対して責任を負っている政治家が、アメリカ国民の疑問点に具体的に答えさせるような。言わば、ベールの向こうから出てくるような。

スチュワート:なぜなら、政治はもう国民との会話ではなくなってしまっているからです。「政府が望むことを国民にさせるためにはどうしたらいいか」を考えることなんです。売りたい製品があって、どうやったら一番良く売れるか。その製品は必ずしも(国民の望んでいるものではなく)、たとえば、台所用洗剤の会社が大々的にキャンペーンをやりたいと思ったとして…「いっそう爽やかなレモンの香り」で売り込むことにする。まるで国民が「ああ、今までの皿洗いに欠けていたののはこれだった!レモンの香りが足りなかったんだ!」とでも思うみたいに。

モイヤーズ:戦争は5年目に入って、大統領は駐留を15ヶ月に延長し、州兵を動員することを発表しました。(2007年)4月は、戦争開始以来最も犠牲者の多い月で、4月のある日はもっとも犠牲者の多い日になりました。人々は、ワシントンの男たちやコンドリーザ・ライスに話を聞いてもらうことはできないと悟っています。国民には、現実の出来事に対する感情的な、政治的な無関心が広がっているように思えます。

スチュワート:軍隊が陥っている苦境を感じるのは難しい。兵士の家族が感じている苦境を実感するのは、その立場になってみないと難しいことです。時として、無理やりにでも、自分を他人の立場においてみないと、その感覚がわからないのです。

政府がたのみにしていることのひとつは、人々が忙しいってことです。忙しい、比較的裕福な国で、人を動かすのはとても難しい。それが本当に重大な、根本的な問題でなければ…臨界点に達していなければ。

モイヤーズ:戦争が?(重大でないなんてことがありますか?)戦争なのに?

スチュワート:でも、アメリカ国内では、それほど影響していない…5年続いている戦争がこれほど影響しないなんて想像できませんけれど。ぼくはそれが理由だと…そこに現実遊離があるんです。奇妙なことだし、自分に対して合理的な説明できなかったのですが…大統領は「わが国の信念そのものを賭けて戦っている、これは我々の時代にとっても、未来にとっても、最も重要な戦いだ、イラク戦争で勝利しなければ、我々の今の生活は崩壊し、子供も孫も苦しむことになる。だから、バグダッドに一万人を追加派遣する」と言います。

そこに遊離があるんです。「これは我々の時代で最も重要な戦いで、だから軍隊を10%増員する」と。それで勝利できると。本当は40万人を増派したいのでしょうけど、できない。そんなに兵士がいないから。その数の兵士をそろえるには、徴兵制を復活させなければならない。でも徴兵制を復活したら、たちまち国民は忙しがるのをやめるでしょう。本気で反撃してきます。そうしたら、この戦争は根本から崩れる。だから政府は、微妙なバランスを取っているんです。国民を適度に脅しておきながら、仕事の手を止めて政府のやり方をじっくり検証したくなるほどには怯えさせないように。

モイヤーズ:しかし、なぜマケインなんですか…あなたの言っていることはまったく正しいと思います。しかし、なぜそれをマケインに…

スチュワート:ああ、来てくれるのは彼しかいないからですよ。つまり、なぜ彼に聞いたかってことでしょう?

モイヤーズ:そうです。

スチュワート:(ブッシュ政権側の人では)他にぼくと話してくれる人はいないからですよ。

モイヤーズ:しかし、マケインの出演承諾を得る前からそういうことは考えていたのでしょう?つまり、ずっと…

スチュワート:ええ、そうです。マケインに聞いたのは、彼が不運にもぼくのスタジオに足を踏み入れたからです。ぼくらの番組のフラストレーションは、メディアや政府の世界の外側にいることです。ああいう人たちにツテがないんです。ディナーパーティやらカクテルパーティやらに行きませんし。ぼくらの仲間の一人がホワイトハウス記者クラブの晩餐会に行ったりすると(※スティーブン・コルベアのこと。3/14 のエントリーを参照)、ろくな結果にならないとわかりました。つまり、マケインは不運にも、積もり積もったフラストレーションのはけ口になったんです。

モイヤーズ:メディアはこれを大きく取り上げていました。CNNや、USA TODAYや…

スチュワート:24時間を埋めないといけませんからね。アナ・ニコル・スミスの赤ん坊の父親の話ばっかり、そう何回もやるわけにいかないし。

モイヤーズ:しかし、あなたのやったインタビューがニュースになるという事実は、報道メディアに関して何を意味しているでしょうか。ある意味、いわゆる「プロの」ジャーナリストがこのような質問ができていないということを反映しているのではないですか?

スチュワート:彼らが質問できていないということの反映かどうかは分かりません。ぼくが思うのは、まず何よりも…なぜか、ぼくらの番組や、スティーブンが…スティーブン・コルベアがやっていることもニュースになります。そういう仕組みになっているんだと思いますよ。つまり、まずニュースを報道する、それから、そのニュースについてのニュースを報道する。そして、ただ座って「我々は正しくニュースを報道しているだろうか?ああ、たぶん大丈夫。」と考えるタイミングがある。そして、サイクルの最初に戻って、また繰り返す。だから、そのことについては、とりたてて驚くべきことだとも思わないんです。

(つづく)