言論の自由(今週のThe Daily Show with Jon Stewart)

"The Daily Show with Jon Stewart"と"The Colbert Report"は、ケーブルテレビのコメディ・セントラル(Comedy Central)で放映されています。コメディ・セントラルと言えば、日本では両番組よりずっとおなじみの、アニメ「サウスパーク」を放映している放送局です。

サウスパーク」は最近のエピソードでモハメッド(ムハマンド)を登場させたことで、イスラム過激派からインターネット上で死の脅迫を受けたことがニュースになりました。コメディ・セントラルはこれを受けて、問題のエピソードの問題部分を修正したのですが...

サウスパーク」のクリエーターであるマット・ストーン&トレイ・パーカーのために、友人として、また「コメディ・セントラル」の同僚として、ジョンが作ったセグメント。

The Daily Show with Jon Stewart 2010/4/22 South Park Death Threats

尚、このセグメントに出てくる「聖歌隊」は、FOXニュースのあるアホで偽善的なコメンテーター(バーニー・ゴールドバーク)に対して前々日にジョンが使った聖歌隊の再登場です。(前段を確認しておきたい人はこちら→ The Daily Show with Jon Stewart 2010/4/20)

スチュワート:よい友人で同僚のマットとトレイが、「サウスパーク」の放映でちょっとしたトラブルに巻き込まれたことは知っているね。「トラブルに巻き込まれた」っていうのは、「死の脅迫を受けた」ということだけど。

...修正したのは「コメディ・セントラル」の選択で、従業員が被害を受けることのないようにという配慮からなのだけど...でも、その同じ従業員を「Mind of Mencia」や「Krod Mandoon」で働かせた後なんだけどね。もう手遅れだよ!

「コメディ・セントラル」にも面白くない番組はあるのです(笑)

スチュワート:とにかく、雇い主だから。しかし、すばらしく面白い、知的で心やさしいコメディの同胞であるマットとトレイが、自分たちの考えを表現しただけで陥ったこの困難な状況を考えてみて、一番印象的なのは、彼らが受けた脅迫は、「革命イスラム教徒」という、ニューヨーク・シティを本拠とするグループからのものだったということだ。ああ、その通り!

このグループは、ワールド・トレード・センターの影...いや、かつて影があったところにいるのに、オサマ・ビン・ラディンを称賛し、9/11の記念日を祝い、「サウス・パーク」のクリエーターを怖がらせようとするのも許されている。すてきなブロードウェイの劇場街や、世界各国の料理が楽しめるレストランや、世界一のユダヤ式デリも、高架鉄道の跡に新しくできたハイライン・パークも楽しめる!すごく狭い空中の公園なんだぞ!フリズビーでもやろうものなら...「おーい、投げあげてくれ!」

彼らは、そういうの全部を楽しむのを妨げられない。それも全部、この国の人々が、たとえ彼らのものであっても、言論の自由を大切に守っているからだ!【観客喝采

このサウスパークへの反応を見ていると、われわれ自身も、宗教関係の人々にお詫びをしなければならないことに気がついた。彼らの宗教に関してジョークを言ったことを謝るんじゃないよ。彼らがいかに理性的に対処してくれていたか、今まで十分感謝していなかったことに対してだ。正直言って、われわれは本当にイジワルだったからね!たとえばユダヤ教に対しても...

(ここから、かつてのThe Daily Showのコーナー「今週の神様(This Week in God)」を中心とした宗教ジョーク特集。ユダヤ教キリスト教カトリック、ルーテル派、エホバの証人、モルモン)、ヒンズー、仏教、チベット仏教ブードゥー教無神論アーミッシュサイエントロジー、etc...)

スチュワート:これについて、「シニア・イスラム教特派員」のアッシフ・マンドヴィに話を聞きましょう。アッシフ、サウスパークの件についてどう思う?

アッシフ・マンドヴィ:うーん...ぼくが世界中全てのイスラム教徒の代表だとでも?

スチュワート:あー、この建物の中では、実際...君の個人的感覚ではどう?モハメッドに対する、ある種の表現は気になる?

アッシフ:ジョン、ぼくはかなりリベラルなイスラム教徒だ。それはつまり、ラマダンの期間中、日が暮れる前にこっそりダイエット・コークを飲むってことだ。でも、たしかに不快にはなるし、怒る人がいるのも理解できる。

スチュワート:アニメでも?

アッシフ:ああ。でも、もっと不愉快なのは、誰かが、ぼくが信じている宗教の名のもとに、そういう表現をした人を脅迫することだ。

スチュワート:どうして?

アッシフ:それは、(a) そういうのは、あまりに12世紀だから (b)こういうスーツを着て歩かなきゃならなくなるのが嫌だから!(背中が星条旗になっているスーツを見せる)

スチュワート:わざわざ作らせたの?

アッシフ:いや、トミーヒルフィガーのブランドだけど...わざわざ買ったんだぞ!

スチュワート:ありがとう。アッシフ・マンドヴィでした。

結論として、「革命イスラム教」に言うことはあと一つしかないんだ。このフレーズを使うことには、ためらいがあるのだけど...今まで、他の人たち、FOXニュースとか、バーニー・ゴールドバークとか、(ジム・)クレーマーとか、まともにサラダを作ることができない5番街のレストランとかに対して使ってきた言葉だから。そういう人たちを、「革命イスラム教」のような過激派と一緒にはしたくない。怒っている時、論争をしている時でさえ、FOXなどの人々は、ただ我々と意見が違うだけの、ちゃんとした人々だ。論争相手、ライバルではあっても、「敵」ではない。「革命イスラム教」が示しているような憎しみと不寛容、それこそは敵だ。というわけで...

(音楽が始まり、「聖歌隊」が登場)

スチュワート:あんたらに言いたいことがある...

聖歌隊GO...

スチュワート:ケーブルテレビを持っているらしいから...

聖歌隊F**K...

スチュワート:そして、政治や宗教の名のもとに死の脅迫をするような人間全部に...

聖歌隊YOUR-SELVES!!

まことに美しいFワードでした。「ピー」音なしで聴きたいものです。

ジョンが「サウスパーク」のマットとトレイのことを「コメディの同胞(comedy brethren)」と呼んだのも嬉しかったのですが、彼が言論の自由について言ったことが、ことのほか心に響いたのです。「私はあなたの意見には反対だが、あなたがそれを言う自由のためには死ぬまで戦う」という言葉を思い出しました。

私は通常は、アメリカの(日本のもですが)「愛国的」な言辞にはだいぶん醒めた見方をしてしまうのですが、アメリカ人が言論の自由を真剣に考え、真面目に守っていて、それを誇りに思っていることはわかるのです。だからこそ、ほかならぬニューヨークでオサマ・ビン・ラディンを称賛し、9・11を「勝利として祝う」グループでも、逮捕もされずウェブサイトも閉鎖されず自由に発言を続けられるのに...クマの着ぐるみを着たマホメットがアニメに登場しただけで死の脅迫?

言論の自由とは、どんなにアホなこと、クレージーなこと、道徳的に間違っていること、卑しいこと、下品なこと、ある人々を不愉快にすることでも「言う」ことは許されるということですが、殺すとか暴力をふるうとか脅すことは含まれていません。それは犯罪。

「GO FUCK YOURSELF(YOURSELVES)」というのはもちろん卑語ですが、脅迫ではありません。「そんなアホなこと抜かしてねえで、さっさとどっか行って自分とFUCKでもしてろ!」という、解剖学的に不可能なことを提案しているだけですから(笑)。

だから「革命イスラム教徒」も、「偉大な預言者を侮辱しやがってこのアニメ屋めGo f**k yourselves!」とでも書いておけば、それは言論の自由の範囲内なのよね。

モハメッドでも天皇でもそうですが、こういうタブーになってしまっているものを打ち破るには、みんなが、できるだけ多くの人々が自由に発言・表現するようにするしかないんじゃないかと。脅迫する方も、相手があまりにも大勢になれば、いちいち脅迫してまわるわけにゆかなくなるんじゃないかと。難しいかな〜。