New York 断片的な旅行記〜Jersey Boys (その1)

今回観たミュージカルは6本。こうやってPLAYBILLを並べると、いちいち何を観たか書かなくてもわかるから便利ですね(笑)。Jersey Boysだけ2冊あるのは2回観たからです。

日本からあらかじめチケットを買って行ったのはJersey Boysだけで、あとはTKTSに割引チケットが出ているのを買って観たのですが、みんな楽しめました。(うち2本は、まあそこそこに…ですが。)でも、やっぱりJersey Boysがダントツでしたね。

ミュージカルの良さというのは、説明するのが難しい…どうしてこれが特別なのか。「音楽がいい」と言っても、音楽は他のミュージカルもみんな良いわけだし。「ストーリーが…」と言っても、正直、他に比べてなぜこのストーリーが「良い」のか、説明できない。むしろ、音楽とストーリーが重なり合う、そのぎりぎりの境目の、カラミ方の部分に「特別さ」は宿っているような気がします。

これは60年代のグループ「フォー・シーズンス」の実話に基づいた伝記ミュージカルですが…実のところ、私はフォー・シーズンスをリアルタイムで憶えている世代じゃないし、なんとなく聞き覚えのある曲が多い(日本のカバーとか、今まで観たアメリカ映画で使われていたりとかで)とはいえ、この音楽に特別な思い入れがあったわけじゃありません。

それなのに、見終わった後にはこの音楽が大好きになってしまったのは、元々の曲の良さもさることながら、この舞台の「プレゼンテーションの見事さ」にやられてしまったような気がします。

例えば前半の、「フォー・シーズンス」に名前を変えたばかりの4人組がついに売れ出す部分の「シェリー」「Big Girls don't Cry」「Walk Like a Man」の3連発もそうですが…

<以下ネタバレ気味>

圧巻は後半。オリジナルメンバーが抜け、ヴォーカルのフランキー・ヴァリ以外は新メンバーになって、ちょっと停滞していた時期、作曲担当のボブ・ゴーディオが会心の曲を「2曲いっぺんに」作る。そのうちひとつの「C'mon Marianne」はレコード会社の人もいっぺんに気に入って、順調にヒットするけど、「もうひとつの曲」は難色を示されて、なかなか出してもらえない。

「どうして?『もうひとつの曲』の方こそ画期的なのに!」とくやしがるボブとフランキー。レコード会社の偉いさんは「『マリアンヌ』は素晴らしいけど、『もうひとつの曲』の方はよくわからんなあ、ポップにしてはホット過ぎるし、ロックにしてはソフト過ぎるし…」「まったく新しいサウンドなのかもしれないじゃないか!」というような会話があり…

もう、観ている方はここで、「ああ、『もう1曲』っていうのはアレだな。いよいよアレが来るんだな。」と、ワクワクしてくるわけですよ。こうして、もう思いっきりじらして、これでもかの前フリで期待を高めさせた後で…

いよいよフランキー・ヴァリが「Can't Take My Eyes Off You(君の瞳に恋してる)」を歌う時の、えも言われぬカタルシス

やっぱり、これはっていう自信のあるものは、思い切りすごい前フリをして出すべきなのね(笑)。

自信っていえば…これを歌い終えた時、もちろん観客は熱狂的な喝采を送り、ショー・ストッパーになるわけです。フランキーはそこで、観客の熱狂的な反応に感動した表情で、一礼するのですが…ここで、喝采しているのは私たち現実の観客ですが、それに感動しているのは演じている役者ではなくて「フランキー・ヴァリ」なのだという、一種不思議な感覚になります。

それはこの「Can't Take My Eyes Off You」という曲が世間に熱狂的に受け入れられ、大ヒットになったということを示す演出になっているのです。つまり、ここで観客が熱狂的に反応しなければ、ストーリーが(ある程度)成り立たなくなっちゃうんですよね。この自信!

このミュージカルが、リピート客が多いっていうのわかるなあ。このシーンは圧巻ですが、他にもいくつかこういう、なんとも表現しがたい、ほとんど生理的な快感を与えてくれるシーンが随所にあるんです。

こういうのって、映画にも、ストレート・プレイ(演劇)にもない、ミュージカル舞台ならではのものだと思います。

あと、「Jersey Boys」はストーリーも意外とツボだったのですが…それについては次回。