New York 断片的な旅行記〜Jersey Boys (その2) 

「Jersey Boys」は、「今、生身の人間が目の前で演じている」ということを、すごく感じる舞台でした。

…いやその、どのミュージカルだって演劇だって、舞台なんだから、目の前で生身の人間がやってるのは当たり前なんですけどね。でもどういうわけかコレ、他のミュージカルに比べてそれを強く感じたのです。

それはたぶんこの4人−フランキー・ヴァリ、トミー・デヴィート、ボブ・ゴーディオ、ニック・マッシというキャラクターに共感する度合いが強かったせいなんでしょう。

この4人はナレーターとして話を進める役もやっているので、始終「観客に話しかけて」いて、そのせいで親しみを感じてしまうだけかもしれないんですけどね。その点、ずるい(?)んですが。

私は男同士の絆、友情の話というのは大好きなんですが…でも、その中でもうるさい選り好みがありまして(笑)。まず、主従関係はダメ。軍隊の上官と部下というのもダメ。どっちかがどっちかに忠誠を誓うとか、一方的に従うとか尽くすっていうのはダメで、対等の関係じゃないと嫌なんです。あまりに理不尽なべったりした関係もダメ。

この話でいうと、フランキーとトミーの関係はまあ、理不尽べったりと言えないこともないんですが…でもそこで、ちょっと醒めていてビジネスライクな天才ボブと、マイペースでちょっと天然ボケ(?)なニックがいることが効いているんですよ。この4人のバランスが絶妙というか…

たぶんこの4人は、自分たちが「対等」だとは考えてないと思うのですけどね。むしろ、それぞれが勝手に「他の3人の面倒を見るのは自分」だと思っているフシがあって。それはある意味エゴだし、その思いはズレてすれ違って、後の確執の元にもなってくるんですが…

<以下ネタバレ>

ニュー・ジャージー州はベルヴィルという街のチンピラのトミーとニックは、ケチな犯罪に手を染めて塀の中と行ったり来たりする一方で、コピーバンドをやっています。トミーは「天使の声」を持つフランキーという少年を発見、バンドに入れて弟のように面倒を見ています。

なかなかうだつの上がらない彼ら、「当節、トリオは流行らない、やはり4人組じゃないと」と、4人目のメンバーを探すのですが…近所の仲間のジョー・ペシ(後にアカデミー賞俳優になるあのジョー・ペシ)が、15歳で「Who Wears Short Shorts」という曲をヒットさせた天才少年ボブ・ゴーディオを紹介してきます。(しかし、「タモリ倶楽部」のテーマを作曲したのが15歳の少年だったとはね。びっくり。)

ボブを加えて4人組になったバンド。ボーリング場の看板にインスピレーションを得て「フォー・シーズンズ」という名前をつけ、ボブはやがて「シェリー」という曲を作り…そして、「The whole world exploded!(世界が爆発した!)」

3曲連続で大ヒットを飛ばし、一躍スターになった「フォー・シーズンズ」ですが…フランキーの才能を発見したのもバンドを作ったのも自分だと思っているトミーは、いつの間にか作曲の天才ボブと歌の天才フランキーがスポットライトを浴びて、自分とニックは添え物扱いなのが面白くない。弟分だと思ってたフランキーが、ボブと二人で独自の契約(サイド・ディール)を交わしていたことを知った彼は、ギャンブルに溺れて莫大な借金をこしらえたり、フランキーにわざと冷たく当たったりするようになります。

トミーは大人になれないタイプの男で、はっきり言ってロクデナシなんですが…これが憎めないんだなあ。まあ、演じているドミニク・ノルフィがとびきりハンサムだったせいかもしれないんですが(笑)。

私はどっちかと言うと、フランキーやトミーより、こういう下町義理人情な世界に対して一歩引いてクールに見ているボブの方に共感してしまうタイプなんですけどね。でも、そのボブが言う、「ここでフランキーがトミーを見捨てると思ったんなら、あんたはジャージーの出身じゃない」という台詞には、なぜか涙が出るほど感動してしまったのでした。

そのボブだって、「『昔からの近所の絆』なんぞクソ食らえだ、イタリア系のドラマ好きにはうんざりだ」と言いながらも、自分の作った曲がヒットした金でトミーの借金を穴埋めすることに文句を言わない。考えてみれば、ボブが一番カッコいいよな、この話。

それぞれのプライド、感情のもつれ、それより切実な金の問題…いろいろあってトミーとニックはバンドを去り、ボブは作曲とプロデュースに専念、「フォー・シーズンズ」のオリジナルメンバーはフランキーひとりになってしまうのですが…

その後、「君の瞳に恋してる」の大ヒットがあり、フランキーの身にふりかかる思いがけない不幸があり…フィナーレは、「ロックンロール・ホール・オブ・フェイム」に殿堂入りしたセレモニーで、4人が20年ぶりに同じステージに立つシーン。ここが、また、すごいのよ。

昔のように並んで、カッコ良くフリを決めつつ、すばらしいハーモニーを聞かせる4人。人生の様々な不幸も、嫉妬やらエゴやら、人間のネガティブな感情も…すべてを乗り越え、洗い流してしまう音楽の力。そういう一つのテーマを、千の言葉を尽くすより、ひとつの絵、ひとつの曲で表現してしまう。しかも、ストーリーと音楽が絶妙に絡み合っているからこそ、その表現ができる。これこそがミュージカルだと、私は思うのです。

ジャージー・ボーイズ」はミュージシャンの伝記もので、ステージで歌うシーンが多いから、コンサートに近くてミュージカルが苦手な人にも受け入れやすい…なんていうのは、と〜んでもない勘違い、むしろ失礼きわまりない話で。これは何よりミュージカルらしいミュージカルで、ミュージカルとして傑作だからこそ傑作なんだと。いや、当たり前のことなんですけどね。