民主主義のお手本(先週のThe Daily Show with Jon Stewart)

ずいぶん前から、今度は政権交代になるであろうと言われていたイギリスの総選挙が、いよいよ5月6日に行われるようですが、今回はそのネタで。デイリーショーの英国ネタに弱いんです私。(たまにしかないけど。)とりわけ、ジョン・オリバーが出てくるやつは。

今回のイギリスの選挙が、いかにアメリカナイズされつつあるかという話。

The Daily Show with Jon Stewart 2010/4/21 United Kingdom General Election

ジョン・スチュワート:保守党のデビッド・キャメロン労働党ゴードン・ブラウン自由民主党ニック・クレッグの3人のうち誰が...アメリカに都合のいい要求には何でも従うという特権を得ることになるのかを決める選挙だ。はっ、誰がが言ってやらなきゃ。USA!USA!【観客唱和】

ジョンの観客の「USA!コール」は、スティーブンの観客のノリノリぶりとは違って、なんとなく嫌々って感じ(笑)

スチュワート:英国の選挙について、英国国民であり、4年前アメリカという黄金の蜜を味わってしまい、自らの国を捨てたジョン・オリバー!(中略)

ジョン・オリバー:今回の選挙の注目は、英国が初めて、アメリカ式の劇場型民主主義を採用したことだ。史上初の党首討論がテリー(※)で放送された。

スチュワート:「テレビ」だろ?

オリバー:ぼく、何て言った?

スチュワート:気にしない。

「テリー」っていう言い方、なんとなく可愛いと思うのは私だけでしょうか。

オリバー:本物のアメリカの「社会コメンテーター」が何と言うか、ちょっと緊張するね。

スチュワート:その通り!なにしろ、ぼくは「社会コメンテーター」(※)だからね。見てみようか。

イギリスのテレビ:アリステア・スチュワートです。史上初の党首討論を生放送でお送りします...(タイトル「史上初の選挙討論会」)

オリバー:これがオープニングだけど、雰囲気を感じてもらえたかな?どう思う?

スチュワート:まあまあだね。グラフィックは80年代のPBS(公共放送)っぽいし、演出は90年代の「ミリオネア」みたいだけど、音楽は大げさで安っぽいね。

オリバー:それじゃ、音楽は合格だね!

スチュワート:ああ、そこはよく出来ている。見込みはあるね。続きを見てみよう。

イギリスのテレビ:この討論には、76項目のルールが定められています。

スチュワート:76のルール?

オリバー:多すぎ?少ない?

スチュワート:多すぎだと思うけど。ルールの内容を見てみようか。

各党首は最初に1分間発言する、各党首の返答はそれぞれ1分、チャーチルの言葉の引用は3回まで、質問は「Simon Says」で始めること、相手の15世紀の先祖を侮辱するのはなし、ネクタイは指定の「ネクタイ鑑定人」のチェックを受けること、下着は白に限る、ヘッドロック禁止、女王のコーギー犬にも同等の発言機会を与えること、ヒトラーの扮装は禁止?マジで?

オリバー:そのルールは必要なんだって。

スチュワート:本物のアメリカ式ディベートのチェックリストがここに...いや間違えた、こっちだ、さっき落書きしたやつ...ひとつづついこうか。ディベートで一番大切なのは?

オリバー:えーと、事実を話すこと?

スチュワート:はずれ。大事なのは、ごく平均的な、庶民のふりをすることだ。

バイデン副大統領:父は台所のテーブルに座って「この町には仕事がないから、引っ越さなければならない」と言いました...

チェイニー元副大統領:高校も卒業できなかった私の祖父は...

ジョン・エドワーズ:私は工場労働者の息子です...

アル・シャープトン牧師:私は工場労働者にもなれなかった男の息子だ!

オバマ大統領:私の父は留学生で、山羊飼いをしながら育ちました。

スチュワート:山羊飼い!山羊飼いだよ!彼が勝ったのはこれが理由だ!「父は山羊飼いだった」に勝てるか?「糞掘り鉱山の労働者だった」とでも言う?(※)

オリバー:たしか、そういうのもあったと...

デビット・キャメロン保守党党首:私の母はニューブリーで30年間治安判事をしていました。

スチュワート:ニューブリーの治安判事?ホームレスを追い出すことを職業としていたみたいじゃないか!

オリバー:ニューブリーは実際、気取った地域だから、もしホームレスがいたら、そうかもね。事実だ。

スチュワート:だめだって、もっと庶民派じゃないと!次に必要なのは、「普通の人々から聞いた話」だ。「私はある女性に会いました。彼女はローンが払えず、腎臓も売り払い、彼女の子供たちは歯のない口で私への力強い支持を語ってくれました」...とかなんとか。

オリバー:そういうのもあったような...

キャメロン:私はクロスビーで、泥棒に遭った女性から話を聞きました...

クレッグ:ロンドンで会った若い男性のアパートは、5回も泥棒に入られたそうです...

スチュワート:泥棒?泥棒?ノッティンガムの代官(※)にでも投票させたいわけ?(中略)

スチュワート:まだまだだね。たしかに照明はコントラストが効いてるけど、観客は50年代ぽいし、スタジオに国旗も飾ってないし、司会の名前が「アリステア・スチュワート」?「スチュワート」って、どういうラストネームだよ。

オリバー:その通り。

「アリステア」の方が、いかにもイギリスっぽい名前ですけどね。現在のイギリスの財務大臣が「アリステア・ダーリング」という名前で、私はその名前を聞くたびに(ニュースの内容とは関係なく)なんとなく英国オタク心を刺激されてしまうんですが(笑)

スチュワート:アメリカでは、肝心なのは討論会じゃなくて、あとのテレビニュースの報道の方だ。タッチスクリーン、ホログラム、こういう「シチュエーション」のためにわざわざ丸ごとデザインされたスタジオの「ルーム」(※)...まあ、これは上級編だから、君たちにはまだ早いね。あと数年したら戻っておいで。

オリバー:えーと、そういうのはもうあるんだけど...

イギリスのテレビ:「首相にふさわしい人」の投票結果は...ここで「浮動票メーター」を見てみましょう...

オリバー:「シチュエーション・ルーム」、君のママとやったのはこいつだよ!最新技術を使った、フルスクリーンのCGに、ホログラム・ベースに3Dグラフテクノロジー!何を表しているかわかるか?NO!意味はあるか?もちろん意味なんかない!

スチュワート:....あれ、欲しい...

オリバー:残念だねお嬢ちゃん、あれが最後だよ。

スチュワート:くそっ!負けた...カナダの気持ちがわかってきた...

オリバー:視聴者とニュースキャスターのライブ・インタラクティブもあるよ!

イギリスのテレビ:こちらのサイトにご意見をお寄せ下さい...

オリバー:町に新しいブルドッグが来たぞ!ワンワン、アゥ〜〜

スチュワート:それブルドッグ?雄鶏かと思った。

オリバー:イギリスのブルドッグはこう鳴くんだ!

スチュワート:本当にリアルタイムなの?視聴者の意見の事前チェックは?

オリバー:本当のリアルタイムだ。チェックしてる時間なんかないよ。

スチュワート:さっきの、最後の意見をアップにしてくれる?ジョン、読んでくれないか?

イギリスのテレビへの視聴者の意見:「キャメロン、おまえは最高級のC**T(※)だ。馬鹿さ加減をクレッグに暴露されてろ。」

オリバー:いいよ。「キャメロン、おまえは最高級のC...」あ〜〜

スチュワート:やっちゃったね。太陽の近くを飛びすぎたみたいだね!こういうのを扱うには、10年早いようだね!

オリバー:まだ勉強の機会はあるよ。まだ2回討論会があるし...

スチュワート:あと2回?選挙はいつなの?

オリバー:二週間後(in a fortnight※)だけど。

スチュワート:いつだって?

オリバー:今から二週間後(in a fortnight)だ。

スチュワート:英語では、いつなの?

オリバー:二週間(Two weeks)。

スチュワート:ありがとう。キャンペーン期間は?

オリバー:1ヶ月間。

スチュワート:1ヶ月だって!?選挙を全部、1ヶ月でやってしまうって?民主主義のことを、何にもわかっていないようだね!ルーキー!

オリバー:もう行っていい?

スチュワート:もう行ったのかと思ってた。

2年間の長きにわたって国中がなかば集団ヒステリー状態になるアメリカの大統領選より、イギリスの選挙の方がずっといいですけどね、私は。アメリカ・イギリスどちらの政治制度にも長所も短所もありますが、アメリカの選挙とか見ていると、日本はアメリカじゃなくてイギリスをお手本にしておいて本当に良かったと思います。日本には合わないですよ、大統領制って。

それと、アメリカ人も他の国の人も、「イギリスでも初めてテレビ中継の党首討論が行われた」と言っていますが、イギリスの党首たちっていうのは毎日のように国会でガンガン激論を交わしているし、それはちゃんとテレビ中継されているのですよね。だから、ほかに直接対決の場がないアメリカの大統領候補たちの討論会とは、かなり意味合いが違うことは注意しておかなければなりません。

でも、メディアの大騒ぎや派手なビジュアルだけはあっというまに伝染してしまうってあたりは...どこの国にも軽薄なところはあるのね、とちょっとほっとしたりして(笑)。

追記:と、ここまで書いたら、ブラウン首相がマイクが入ってるのを知らずに一般人の女性を「bigot(差別主義)」と呼んだという「スキャンダル」が大騒ぎに。どうやら、たしかに、メディアはすっかりアメリカナイズされているようですね...

※テリー(Telly):イギリス英語でテレビのこと。アメリカ英語ではティーヴィー(TV)。

※社会コメンテーター(Social Commentator):先日、「デイリー・ショー」で批判されたFOXニュースのバーニー・ゴールドバークというコメンテーターが、反撃として「コメディだけやっているのならいいが、本当に社会コメンテーターになりたいのなら、左派の人間も批判すべきだ」というような発言をした。(The Daily Showをちゃんと見ていれば、ジョンがキース・オルバーマンのような「左派」の人々も、民主党の政治家も容赦なくおちょくっているのはわかるはずなんですけどね。)ジョンのこれに対する答えは、「コメディアンはコメディを通じて社会にコメントするもので、それはもう何千年も前からそうだよ!ぼくは『コメディの箱』を出て『ニュースの箱』に入ろうとした覚えはない。『ニュースの箱』の方がぼくに近づいて来ているんだ!」

※糞掘り鉱山(Turd Miner):2004年の民主党大会でバラク・オバマが彗星のように現れた時、「私の父は山羊飼いだった」という言葉が話題になった。当時まだThe Daily Showの特派員だったスティーブン・コルベアとジョンはそれにひっかけたセグメントをやったが、それはThe Daily Showのジョンとスティーブンの数々のセグメントの中でも屈指の傑作となった。(...けど、あまりにアブナイ言葉が多すぎて翻訳困難です^_^;)

http://www.thedailyshow.com/watch/wed-july-28-2004/bootstrap-story

ノッティンガムの代官:ロビン・フッドの悪役。イギリスの政治家たちが使った「burglar(泥棒)」という言い方は、アメリカ人には少々古臭く感じるのかも。「robbery(強盗)」、「home invasion(侵入強盗)」の方が、深刻な社会問題っぽい。burglarだと「盗賊」という感じで、ロビン・フッド(「盗賊王子」とも呼ばれる)とか連想するのかも。「代官」というのは英語ではsheriffで、アメリカでは「保安官」という意味になるし。

※シチュエーション・ルーム:CNNの番組。

※C**T:いわゆるCワード。Fワードぐらいなら一つの文章に3つは使うという口の汚い人でさえ、聞けば一瞬凍りつくという「卑語の女王」。これ、デイリーショーの画面では消されてますけど、イギリスのニュースでは生だからばっちり画面に出ちゃったのだと思います。

※Fortnight(二週間):アメリカ人って「Fortnight」という言葉を使わないんだ。ふ〜〜〜ん(<ちょっと偉そうに)