ブロードウェイ・ミュージカル鑑賞記〜Avenue Q(その3)

もし君がゲイでも
ぼくは全然かまわないよ
どっちにしても君が好きだもん
だって、もしぼくがゲイなら
かまわず言っちゃうね
「ぼくはゲイだ!」って
…でも、ぼくはゲイじゃないけどね。

だって、もしぼくがここで君に
「実はぼく、ゲイなんだ!」って言ったら、
君も受け入れてくれるだろう?
…でも、ぼくはゲイじゃないけどね。

君と一緒にいるだけで幸せさ
だから、君がベッドで男と何をしようとかまうもんか!
生まれつきなんだもん!
DNAに組み込まれているんだもん!

〜ニッキー If You Were Gay

ロッドとニッキーは、「セサミストリート」のバートとアーニーのような、性格は正反対で時にはお互いをイライラさせるのに大の仲良し、というルームメイトです。「セサミストリート」と違うのは(あるいは、同じなのか…?)ロッドが隠れゲイだということです。

【あ、今さらですがネタバレです。】

ロッドは共和党員で投資銀行勤務、アベニューQの登場人物の中では唯一固い仕事についている社会人です。(他は失業者、アパート管理人、客のいないセラピスト…ケイト・モンスターは幼稚園の先生だけど、途中でクビになるし。)

まあ、お堅い銀行員だからって、今のニューヨークでゲイをオープンにしたからって仕事に差し支えることはないと思いますけどね。ところが、ロッドは家庭の教育のせいか、本人の性格のせいか、ゲイであることをひた隠しにしている…つもり。本人は。実はまわりにはバレバレで、本人以外はまったく気にしてないんですけどね。

そもそも、けっこうな収入があるはずの銀行員のロッドが、他のビンボー人たちと一緒にアベニューQの安アパートに住んでいるのがおかしいのですけど。たぶんそれは、ルームメイトのニッキーのためなんですよね。そう、ロッドはひそかにニッキーが好きなんです。

ところがニッキーは、ロッドがゲイだってことにはとっくに気がついているものの、自分のことが好きだとは露知らず。励ましているつもりで上記のような歌を歌うのですが…歌詞を読めばお分かりのとおり、かな〜り無神経です(笑)。悪気はないんだろうけど、人の気も知らないで、ってやつですね。

いちいち念を押すように、「...but I'm not gay.(でもぼくはゲイじゃないけど)」と付け加えるのが、ロッドにはグサグサきているだろうと思うと、可哀想やらおかしいやら。

悪気はないけど呑気者のニッキー、ロッド本人にカムアウトの覚悟ができていないのに、アパートの他の住人に「ほんとのとこ、どうなの?」と訊かれて「ロッドはゲイだ」と言ってしまいます。堪忍袋の緒が切れたロッドはニッキーをアパートから追い出し、無職のニッキーはホームレスに…ってことは、ニッキーは家賃やらもろもろ、全部ロッドの世話になってたんですな。ルームメイトっていうより居候ですね。ニッキーはそれであっけらかんとして、気を使っているつもりで冒頭の歌。「愛すれば愛するほど、ブチ殺したくなる」のはロッドの方じゃないのか。

まあ、最後にはクリスマス・イブの助けでカムアウトもして、どうやら幸せも訪れそうで、めでたしめでたしになるんですが。

アベニューQの登場人物では、私は個人的にクリスマス・イブがお気に入りなんですが、たぶん見た人の間で投票したらロッドがナンバーワンでしょうね(笑)。愛すべきキャラです。

ところで、冒頭に書いた「If You Were Gay」は、このミュージカルで二番目に笑える歌です。これもものすごく笑えるんだけど...トレッキー・モンスターが人生の情熱をこめて歌う「The Internet is for Porn(インターネットはポルノのためにある)」にはかないません。

このミュージカルでは、今までに書いた曲の他にも、「人を助ければ自分も助けることになる」とか、「人生のあらゆることは『とりあえず今のところ』」とか、人生の真実を鋭くついた良い歌がたくさんあるのに、結局一番頭に残ってしまうのはトレッキー・モンスターの「♪For porn! For porn! For porn!」という叫びになってしまうのだな。

でも、最後には、どんなものでも「好き」を追求していれば世のため、人のためになるという展開になるのです。すごいなー。

なんだか、思いつくままダラダラ書いてしまいましたが、この話はこのへんで。

♪The internet is, the internet is, the internet is for...おっと。