ジョン・スチュワートvビル・オライリー @Fox News

私としては本当は、「The Daily Show」の方を紹介したいんですけどね〜(笑)。でも、ここ数日もっぱらの話題だったのは、Foxニュースのビル・オライリーの番組「The O'reilly Factor」に出演したジョン・スチュワートのインタビューでした。

これは生放送ではなく、42分程度のインタビューを編集したものが2夜に分けて放送されたそうです。その後で、Foxニュースの公式サイトにノーカット版が掲載されたのですが、「スチュワートの主張の中で、一番ポイントを突いているところはカットされてたんじゃないか!(オライリーが大統領に立候補したらジョンを副大統領候補に選ぶとか、くだらない冗談はカットしてないくせに)」という記事も出ていました。※1

それでも、サイトにノーカット版を載せるだけ偉いのかなあ。まあ、わざわざネットでノーカット版を見るのはジョンのファンのリベラル派の方で、Foxのいつもの視聴者は放送しか見ないだろうという計算だと思いますけどね。サイトに載せとけば、一応言い訳は立つし。

Fox News のサイト「オライリー・ファクター」ジョン・スチュワート(ノーカット)

Foxの公式サイトに行きたくない人は、コメディ・セントラルのブログに埋め込みがあります。

正直これに関しては、ジョン関係でこれだけ話題になっていたら見ないわけにゆかないので、嫌々見たのですけどね(笑)。ジョンの話を聞きたいのはやまやまですが、オライリーの態度が失礼極まりないので、不愉快で見たくないんですよ。いや、失礼と言っても、意見が対立したときに相手の話を遮って大声を出すとか、そういう失礼さじゃなくて(それもやってるけど)。私がジョンのファンだから不愉快に感じる、というのでさえなくて。とにかく、「普通に」失礼なんですよ。いくらジョンの番組がコメディとは言え、最低限の礼儀をわきまえた人間なら、ゲストに呼んだ人の番組をつかまえて、「どうせ君の番組を見ているのなんて、麻薬で頭がトンでいる怠け者ばかりだろう?」とか言うかフツー?「君のとこのアホぞろいの脚本家たちは」とか言うか?「私が大統領に立候補したら君を副大統領にする、背を高く見せるためにかかとの高い靴を履いていいよ」とか言うか?「君はユダヤ人だから、イランが核兵器を開発しているのは怖いだろう?」とか言うか?※2

いや、怒っててもしょうがないか。

でも、これでもいろいろ読むと、「オライリーはジョン・スチュワートが来たときはいつもより礼儀正しい」とか書いてあったりするのよね。って、普段はどんだけ失礼なんだ??見てないから知らないけど。

というわけで、面倒なので最初からノーカット版だけを見たので、どこが放送されてどこがカットされていたのかはよく区別していないんです。とにかく、印象に残ったところだけ訳します。(途中の言葉はだいぶん抜けていますし、順番もちょっと前後しています。)

オライリーがジョンに最初に聞いたのは、「オバマはよくやっていると思うか?(How is Obama doing?)」ジョンの答えは、ここで意訳させていただくと...「よくやってるかって?んな大雑把な。」

どうも、オライリーの頭には、彼が「保守派」としてオバマを批判して、リベラル派代表のジョンはオバマを弁護する、という「討論」の図式があるらしい。そういう単純化こそ、2004年にCNNの「Crossfire」に出演した時以来、ジョンがずっと批判していることなのに。

オライリーは、アメリカは分断されているという主張で、以前に「デイリー・ショー」に来たときも言っていたことですけど、「グリニッチ・ヴィレッジ(ニューヨーク)をわれわれ二人が歩いたら、君が私のボディガードをしなければならない。南部のテネシー州を二人で歩いたら、私が君のボディガードをしなければならない」と言っていました。ジョンはこういう、アメリカがサラ・ペイリンの言うような「『本当のアメリカ』とエリート主義のリベラルな都会」に分かれているという考え方を、馬鹿馬鹿しいと言っています。

私もそう思うのですよね〜。ニューヨークにだって、ガチガチの保守派はいっぱいいるでしょ。それに、「デイリー・ショー」のファンフォーラムに投稿している人を見ていると、テキサス、アリゾナテネシー、いろいろですよ。番組でどの議員をおちょくっても、ほぼ必ずと言っていいほど「ああ!私はあの議員の地元よ。恥ずかしい〜」という投稿があるほどで。

不愉快なところはあるとは言え、評判どおりとても面白いインタビューでした。42分のインタビューの中で一番のハイライトは(半分ぐらいカットされていますが)、ジョンによるFoxニュース自体の批判でした。

オライリー民主党のやった世論調査で、Foxニュースがわが国で一番信頼されているニュースだという結果が出たことにショックを受けているかな?49%のアメリカ人が、Foxニュースを信頼している。

スチュワート:いや。インターネットの投票で、アメリカで一番信頼されているニュースキャスターがぼくだという結果が出たことにショックを受けてたりするかい?...Foxニュースが一番視聴率がいいのは、最もわかりやすい筋書き(narrative)を、最も情熱的に売り込んでいるからだ。

スチュワート:Foxニュースの優秀さは...Foxが成し遂げたことは、あなたとドクター・アイルズで、保守系トーク・ラジオをメインストリーム化することに成功したことだ。

つまり、あなたがたの手法というのは...保守派のトーク・ラジオを、アメリカ人の血管に直接、注射することはできない。頭が爆発するからね。それはタクシーの中や、家の片隅にだけあるものだ。だから、あなた方(FOXニュース)は、サイクロンみたいに激烈な、ある筋書き(narrative)に沿った物語を、ニュース組織...つまり、特定政党、特定の政治的党派のメディア支部として撒き散らしている。そしてその間に、客観的な...クリス・ウォレス(FOXのキャスターのひとり)が厳しい質問をしたりする番組なんかを、少しだけはさみこむ。

オライリー:少しだけ?9時から4時まで、カヴート(FOXのキャスターのひとり)が登場するまでの7時間...

スチュワート:そんなもんじゃない。全然違う。その前(の番組)も、流れの一環だからだ。

オライリー:誰のことだ?

スチュワート:流れは朝に始まっている。お目目ぱっちりの、無邪気な「Fox and Friends」(Foxの朝の番組)から。「オバマは『czar』(※3)を使っています。私、czarという言葉をググってみたんです。これ、ロシア語だって知ってました?これはロシアのリーダーのことだって知ってます?」あるいは、「小学校二年生の子供たちが、オバマを讃える歌を歌わされています。(※4)どんな国が、国の元首を讃える歌を歌わせると思います?北朝鮮です!」その後、普通のニュースの時間になって、アナウンサーが言う-「(オバマ政権が)子供たちを洗脳しているのではないかと心配する声が出ています。」

このFOXニュースの、「...と、心配する声も出ています。」というレトリックについては、前にデイリーショーのセグメントでジョンが「その『声』ってのは、あんたの前の番組だろ!」とつっこんでいました。

今話題になっている「ティー・パーティー」の抗議活動も、FOXニュースがあらかじめ「ここと、ここと、ここでXX日XX時から健康保険制度改革に対する抗議活動が予定されています!」と、何度も、何度も、何度も「報道」して、あげくに当日そこに「取材」にでかけて、「ご覧下さい!怒れる国民、『草の根』の市民たちが、自然発生的にこんなに集まってきました!」とやっているわけですから。『草の根』って、そういうもんかなあ。ヘリコプターで種と肥料を撒いて生えたものでも、草の根は草の根なんだろうか。

オライリー:しかし、ジョン・マケインは選挙期間中に出演しなかっただろう?われわれが共和党の御用ニュース局だと言うなら、どうしてジョン・マケインは来なかった?

スチュワート:でも、あなた方はジョン・マケインのために働いているわけじゃない。彼は共和党っぽくなさすぎる。あなた方は、サラ・ペイリンを助けるためにいるんだ。(※5)

ジョンはオライリーのことを、Foxニュースの「Voice of reason(理性の声)」と言っています。(私には、そうとも思えないのだけど...まあ、比べるのがグレン・ベックやショーン・ハニティではねえ。)

スチュワート:あなたは、この局で一番まともな声になった...と言っても、「肥満解消キャンプの中で一番痩せている子供」ってところだけどね。

オライリー:(ニ−ル・)カブートのレベルの「まとも」かね?

スチュワート:カブートはまともじゃないよ。

オライリー:カブートがまともじゃない?

スチュワート:カブートのトレードマークは疑問形にすることだ。「民主党のせいで、株式市場は急落しているのでしょうか?」「私はオバマスターリン主義者だと言っているわけじゃありません。ただ、オバマの話をしながら背景にスターリンの写真を出しているだけです!」ぼくはニュージャージーの出身だからね、よくわかるよ。こういうのと同じことなんだ-「俺は、お前の母親が淫売だなんて言ってるわけじゃねえよ。ただ、お前のお袋は金のためにセックスするって言っているだけさ。いろんな人とな。」

以前の(ブッシュ政権時代の)Foxニュースは、二言目には「戦時に大統領を批判すべきでない。それはあるまじき行為で、非国民で、利敵行為だ。」と言っていた。それが(オバマ政権になったら)どういうわけかとたんに、「バラクオバマはこの国の根本を破壊しようとしている」になった。

オライリーアフガニスタンのことでは、オバマを批判していないぞ!

スチュワート:優柔不断だと、さんざん言っていたでしょう。

オライリー:決断するのにあまりにも時間がかかっていたからだ。何に関しても大統領を批判してはいけないなんて言っていない。我々はブッシュを厳しく批判していた。

スチュワート:それは明らかに嘘だね。

オライリー:何に関しても批判してはいけないとは言っていない。戦争に関してだけだ。

スチュワート:いや、どんな批判でも許されないというのが主張だった。はっきり言いましょうか。Foxが、そのサイクロンのような、絶え間ない...

オライリー:また「サイクロンのような」か。

スチュワート:...サイクロンのような、絶え間ない感情刺激マシーンが、1日24時間、週7日動き続けている。オバマ大統領やこの経済状況に対する理にかなった懸念を、「毛沢東の再来だ!」というような、まったくのパニック発作に変えている。

一体どうしてオバマがこの国を破壊しつつあるのか、説明してくれないかな?

オライリー:私はそんなことは考えていない。

スチュワート:じゃあ、どうしてそれがこの局のメインの主張なのか説明してくれ。

オライリー:それを主張しているのは2、3人だけだ。共和党員のショーン・ハニティと、グレン・ベックと...彼は普通の平凡な男だ。

スチュワート:グレン・ベックが「普通の男」?どこが?普通の男が番組を持ってるって?

オライリー:彼は共和党に味方しているわけじゃない。自分の考えをただ喋っているだけだ。

スチュワート:彼は共和党の考えを言っているわけじゃない。新しいムーブメントを始めようとしている。

そのことを詳しく話しましょうか。この局で聞くことと言ったら、オバマ専制君主で、社会主義者だということばかりだ。

オライリー:そうだな。

スチュワート:今までにオバマがやった一番大きな財政出動は、銀行に救済金を出すことだよ。富の再分配と言っても、銀行に再分配しただけだ!

オライリー:しかし、オバマは富の再分配を信じているのだろう?それは社会主義の大原則だ。

スチュワート:オバマの富の再分配が、歴代の他の大統領がやった富の再分配とどう違うのか説明してくれないかな。彼はクリントンの時代の税率に戻そうとしているだけだ。クリントン社会主義者か?

オバマのやることは全て「リベラル、大きな政府増税社会主義」で、ブッシュのやったことは全て「財政保守派、小さな政府、減税、自由市場資本主義」ということ自体が、Foxニュースの紡いでいる幻想の一部なんですよね。ジョンの言うとおり、オバマ政権のやった政策で一番「社会主義的」なことは銀行と自動車会社の救済(一部国有化)で、それはそもそもブッシュ政権が始めたことです。オバマの税制案は国民の95%にとっては減税になるし、その税制ですらまだ実現してないのに。オバマ政権になったとたん、なんで突然「税金はもうたくさんだ!(Tax Enough Already)」(<ティー・パーティTea Partyのスローガン)になるのか...※6

その大きな理由が、Foxニュースの売り込んでいる「ナレーティブ(筋書き)」にあるわけです。

Foxニュースが一番視聴率が高くて、半数のアメリカ人がFoxニュースを「一番信用できる」と考えているというのを聞くと、「ひどいなあ、アメリカは」とは思うのですが...でも、日本のマスコミの状況と比べてみて、どっちが悪いかって考えると、「うーむ...」となってしまうのよねえ。

なぜならアメリカは、Foxがいかに特定のナレーティブ(筋書き)を売り込んでいても、まったく相反する意見をガンガン主張する他局もあるし(MSNBCとか)、最近経営苦しいとはいえしっかりした独立系の新聞はまだ存在するし、政治ブログも右派・左派ともに盛んだし、英語圏の強みで他国メディアがアメリカについて書いた記事もどんどん入ってくるし(実はアメリカのニュースは、英国の新聞で読むのが一番)、つまり、ひとつひとつのニュースソースは信用できなくても、いろいろ選択肢があるのです。その選択肢の中で、一番声がデカくてわかりやすいものに流れてしまう人が多いのが問題なのですが、まあとにかく選択肢はある。

それに比べて、日本にはFoxのような極端な局はないにしても、新聞・テレビ・週刊誌ひっくるめて、マスコミ全体がひとつのナレーティブに沿って動いているような感じで、それが怖いんですよね〜。

例えば、先ほどのFoxの「...という声もあります」というワザで思い出したのですが...この間、NHKのニュースで、民主党が考えている「警察の取調べの可視化」について、「民主党はこれを、小沢氏の事件についての取調べを監視するために推進しているという声も出ています。」というニュースをやっていて...でも、その「声」がどこから出ているのかという説明はまったくなかったのですよ。「という声も出ています。」で終わり。「取調べの可視化」は、小沢氏の事件の前から出ていた話だし、今はちょうど足利事件の再審の真っ最中で、「取調べの可視化」といえばまずそっちが思い浮かぶのに...どっからそんな「声」が出てるんだろう?それって、検察の「声」じゃないの?と思ったのですが。公共放送であるNHKがこれだから、他はおして知るべし。

とにかく、何に関するニュースであっても、「という声が出ています。」と言うだけで、どっから出ているのかをまったく説明しない「ニュース」をそのまんま受け入れて、怪しいとも思わないのがおかしいと思うのだけどなあ。まあ、Foxニュースを「信用している」と言うアメリカの人々もそんな感じなんだろうけど。

でもね、少なくともFoxは、ジョン・スチュワートをゲストに呼んで、自局を思い切り批判するのを許しているよ。まあ、一番痛烈なところは放送からはカットしたわけだけど...それでも少なくとも、サイトにはノーカット版を載せている。

「ひょっとして、あのFoxニュースでさえも、わが国のマスコミよりはマシなのかも??」と思って、暗澹たる気持ちになったのでした。

※1 Gawker : http://gawker.com/5465299/im-not-saying-your-mothers-a-whore-how-fox-news-censored-jon-stewart-vs-bill-oreilly

※2 イランの核開発の話になった時、ジョンが「パキスタンもロシアも核兵器を持っている、問題なのは国じゃなくて核兵器だ」と言ったら、オライリーは「でも君はユダヤ人だから...(イランが持つのは特に問題と思うはずだ)」と言いだして、ジョンは「何?!」って感じでした。スタッフの方をふりむいて「誰が彼に(ぼくがユダヤ人だということを)告げ口したんだ?」と、冗談にしてあげていたけど、そうじゃなきゃかなりまずい発言ですよ。

ジョンは意見をはっきり言っているのに、それを無視して「でも君はユダヤ人だからこう思うはずだ」とか言うのは、人種差別の最たるものだと思いますがね。私も、意見をはっきり言っているのに、「でもあなたは日本人だから(あるいは女だから)こう思っているはずだ」と言われるのは大嫌い。

※3 czar:元の意味はツァーリ、つまり昔のロシア皇帝のこと。現代アメリカでは、「その分野の第一人者(である政府のコンサルタント)」という意味で使っている。例:economic czar 「ロシア語=共産主義」というイメージを植えつけるためにわざわざ言ってるんでしょうけど、ツァーリならむしろ共産主義の敵では(笑)?

※4 ある小学校で、子供が憶えやすいように、歴代大統領の名前とその業績を織り込んだ歌を作って、授業参観日に子供たちに歌わせた。FOXは親が撮影したそのビデオを入手し、オバマ大統領について歌っている部分を放送した。

※5 サラ・ペイリンは最近FOXニュースで番組を始めた。

※6 ティー・パーティの参加者のインタビューで、ティー・パーティという名前の元になっている「ボストン茶会事件」のスローガンを引用して、「代表なくして課税なし。私が選んだ(共和党の)代表が選ばれなかったから、税金を払う必要はないのよ!」と主張している人がいました。はあ〜??