先週のThe Daily Show with Jon Stewart(共和党大会編)

先週のThe Daily Show共和党大会のカバーは、「ここ数年で最高」、「いつも面白いけど、今週の彼は燃えてる!」と絶賛の嵐でした。

民主党大会でも、一部の不満なヒラリー支持者の子供っぽいふるまいや、演出過剰のお祭り騒ぎをおちょくってはいましたが…

共和党大会の、偽善また偽善、矛盾また矛盾(8年間政権の座にいた党が「変革」に「変革」で対抗?)の筋の通らないスピーチの数々の方が、やはり風刺のターゲットとしては格段に優れているようです。

デイリーショーが面白くなるのは嬉しいけど、これっていいことなのか…??

まあ、ジョン・スチュワートはどっちかというと民主党支持の人だと思いますけど…彼は別に、筋金入りのオバマ支持派ってわけじゃありません。

そりゃ、ブッシュ政権はもちろん大嫌いで、その終焉を「コメディアンとしても、ひとりの人間としても、一市民としても、一哺乳類としても」待ち焦がれている、と言っていましたが…でも、ジョン・マケイン上院議員については、「好きだし、尊敬している」と何度も語ってました。

それは彼の、党の方針に反することでも正しいことは直言するという「一匹狼」ぶりが理由でしたが、あと、ジョンには意外と単純でセンチメンタルなところもあるので、ベトナム戦争で捕虜になって、捕虜収容所で虐待を受けながら5年間もサバイバルしたってことを、単純に尊敬してしまっていたのかもしれない。その気持ちはわかるけどね。

それがちょっと表れていたと思ったのが、2004年のアブ・グレイブの拷問スキャンダルの時のセグメントです。

いろいろ責任逃れをするブッシュ政権の人々とは違って、マケインさんは「責任を明らかにすべき、捕虜を赤十字の目から隠すべきではない」とはっきり発言していました。この件で、「このような写真が流出しマスコミが騒ぐことはテロリストの思う壺だ」と、めちゃくちゃな発言をしているビル・オライリー(1※)と議論しています。

The Daily Show with Jon Stewart 2008/8/4

マケイン:そもそも、拷問では情報を得る事はできない。私は事実としてそれを知っている。

ビル・オライリー:そんなことはない。厳しい尋問は効果があると聞いている。程度の問題なんだ。

スチュワート:なんと、ビル・オライリーが、ジョン・「5年間竹の檻の中で自分の尿を飲んでいた」・マケインに、拷問について講義してるよ!来週は、スティーブン・ホーキング博士に量子物理学と身体障害の克服法について講義するそうだ!

ところが!彼は昨日の彼ならず。2006年あたりから、マケインは、共和党の指名候補になるため、党の方針に妥協を繰り返すようになり…宗教右派の大学に招かれて講演したり、拷問の問題についても、民主党が提出した拷問を禁じる法律に反対票を投じるようにまでなっています。かつての自分に謝りなさい、って感じ。

それでもジョンは、ごく最近までマケインにわりと好意的で、時にはThe Daily Showファンに数多いオバマ支持派をイライラさせたりもしていました。たった2週間前にも、ジョンは記者に聞かれて、大統領選でどちらに投票するかは「まだ決めていない」、「どちらがなっても良い大統領になるだろう」と答えています。

ところが!今週、共和党大会特集の中で放送された「ジョン・マケインの伝記フィルム」から判断すると、ジョンはついにマケインに愛想を尽かしたように思えます。やはり、宗教右派に媚びたサラ・ペイリンの起用が「最後の一本の藁」になったのでしょうか。

かつての信念を捨てて限りなく変節してしまったジョン・マケインの人生を、「反逆者」だった若い頃のマーロン・ブランドと、見る影もなく太ってしまった晩年のブランドになぞらえて作られたセグメント。

The Daily Show with Jon Stewart

ナレーター:ジョン・マケインが大統領になろうとするなら、何かを捨てなければならない…

(タイトル)ジョン・マケイン: 一匹狼の改革者 → 改革されてしまった一匹狼

【中略】

ベトナムの捕虜収容所で5年を過ごした後、英雄として帰還した彼は、パープルハート勲章と、シルバースター勲章と、前より美人で金持ちの妻と、上院議員の座と、今後の政治的攻撃に対するバリアを手に入れた。

第二部:今までの信念を全て捨てる時 2006年〜現在

2000年のマケイン:共和党民主党も、左派のルイス・ファラカンやアル・シャープトンであろうと、右派のパット・ロバートソンやジェリー・フォールウェルであろうと、アメリカ政治の両極端の人々、不寛容の精神を広める人々に迎合すべきではない。

2006年のマケイン:ありがとう、ドクター・フォールウェル…(2※)

2000年のマケイン:ロー対ウェイド判決(3※)を破棄するなら、多くのアメリカの女性は違法で危険な妊娠中絶手術に頼らざるを得なくなります…

2008年のマケイン:ロー対ウェイド判決の破棄に賛成します…

2004年のマケイン:(ブッシュの富裕層に対する)減税を継続することには反対です。

2008年のマケイン:ブッシュ大統領の減税策を恒久的なものにします。

2002年のマケイン:(イラク戦争に関して)この戦闘はそれほど困難なものにはならないと確信しています。

2006年のマケイン:われわれは最初から、この戦闘が非常に困難なものだということは理解していました。

ちなみに、民主党大会の時に放送された、これと対応するオバマの「伝記フィルム」はこちら。

The Daily Show with Jon Stewart 2008/8/28

ナレーター:オバマがスピーチするたびに、天使がオーガズムを得る。(4※)

ライオン・キングの「サークル・オブ・ライフ」には大笑いしました。

これだって、まあオバマに対する支持者の度を越した崇拝ぶりをからかってはいるけれど、なんとなく愛情も感じられるセグメントでした。

1※ビル・オライリー:FOXニュースで「オライリー・ファクター」という番組をやっている、有名なバリバリ右派の政治評論家。「コルベア・レポー(ト)」でスティーブンが演じているキャラクターの「スティーブン・コルベア」は彼がモデル。

2※ジェリー・フォールウェル (1933〜2007):エヴァンジェリカル福音派)の牧師で、教団と大学を創設した。テレバンジェリスト(テレビの説教師)としても有名。同性愛・フェミニズム・中絶・キリスト教以外の宗教・無神論者を極端に攻撃する姿勢で、いろいろ物議をかもした人。マケインは2006年に彼の大学「リバティ大学」で卒業講演を行った。(3/22のエントリーを参照

余談…今頃気づいたけど、テレビ版「デッド・ゾーン」のパーディ牧師って、このフォールウェルがモデルですね。そう考えると…「デッド・ゾーン」の原作ではジョン・スミスは未来の大統領グレッグ・スティルソンと握手して世界の終末のヴィジョンを見たけど、テレビ版ではスティルソンとパーディの両方と手をつないだ時に最初の終末ヴィジョンを見る、という設定になっていたのが興味深い。新進気鋭のカリスマ的ネオコン政治家+宗教右派アルマゲドン

3※ロー対ウェイド判決:人工妊娠中絶の権利を認めた(中絶を禁止する地方条例を違憲とした)最高裁判決。

詳しくはこちら
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%ED%A1%BC%C2%D0%A5%A6%A5%A7%A5%A4%A5%C9%C8%BD%B7%E8

4※〜するたびに、天使が…:映画「素晴らしき哉、人生!」の「どこかでベルが鳴るたびに、天使が羽根をもらえる」という台詞のもじり。以前、ディック・チェイニー副大統領が珍しく(ブキミに)微笑んでいる映像を見て、ジョンが「チェイニーが微笑みを浮かべるたび、天使がウォーターボーディングされる」と言っていたことも。

ちなみに映像は、80年代のゲイ青年たちとエイズ問題を扱った舞台のテレビドラマ化「エンジェルズ・イン・アメリカ」から、エマ・トンプソンとメリル・ストリープのラブシーン(笑)。