【読書感想】Curse of the Blue Tattoo - Louis A Meyer

Curse of the Blue Tattoo: Being an Account of the Misadventures of Jacky Faber, Midshipman and Fine Lady (Amazon)

青い刺青の呪い:士官候補生にして立派なレディ、ジャッキー・ファーバーの災難の報告であります

4/2のエントリーに感想を書いた「Bloody Jack」の続編(シリーズ第二作)です。

男の子のふりをして英国海軍の軍艦ドルフィン号の「少年水兵」になった女の子の孤児、メアリー・「ジャッキー」・ファーバーのその後の冒険。舞台は1803年〜1804年、ジャッキーは14〜15歳。

この第2作は完全にボストンを舞台にしていて、まったく海には出ないのですけどね。(3巻からはまた海に戻ります。)これは、次につながる「修行編」と言っていいでしょう。

<以下、第1作「Bloody Jack」ねたばれ、第2作ちょいばれ>

前作の最後に、ジャッキーはついに女であることがバレ、艦付き教師(schoolmaster)のはからい(というか、厄介払いというか)で、なんとボストンのお嬢様学校に入学することになってしまいます。

艦付き教師というのは、士官候補生に国語・数学・一般教養を教えるために乗っているのですが(ジャック・オーブリー艦長は教師を乗せないで、自分で教えることが多かったですね)、「ドルフィン号」の教授はアメリカ人なので民主主義的で、ジャッキーたち少年水兵にも授業をしてくれていたのです。民主主義的で親切で科学精神旺盛な先生でしたが、何しろ当時のアメリカ人だけに、ガチガチのピューリタンだというところが欠点でした。

なので、この教授の知り合いが校長をやっている「ローソン・ピーボディ女子学校」というのも、もちろんガチガチのピューリタン。ピム校長(メリル・ストリープがやったらちょうどよさそうな、超おっかない女史)もガチガチだし、当時のボストン全体が、二言目には神だ罪だ地獄の業火だと、もうカタくてカタくて。まあ、こういう信心深すぎるところが嫌われて英国を追い出された人々が作った国だから、しょうがないのですけどね〜。(ちなみに、アメリカには、現在でもこの傾向はちゃんと残ってます。)

自由で楽しいこと大好きであまり信心深くないイングランド人のジャッキーが馴染めるはずもなく、港で英国人水兵相手にダンスのステップを披露していたところを逮捕されて(理由は「膝が見えたから」!)、えらいことになるのですが...

でも、ガチガチな一方でちゃんと良いところもある。ジャッキーが友人とボストンの街を歩いていて、ロンドンと違って物乞いをする孤児の姿がないこと、どんなに低い階級の人でもちゃんと読み書きができること(当時の英国では、下層階級はほとんど文盲だった)を不思議に思い、孤児は政府が保護していること、子供全員に教育を受けさせることが法律で決まっていることを聞かされて驚くシーンがあります。うむ、現在のアメリカ保守派の人々が主張していることに反して、「ファウンディング・ファーザース」が目指したのは、ちゃんと国民の面倒を見る福祉国家だったのよね〜。

閑話休題。英国海軍の士官候補生にまでなったジャッキーがお嬢様学校でレディ修行と聞くと、型にはめられ、役にも立たないことを教え込まれてうんざり、という感じを思い浮かべるのですが...意外にも、この学校で教えられることって、非常に役に立つことばかりなんですよ。特に乗馬!あとフランス語や数学や歴史はもちろん、音楽や美術や家庭科(お嬢様は家事はしないので、主に習うのは家計管理)さえも。役に立たないのは刺繍ぐらいだろうか。

さらに意外なのは、3巻で再び世の中に出て地位の高い男たちと渡り合う必要が生じたとき、この学校で教えられたことの中で一番役に立つのは「お嬢様としての気構え・態度」だったということです。なにしろ、ジャッキーがに入学して最初に教えられるのが、「ローソン・ピーボディ女子学校の生徒がいつも浮かべておくべき表情」なのですよ。鼻と顎をつんと上げ、唇は閉じ、歯は離して、目は伏せ目がちにする。「haughty」(高慢)と表現されているこの表情は「The Look」と呼ばれるのですが、要するに、「私はただの女じゃなく、レディなんだからそう扱いなさい」という表情なんですね。レディとただの女を分けるのは生まれでも金でもなく、まずはこの「根拠のないプライド」なんだなあ。ハッタリと言ってもいい。

現代なら、プライドだけ高くても実力がなければ、と考えるだろうけど、当時の女性はどうしたって力のある職業にはつけないし、そもそも法律上「自分の金を持てない」という決定的な障害があるので、本人がどんなに優秀でも「実力」を持つこと自体が難しいのだ。そこをすりぬけて、とにかく自分の力で生き残ってゆくには、まずはハッタリでもなんでも「自分は偉い」と思うこと...いや、何があっても「自分は偉い」という態度を崩さないだけの根性を身につけることなんだなあ。

あ、なんか脱線気味だし長くなったな。続きは後で。