【映画感想】クレイジー・ハート ☆☆☆1/2

この映画のよいところは、ドラマチックじゃないところだ。いかにもの感動展開になりそうなところを、いつもぎりぎりで抑えている、その程のよさがまことに心地よい。

主人公は、かつて人気を誇ったカントリー歌手。今はスランプで、酒に問題を抱えている。それでも、地方都市でライブをやれば昔からのファンが集まって盛り上がるし、声をかけてくる女性にも不自由しないし、酒を飲んでもコンサートにはぎりぎり影響しない程度にとどめている。(<まあ、これは本当にギリギリなんだけど。)かつてのスターのドラマチックな再生劇にしたければ、ここで「酒のせいで舞台上で醜態をさらし、観客に罵声を浴びる」なんていうシーンを入れたくなるところだけど、そうはしていない。

悪役・敵役が出てこないのもいい。主人公が恋に落ちるシングルマザー(マギー・ジレンホールが可愛い)はもちろん、エージェントも、かつての弟子で今はスターのトミー(コリン・ファレル。これまたさりげなくよい演技)、友達(ロバート・デュバル)も、みんないい人だ。

いい人たちで、主人公を支えてくれるのだけど、自分を犠牲にしてまでは支えない。相談すれば親身になってよいアドバイスをくれるけど、本人が求めていない時にああしろこうしろと言わない。「酒をやめたい」と言えば力になってくれるけど、自分からそう言い出さない限り、強引にリハビリに引っ張って行ったりはしてくれない。コンサートでやる気を見せて初めて、レコード契約で力になってくれる。

落ちぶれていようが文無しだろうがアルコール依存症だろうが、あくまで独立した大人同士の友情。そういうところが、なんともほどが良くて、心地よい。

アメリカ映画にはときどき、こういう大人の映画があっていいなあ。あんまり日本公開されないけど。(まあ、アメリカ本国でも大都市限定公開だったりするのだろうけど。)