コミュニティ・オーガナイザー

この「The Daily Show with Jon Stewart」のセグメントは、大統領選挙直前の10月30日に放映されたものです。後から考えると、選挙でオバマさんが勝った理由のひとつを説明しているようで、面白いと思ったのですが、他にいろいろあって書きそびれていました。

The Daily Show with Jon Stewart 2008/10/30

しかし先日、「ラースと、その彼女」という映画を見て、なんとなく思い出したので、今更ですが書いてみようと思います。

アメリカの田舎町の保守的で信心深いキリスト教徒の白人というと、ハリウッド映画ではネガティブに描かれることも多いし、個人的にはサラ・ペイリンのおかげでかなりイメージ悪くなってしまったのですが(笑)、この映画ではそういう人たちの最良の部分が描かれていました。(もちろん、どっちの描き方が正しいとかいう問題じゃなくて、現実にはいろんな人がいるし、良い面も悪い面もあるんでしょうけど。)

特に、人形の「ビアンカ」を病院でボランティアさせる面倒見のよいおばさん(名前失念)が、この「The Daily Show」のセグメントに出てきた「コミュニティー・オーガナイザー」の女性と重なって見えたのです。

「コミュニティー・オーガナイザー(community organizer)」というのは、地元(コミュニティー)でチャリティ活動をリードし、ボランティアをとりまとめて組織(オーガナイズ)する世話役のことです。

ことの起こりは、今回の大統領選挙の共和党大会において、サラ・ペイリンとジュリアーニ元NY市長が「コミュニティ・オーガナイザー」を馬鹿にする発言をしたことでした。

というのは、オバマさんはご存知の通り政治家としてのキャリアが短くて、選挙戦でも「経験不足」が最大の問題とされていました。で、彼は政治家になる前はシカゴで「コミュニティ・オーガナイザー」をやっていたのです。シカゴには貧しい地域があるので、そこでいろいろチャリティ活動をリードしていたわけ。だから共和党としては、「コミュニティ・オーガナイザー?そんなもんが政治的経験のうちに入るかい!」と言いたかったわけですね。

ジュリアーニオバマ上院議員は、シカゴで「コミュニティー・オーガナイザー」をしていたそうですが…【聴衆から笑い声】…(ちょっと戸惑って)何ですか?

ペイリン:(私がやっていた)小さな町の町長というのも、コミュニティーをオーガナイズしていると言っていいでしょう。ただ、「コミュニティー・オーガナイザー」と違って、町長には実際に責任ってものがあるんですよ!

いや、コミュニティー・オーガナイザーにだって「責任」はあるでしょう。違うのは、町長には「公費」と「権力」があることで、あなたがその権力をどう使ったかについてはいろいろ聞いてるよ。(※)

と、よっぽど突っ込みたかったのですが(笑)、もちろん、私が突っ込むまでもなかったようで…

この共和党大会の直後の「The Daily Show」のフォーラムで、アメリカの地方の小さな町に住んでいる人(ええ、そういう所にもデイリー・ショーのファンはいるんです)から、「私はいわゆる『コミュニティ・オーガナイザー』をしている人をたくさん知っているけど、みんなしっかりした良い人たちで、なによりほとんどが共和党支持者だ。オバマの悪口を言いたいがために、そういう人たちを敵に回すような発言をするなんて、共和党は何を考えているんだか」という投稿があって、なるほどなあと思っていました。

で、実際にそういう人はいたという話。

このセグメントに登場するリズ・ショウさんというオハイオ州在住の女性は、地域の貧しい人々に食べ物を育てる方法を教える活動をはじめとして、もう30年以上「コミュニティー・オーガナイザー」をやってきた人だそうです。彼女は自分を「保守派」だと言い、今までは共和党に投票することが多かったそうですが、今回は共和党大会でのペイリンとジュリアーニの発言を聞いて、たいへん侮辱されたと感じたそうです。

で、彼女は決心したのです。今回はオバマに投票する。それも、自分が投票するだけじゃなくて、みんながオバマに投票するように、コミュニティをオーガナイズしてやろうと。(ちなみに、オハイオ州は選挙の行方を決めるのに重要な「スウィング・ステート(激戦州)」のひとつでした。)30年にもわたって何百人ものボランティアを動かしてきた彼女ですから、人を動かし組織するのはお手の物。「コミュニティ・オーガナイザー」をなめたら怖いのです(笑)。

オハイオの地元新聞に載った、このセグメントの裏話。

http://athensnews.com/news/local/2008/oct/27/local-community-organizer-makes-daily-show-corresp/

オハイオ仕込みのウィットが英国人のジョン・オリバーを笑わせた」ということを強調した記事になっているのが田舎の地元紙っぽくて微笑ましいのですが、記事の最後の彼女の言葉が印象的でした。

彼女はオバマに、この「The Daily Show」のエピソードを見てほしいと思っている。「かつてコミュニティ・オーガナイザーだった人がアメリカの次の大統領になると思うと、前よりもちょっぴり誇りを持って歩ける気がします。もしオバマが、私たちのように世の中を良くしようと地道に働いている人々のことを忘れたら、思い出させてあげるつもりです。でも、彼は忘れないでしょう。それでも、私はこのビデオをオバマの選挙本部に送って、彼に渡してくれと頼むつもりです。少し落ち着いたら、きっと見てくれるでしょう。」

※ペイリン氏は知事時代、自分の妹と離婚でもめていた警官をクビにするようその上司に働きかけ、上司がそれを拒否すると彼をクビにした。これがいわゆる「トルーパーゲート」で、これは「疑惑」ではなく、裁判所で既に事実と認定されている。他に、ニューヨーク出張の際、公費で娘を連れて行って高級ホテルに泊まっていたことも問題になった。