ビル・モイヤーズによるジョン・スチュワートのインタビュー(1)

先日、1年ぐらい前にアメリカのPBS(公共放送)のインタビューを見つけました。これ、100%真面目モードのインタビューなんですが、いろんな意味でとんでもなく素晴らしいインタビューだと思ったので…またしても長文を訳してしまいました。

ビル・モイヤーズ(Bill Moyers)という人は現在73歳、半世紀をゆうに超えるキャリアを誇るジャーナリストで、ケネディ政権の時は平和部隊の広報官、ジョンソン大統領時代にはホワイトハウス広報官、その後は新聞、テレビのジャーナリストとして活躍して、エミー賞からピーボディ賞からありとあらゆる賞を受賞している人です。2006年頃には、この人を次の大統領候補にしようという運動もあったらしい。(本人が固辞したのですが。)

こういう人が、本当は「The Daily Show」のレポーターになりたかったって(笑)…まあ、冗談だと思いますけど。

モイヤーズさんは2005年に一旦引退したのですが、メディアの惨状を放っておけなかったのか(?)、このインタビューの直前にPBSの番組に復帰しています。

Bill Moyers Journal 2007/4/27

ビル・モイヤーズ:みなさんこんにちは、ビル・モイヤーズです。我々は毎週この時間に万華鏡を取り上げ、論点や事件に違う光を当て、さまざまな視点から検証してゆきます。

私は16歳の時からジャーナリストをやっています。途中で少々寄り道もしましたが。新鮮な視点や考え方でニュースを見るのは楽しいことです。しかし、世の中のスピードは速くなり、ニュースはあらゆるところから入ってくるようになりました。YouTube、ウェブ、衛星ラジオ、iPod…そこでウィークリー・ジャーナルも、さまざまな情報源を取り上げるようにします。

例えば、私の一日はジョッシュ・マーシャルで始まり、ジョン・スチュワートで終わります。ひとりはジャーナリスト、もうひとりは「自分はただのコメディアンだ」と言っていますが…私はそれは冗談だと思っています。

The Daily Showのクリップ】

ビル・モイヤーズ:ジョン・スチュワートさん、来てくれてありがとう。

ジョン・スチュワート:こちらこそ、呼んでいただいてありがとうございます。あなたがテレビに戻ってきてくれて嬉しいですよ。

モイヤーズ:この番組に戻れて嬉しいけれど、"The Daily Show"の「特派員」に応募したのに採用してくれなかったから、仕方なく戻って来たんですよ。

スチュワート:基準があるんです。ジャーナリストとしての経験のある人、特にあなたのように本物のプロフェッショナルとして長年活躍してきた人は、ぼくの番組で採用するわけにいかないんです。

モイヤーズ:あなたは何度も「ぼくはジャーナリストになりたくない、ジャーナリストじゃない」と言っていますね。

スチュワート:違いますから。

モイヤーズ:でも、ジャーナリストのようなことをしている。その役割を担っている。私のところで働いている若い人たちは、日曜の午前のトークショーよりあなたの方から良質なジャーナリズムを得られると考えている。

スチュワート:はっきり言いますが、ぼくの番組からは一切ジャーナリズムは得られませんよ。我々は、あえて言えば、新聞の風刺漫画のようなものです。消化のプロセスです。他にもたくさんある消化のプロセスのひとつです。若い人たちはそれをぼくに求めている。現代人は情報の、とても賢い消費者です。幅広いところから得ているんです。

ブログに関する議論と同じですよ。ブログは無責任だと言われますが、そんなことはない。ブログも他のものと同じです。ひとつひとつのブログを、その正確さや知性や、いろんなことで判断する。その気になれば、いろんなものの中から自分が賛成することだけをつまみ出すこともできる。あるいは、そう望むなら、より幅広い視点を得ることもできるし、完全に正気を失っている人のブログもあれば、とても複雑で興味深くて即時性のあるジャーナリズムもある。我々の番組だって同じことです。番組を見たとき、その人自身のイデオロギーを映し出すプリズムなんです。とにかく、これが我々の見方です。

モイヤーズ:でも、あなたがジョークを始めると、ブッシュやチェイニーのこととなると、観客はすぐに理解するでしょう。スタジオにいる観客はすぐに理解して、オチを言う前に拍手を始めることさえある。それで、私は思うんです、「オーケイ、彼らは分かっている。これがこの国の半分だ。」この国の残りの半分はどうなんでしょうか。関心を持っていると思いますか?関心がなければ、ジョークを聞こうともしない。もし聞いたら、理解できると思いますか?

スチュワート:ユーモアのセンスっていうのは、ぼくらのイデオロギーの範囲内のものだと思います。ぼくらの番組には、非常におもしろい反応があって…人はいつも、「あなたの番組は面白い、大好きです」と言うけれど、ぼくらが地球温暖化に関してジョークを言ったら、それは深刻な問題だ、ジョークにするなんて信じられない、もうあなたの番組は見ない、とくる。なかなか分かってもらえないのは、ぼくたちは誰かの大義のための戦士じゃないってことです。ぼくらは、政府や世界やその他もろもろの中で、ぼくらが馬鹿馬鹿しいと思ったことについてジョークを書きたいと思っているグループです。それだけのことです。

THE DAILY SHOW WITH JON STEWARTのクリップ】

スチュワート:ブッシュは主に、最近、民主党主導の下院を通った戦費支出法案について話しに来た。法案の内容は、追加派遣のために大統領が望むだけの戦費を与えるけど、撤兵の期限を決めることを条件にするというものだ。これに対する大統領の考えといったら、信じられないと思うよ。

ブッシュ大統領:ようやくバグダットで進展がみられ始めているこの時に、わが軍の能力を弱めるような法律を押し付けるとは…

スチュワート:「あ〜、ようやくうまく行きはじめたのに、足を引っ張るなんて〜!やっと進展しはじめたのに!」でも、ぼくの記憶では、わが国はだいぶん前から「進展」してなかったかな…?

ブッシュ(2006年1月):これは進展、重要な進展です。わが国がイラクで勝利する戦略の大事な一部で…

ブッシュ(2005年11月):イラクでは素晴らしい政治的進展が…

ブッシュ(2005年10月):イラクの人々は感動的な進展を続けており…

ブッシュ(2005年9月):イラクは素晴らしい政治的進展を続けて…

ブッシュ(2005年4月):わが国はイラクで本当に順調な進展を示しています。

ブッシュ(2005年3月):わが国は進展を…

ブッシュ(2004年9月):順調に進展して…

ブッシュ(2003年7月):ゆっくりと、しかし着実に進展しています。

ブッシュ(2003年5月):イラク戦争において、アメリカ合衆国と同盟国は勝利を収めた。

スチュワート:ちょっと待って!ちょっと待って!わかったぞ!イラク戦争で何を間違えていたかようやく分かった!ぼくらは時間をまっすぐ過去から未来へ辿っていたけど、それが大きな間違いだった。9/11後の世界では、時空を超えないといけないんだ。

【クリップ終わり】

スチュワート:ええ、ちょっと信じられないことです。ぼくは政府に対して、ある種の現実遊離を感じていて、何が起こっているのか分からなくなっていたんです。それが、突然はっきりした。政府はぼくらに、政府が非常に無能で、うまく機能していないと思わせたがっている…実際に政府がどのように機能しているか知られるよりは。だから、ほとんどの場合は、政府は憲法によって委託されたことをやって、三権分立の原則には従っているけれど、憲法の精神には則っていない。

例えば、アルバート・ゴンザレス(ブッシュ政権の元司法長官)です。聴聞会を見ていると、彼は偽証しているか、でなければただのアホのように見えます。そして彼はあの聴聞会では、司法省での彼の意思決定プロセスに関して下院調査委に情報を与えるよりは、ただのアホだと思われることをあえて選んでいる。

それで、ぼくは以前は「ある種の傲慢さからそうしているんだ」と思っていました。今は、彼らは「大統領にとって信頼を問われる瞬間は4年に一度の選挙だけだ」と思っていると気づいたんです。選挙で勝てば、それでOKだと思っていると。

モイヤーズ:でも、その通りでしょう?

スチュワート:全然違いますよ。選挙の瞬間というのは、アメリカ国民が単に「どっちかといえば、あっちの奴よりあんたに大統領になってほしい」と言っているだけなんですから。それだけです。あとの4年間は、監視プロセスに従って、こんな異常な、カルトめいた雰囲気になるのを防がないといけない。トム・クルーズケイティ・ホームズが秘密のベールに包まれていたって一向にかまいませんが、政府がそうなのは許せません。

モイヤーズ:先週のゴンザレスの下院での証言について何万語、何十万語という記事が書かれましたが、ほとんどの人はいまだにさっぱり分からないと思うのです。それが、「The Daily Show」を見ていたら突然、あなたがそのエッセンスを凝縮してみせてくれました。

THE DAILY SHOW WITH JON STEWARTのクリップ】

ジョン・スチュワート:今日は対決の日、ゴンザレス対上院だ。覚悟はいいかな!

上院議員:誰の発案でしたか?

ゴンザレス:上院議員、具体的には覚えていません…

ゴンザレス:内容は覚えていません。

ゴンザレス:上院議員、私の記憶にありません。

ゴンザレス:記憶にありません。

ゴンザレス:思い出してみようとしたのですが…

ゴンザレス:覚えがありませんね。

ゴンザレス:上院議員、思い出せる範囲でしか証言できません。

ゴンザレス:上院議員、覚えていません。

ゴンザレス:覚えていません。

ゴンザレス:不適切なことは何もなかったと固く信じております。

スチュワート:何週間にもわたる証人喚問ごっこのあげく、分かったのはこういうことだ…「アルバート・ゴンザレスは何が起きたのかまるで分からないけど、そのまるで覚えていない出来事が、適切に処理されたことだけは固く信じている」と。

【クリップ終わり】

ジョン・スチュワート:これはすべてただのゲームなんです。彼は分かってやっている。委員会の連中も分かってる。そして、大統領が出てきてこう言った…「この聴聞を見て、彼への信頼をますます強くした」と。それで確信したのです。「ああ、それは、ゴンザレスは大統領が期待した通りのことをやったからだ。」つまり、「グットフェローズ」という映画を覚えていますか?ヘンリー・ヒルレイ・リオッタ演じる主人公の下っ端マフィア)が逮捕されてから最初に(ボスを演じている)ロバート・デニーロに裁判所で会ったとき、ヘンリー・ヒルは動揺する。ロバート・デニーロが怒っていると思っているからです。しかし、デニーロは彼のところへ歩いてくると、100ドル渡してこう言うんです。「ヘマをやったな。我々みんながヘマをやった。でもお前は正しいことをした。おまえは何も言わなかった。」

モイヤーズ:ゴンザレスも何も言わなかった。

スチュワート:そうです。「お前は証言台に立ったが、何も言わなかった。法的証拠を与えなかった。賢い、ちゃんとした男が、全国放送のテレビでまるっきりのアホのように振舞った。それを、おれのためにやってくれた。」

モイヤーズ:ワシントンの記者たち、とりわけ日曜のテレビ番組が、ゲームにつき合っているのはどう説明しますか?つまり、ああいう番組を見ていると…

スチュワート:全部じゃないですよ。つまり…

モイヤーズ:そう、全部じゃありません。しかし、目配せを交し合っているような感じがあります。つまり、あえて聞きますが…

スチュワート:ハーレム・グローブトロッターズがワシントン・ゼネラルズ(2つともエキジビジョン専門のバスケチーム)と試合しているようなものです。つまり、チームは二つしかなくて、毎週やっていて、全員が自分の役どころを知っている。そして今の時点では、政府はメディアをコントロールしている。全面的にではありません。多くのブログのレポーターが、普通は勢いをもたない記事に、緊急性と勢いをもたらしています。

(つづく)