【映画感想】Winter’s Bone ☆☆☆☆

<あらすじ>17歳のリーは、抑うつ状態の母に代わり、12歳の弟と6歳の妹の面倒を見ている。麻薬製造で逮捕された父が、保釈中に姿を消した。父は家と土地を担保に保釈金を借りていたので、父を見つけて出頭させないと家族は住むところを失ってバラバラになる。父を連れ戻す決心を固めたリーは、危険を承知で、地元の犯罪組織にかかわる人々をひとりで訪ね歩く。

昨年見た「フローズン・リバー」に続く、女性監督女性主人公アメリカ寒冷地帯貧乏犯罪もの(<どういうジャンル分けや)の傑作でした。

地味で暗い映画に見えるけど、そんなことはない。いやまあ、ちと地味なことは認めるけど、暗くはない。ちゃんと娯楽性もあるし、底の底には楽観性がある。「フローズン・リバー」の時も書いたけど、アメリカ映画らしい。

でも、この映画にひきつけられるのは、主人公がヒーローだからだ。

いやー、この前に見た「キッズ・オールライト」みたいな、人間ってダラしなくて欠点だらけで、でもそこが愛しいよね、てな映画もいいけど、やっぱり、美しく気高い人間の美しく気高い行動を見るのはいいわ。ゾクゾクくる。

しかも、その気高い人間が17歳の少女だった日にゃ。

父親がトンズラして、母親は一日うつろな目で空を見つめていて、リーは家事一切から弟妹に勉強や生きるための知恵を教えることから全部やっているのだが、収入源はないので、近所の人の善意に頼る日々。

隣人が鹿を仕留めて解体しているところを見て、お腹を空かせた弟が「肉を分けてくれるかな?頼んでみたら?」と言うと、「親切でくれるものを、こっちからねだっちゃダメ!」というリー。親切は感謝して受けつつも、媚びたり卑屈になることはないんだよね。

12歳の弟も6歳の妹も、まだ不幸に打ちひしがれたり卑屈になったりせず、自分たちの悲惨な状況に気付いていないように無邪気に遊んでいて、リーが二人をどれほどちゃんと守っているかが分かる。でも、ちょっとでも状況が悪化したら全てが奈落の底におちるようなぎりぎりの崖っぷちにいることも分かる。

さて、父親を捜すため、リーは地元の、麻薬犯罪に関係しているらしいヤバい人々を直接訪ね歩くのだけど..犯罪の関係者と言っても、いかにもギャングとかマフィアとかそういう感じじゃないのよね。牧場をやっていたり、店を持っていたりする一見普通の人々なのだけど、なにしろ地域全体極貧なので、誰もがどっかでちょっと手を染めていたりする。でも、リーが父親のことを聞くと、みんなぴたりと押し黙り、命が惜しけりゃそれは聞くな、という感じになる。リーもだんだん、どういうことなのか察しがついてくるけれど、弟と妹を守るために、引き下がることはできない。

そして、彼女の前に立ちはだかるのも女たち-ボスの妻を中心にした、犯罪組織の女たちなのだ。こちらも、犯罪に関わっているのに卑しいところが感じられない、コワいけど妙に気高い人々で、つい「女は強い」とか言ってしまいそうになるのだけど...

でも本当は、「女は強い、男はだらしない」とか、そういう単純な話じゃないんだよなー、とも思う。たしかに女も強いけど、男だって強いのだ。なのに、困難な状況になればなるほど、なぜか男はその強さを、真に弱い者たち(子供や病人)を守るという正しい方向に全力投入できない。結果、女が追い詰められて強さを発揮せざるを得ないことになるのだ。これはほんと、なぜなんだろうね。わからない。

リーが、父が見つかりそうもなくていよいよ金に追い詰められ、軍隊に入隊すると4万ドルもらえると聞いて志願するシーンがある。でも、訓練を終えた後でないとお金はもらえず、しかも18歳未満なので入隊には親の許可がいると聞いて諦めるのだけど...彼女の事情を聞いた軍隊の人は、入隊して戦場に行くより、弟と妹のもとに残る方がより困難なことだ、今は勇気を出して家に残るんだ、と言う。彼女がまさに命がけの闘いをやっていることなど、知る由もないはずなのに。

これは、リアルな貧困を描いた社会問題提起な映画でもあるけど、気高く強いヒーローが知恵と勇気で困難と闘い勝利する、ヒロイック・テイルでもあるのだ。